第十話 君の熱、重なる体温
「……なつ……?」
静かに目を伏せた菜月は、「はぁ……」と浅く息を吐いた。
引き寄せられるように顔を近づけると、身体から立ちのぼるような熱気が肌を刺す。
私はそっと額に触れ、そのまま頬を包み込んだ。
じわりと伝わる異様な体温。
(……何度くらいあるんだろうか? 体温計で測った方がいいな。)
「なつ……これ、脇に挟めるか?」
救急箱から取り出した体温計を手渡すと、菜月は受け取った側から、ぽとりと布団の上に落としてしまう。
「……ん。落としちゃった……」
(力が入らないのか……)
「……手を、入れてもいい?」
体温計を手にして菜月に尋ねると、上気した顔で小さく頷いた。
私は呼吸を整え、菜月のダボダボなTシャツの裾から手を差し入れた。
タオルで拭いたが、まだ少し湿り気を帯びている。じわりと伝わる熱い脇の下に、慎重に体温計の先端を滑り込ませると、指先に菜月の肌が触れた。
「……っ。だめ、痛い……」
体温計が刺さったようだ。
「……痛い? ごめんね……」
少し角度を変えて差し込もうとするが……。
「痛っ! ……そこ、食い込んでる……」
眉を顰ひそめて睨みつけてくる。
「……っ! ごめん!」
私は赤面しながら、指先で位置を確かめる。
不意に、菜月が弓なりに身体を反らせた。
「……んっ!」
(……えっ!?)
驚いて菜月の顔を見る。
「だめだって。そこ……くすぐったい……」
悪戯っぽく笑って、下唇を甘噛みする。
私は言葉を失い俯きながら、さらなる深みへ進めた。
指先でトントンと合図する。
「……ここ、大丈夫かな?」
菜月は頷いて答えた。
「……んっ。……そこ、いいよ……」
ピピピと電子音が響く。
ゆっくりと引き抜いて表示画面を確認する。
(……38.5度……? まだ上がるかもしれないな……)
菜月は目を閉じたまま、浅く呼吸を繰り返している。
「……なつ、病院に行くか? 辛いだろ……」
「いやだ。病院は……行きたくない……」
菜月は弱々しく頭を振り、私の手にすがるよう、ぎゅっと握りしめてきた。
「怜。……寒いから、僕をあっためてよ。……おねがい……」
全身を小さく震わせる。
(このまま放置して、いいのか? とりあえず、身体を温めてやろう……)
「……わかった」
意を決して、掛け布団の端を持ち上げた。
滑り込んだ布団の中は、むわっと暖かい。菜月から発する熱を感じる。
私は、菜月の震える身体を包み込むように寄り添った。細い身体を抱き寄せ、左手で肩を抱く。
「……んんっ……あったかい……。気持ちいい……」
菜月は安心したように息を吐くと、私の胸元へ顔をうずめた。細い腕がそっと腰へ回される。
「……はぁ、はぁ……」
荒い呼吸が服越しに伝わるたび、私の鼓動まで速くなっていく。
一つの布団の中で重なる、ふたつの体温。
心臓の早鐘が、嵐の夜の静寂の中にいつまでも響き渡っていた――。




