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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第6章】正しさの果て
40/41

★最終話★ 主人公

★最終話★ 「主人公」




誰もいない大型ショッピングモールの駐車場入口に、

2人のアーマー装着者が向かい合っている。

挿絵(By みてみん)


「なるほど。おそらく実宝院じっぽういんが使用者認証をしたんだろうけど、

 そのアーマーは君では扱えないと思うよ?」




——2秒の壁(クライシス・ディレイ)


今在いまざい 征儀せいぎが装着したアーマー、

”強化外装イフェクサー”に備えられた機能。


使用者がアーマーをまとった状態で体を動かそうとすると、

実際に脳の電気信号が運動神経に到達してから

さらに「2秒」を要する代わりに、各部のパワーを増幅させる仕様。


この2秒の遅延は、使用者が誰であっても必ず強いられ、

機能を解除することはできない。




——ちなみに、冷泉れいぜいが装着している

実質的な後継アーマーである”強化外装ジェイゾロフト”には

2秒の壁(クライシス・ディレイ)可変(ヴァリアブル)

が搭載されている。


オリジナルとの違いは

「遅延秒数の固定はなく、その場で自由に脳波入力により、都度、設定する」

という点。


圧倒的に多彩な戦術が可能となる。


これに加え、ジェイゾロフトは「ブースター」パーツを

前後左右および背中に装備しており、飛行することが可能である。




「しかも、昨日のグリード戦による破損後、

 修理が間に合っていない状態で挑んでくるとはねぇ。」


「あぁ。右半身だけは、そのなんたらディレイが動作していて、

 左半身は壊れたまま動作していないぜ!」


「一応言っておくけど、俺が装着しているアーマー”ジェイゾロフト”は、

 君が装着しているアーマー”イフェクサー”の後継機にあたる。

 遅延秒数も自由に選べるし、飛行能力も有する。

 君が圧倒的不利な状況にある、というのは伝えておくよ。」



今在いまざいはそれを聞くと、

左手に握った刀を冷泉れいぜいへと向ける。




「俺様は会話が好きじゃないから、そろそろ始めるぜ!!」


そう言うと、今在いまざいは、左手に握っていた刀を杖代わりにして、

片足立ちジャンプで距離を詰め、接近してくる。




「フッ。さっきから君は思慮深いタイプだとは思っていなかったけど、

 やっぱりそうするしかないよねぇ?」


冷泉れいぜいは小馬鹿にした様子を隠さず言うが、

今在いまざいは反応せず、みるみるうちに距離を詰める。




「正義!正義!アイ・アム・ジャスティス!!」


今在いまざいが叫びながら、左の拳を顔面めがけて繰り出す。



冷泉れいぜいは悠々と右前腕を顔に被せるように、防御の構えを取る。


攻撃がヒットした瞬間、予想だにしない衝撃が腕を駆け抜け、思わず声が漏れる。


「・・・ん!?」


冷泉れいぜいは早歩きで後退した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




・・・何だ、この威力は・・・!?


ヤツの左半身は、ただ鎧を着ているのと同等で、

増強はかかっていない。


つまり「等倍」でこの威力を発揮している、ということになる。


今の一撃で、ジェイゾロフトの右前腕の

ブレード展開ユニットが故障し、展開不能に陥った。




・・・この男は、一体どれだけの筋力を誇るのか?


無論、ジェイゾロフトの装甲を貫通するほどではないが、

ブースターなどのユニット類は、当たりどころが悪ければ

右前腕のブレード展開ユニット同様に破壊される危険がある。




当初、私はヤツの右肩に備えられている

「パワー増強ユニット」を優先して破壊するつもりだった。


破壊によって、右半身の強化機能も使用不能になり、

イフェクサーはその優位性を失って、完全にただの鎧と化すからだ。



しかし、ヤツの場合は逆に右半身を自由にさせることで

機動力が底上げされ、総合的な戦闘力が向上する危険性がある。



何としてでも、右肩は破壊せずに決着を付ける必要がある。



対する俺のアーマーも無傷ではない。


腰の前後左右および背中の、全5箇所に設置されたブースターのうち、

腰の前方ブースターは、先のグリード戦で損傷している。


仮に、背中や後方のブースターをフルで起動させて突進したとしても、

ブレーキが効かない状態にある。




ヤツは「左右で反応タイミングが異なる」という制約を強制されている。


いくら元の筋力が規格外とは言えども、

大きなハンデを負っていることに変わりはない。


・・・この状況で負けるとは考えにくい。


だが、もしヤツがそのタイミング差に完全に適応した場合、リスクは大きい。


この戦いは、早めに決着を付ける方が安全だろう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




冷泉れいぜいはブースターを噴射し、一気に上空へ舞い上がっていく。


そして数十メートル上昇したところでターンし、

今在いまざいめがけて急降下する。




——2人の距離は残り10メートル。


左前腕のブレードを展開した瞬間、

今在いまざいは左手に握った刀を瞬時に構え、刃を合わせた。


その瞬間、互いの刃先が折れ、

勢いよく回転しながらアスファルトへと突き刺さる。


冷泉れいぜいは反撃を警戒し、今在いまざいの横を

ブースターの威力を維持してそのまま高速で擦り抜け、

100メートルほどの距離を取って足で着地した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




俺がブレードを展開することを読まれたわけではないだろう。


あの刹那、俺の動きを察知し、それに合わせて刀で応じたように見えた。


社会貢献度の目視の件といい、

いわゆる「野生の勘」のようなものが冴える体質の可能性もあるが、

そもそもの運動神経が並外れている。




右前腕のブレードは故障で展開不可。


左のブレードは刃自体が破壊された。


こうなると、単純な手足、もしくは体の接触による直接攻撃でしかヤツを倒せない。




接近は極めて危険だ。


イフェクサーの2秒の壁(クライシス・ディレイ)は一撃必殺の威力を生む。



もしも仮に、あのただでさえ桁違いの筋力を

さらに増強した打撃をまともに食らえば、確実に戦闘不能に陥る。




・・・どうする?


グリード戦のように

「遅延秒数を発声しつつ、脳波入力で実際の遅延をずらす」戦法は、

おそらく感覚で戦うタイプのこの男には通用しない可能性が高い。


ヤツが反応しきれないスピードで加速しつつ距離を詰め、

相手の攻撃が届く前に打撃を打ち込めるか・・・?



こちらは先のグリード戦で前方ブースターが故障しており、

実質ブレーキを踏めない。


もし今在いまざいが、相打ち覚悟で、

右半身の強化パンチもしくはキックを繰り出してきた場合、

自分も無事では済まない。死ぬ可能性は十分にある。




ヤツの左半身は遅延なしで動く。


俺が急接近すれば、左半身が何らかの反応を見せるはずだ。

そのタイミングで、ヤツは右半身への動作入力を反射的に行うだろう。


そこから2秒後に右半身による強化攻撃が来る。



・・・問題は、その攻撃がどの方向に放たれるか、だ。



普通なら、角度を変えてくる可能性もある。


だが、今のヤツは左足でしか瞬時の反応はできない。


体重移動が大きく制限された状態では、

最も力を乗せやすいのは「正面へのストレート」だ。



加えて、感覚で戦うあの男のような人間は

急な接近に対して「相手のいる方向を殴る」という

単純な入力を選びやすい。



・・・やはり、正面に攻撃が来る可能性が高い。


そこで側方のブースター噴射により位置調整を行い、

高速でヤツのサイドへと回り込み、サイドから拳を叩き込む。


これが、現時点で最も勝率が高い方法だ。

多少の軌道修正をされても、掴みに移行できる余地は残しておく。


——これが、おそらく最も勝率が高い方法。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




冷泉れいぜいは覚悟を決めた。


残存ブースターを最大限に噴射し、再び上空に向けて一気に加速する。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




——遅延秒数として「8秒」を脳波により入力。


これにより、私の脳から発せられた電気信号が、

運動神経に到達してから「8秒」後に増強した動作を実行するモードへの設定が完了。


あとはブースターで距離を調整しつつ、一撃で勝負を決するのみ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




冷泉れいぜいは遥か上空から一気に急降下を開始。


今在いまざい目掛け、一直線に、急速に距離を詰める。




——残り15メートルほどにまで接近したその時、

冷泉れいぜいの予想通り、今在いまざいの左半身が反応する。


それと同時に、右肩の増強ユニットが回転を開始する。


すなわち、右半身の動作が予約されたという証拠。


体がわずかに捻られ、左腕が動く。




——勝った。


その確信を持って冷泉れいぜいが側方ブースターを切ろうとした、その時だった。



今在いまざいの右足が、地面を強く蹴った。


イフェクサーの2秒の壁(クライシス・ディレイ)による増強が乗った右足が、

一瞬で伸展し、彼の体が大きく後方へと弾かれる。


予想していた正面へのパンチでも、

冷泉れいぜいの動きに合わせたサイドへの咄嗟の反撃でもない。


明確な「後退」だった。



冷泉れいぜいの計算が、音を立てて崩れる。



——急接近に対して、攻撃ではなく防御を選ぶ。


冷泉れいぜいは彼の言動から、彼のことを

攻撃的で、感覚的で、一直線な男だと分析し、そう思い込んでいた。


だからこそ「反応するなら攻撃で返してくる」以外の可能性を、

完全に排除していた。


今在いまざいの体が急速に遠ざかる。



——このままでは8秒遅延の必殺の打撃が命中しない。


冷泉れいぜいは、土壇場で判断を変えた。


側方への旋回を捨てる。


代わりに、すでに入力していた「8秒遅延」の右拳を、

今在いまざいの腹部へ一直線に叩き込む軌道へ修正する。


ブースターの残り推力をすべて前方へ押し込み、体を強引に相手へ寄せた。


距離が、限界まで詰まる。


予定通り、冷泉れいぜいの増強された右拳が、

今在いまざいの腹部にめり込む。


鈍い破裂音とともに、一瞬にしてイフェクサーの正面の装甲にひび割れが走り、

腹部を中心として装甲が弾け飛ぶ。


金属片が夜の空気に散った。



——決まった。


そう思った、次の瞬間だった。


今在いまざいの左手が、冷泉れいぜいが放った右腕の

「手首」を正確に捉えていた。


後退の勢いを殺さないまま、力強く握り、固定する。



「なっ!?」


「アイ・アム・ジャスティス!!!」


すかさず、今在いまざいの右手が振り抜かれた。


2秒の遅延を経た、イフェクサーの増強された右拳による必殺の一撃が、

ジェイゾロフトの胴体を直撃する。


そのまま胴体に深くめり込み、藍色の装甲の破片が飛散すると共に、

鮮血が夜の空気に飛び散った。


冷泉れいぜいの体が、勢いよく弾き飛ばされ、

駐車場を横切り、勢いのまま大型ショッピングモールの外壁に激突した。


コンクリートが大きく砕け、粉塵が立ち昇る。


ジェイゾロフトの装甲を纏ったまま、

冷泉れいぜいの体が壁の中にめり込み、静止していた。


ひび割れた藍色の装甲の隙間から、赤い血が伝い落ちる。

胸部の装甲は大きく歪み、内部から滴る鮮血が装甲の表面を伝って地面へと落ちていった。



冷泉れいぜいは血に染まったアーマーを纏ったまま、

破壊された壁に埋まった状態で微かに息をしていた。




——やがて、足音が近づいてくる。


イフェクサーの装甲もまた、腹部を中心に大きく破損し、

随所から火花を散らしていた。


今在いまざいが、よろめきながら冷泉れいぜいの前に立つ。



「俺様の勝ちだ・・・!!」


冷泉れいぜいは、血の混じった息を吐きながら、ゆっくりと目を開けた。


「・・・そのようだねぇ・・・。」


掠れた声が漏れる。



今在いまざいは、静かに続ける。


「さっきパンチを放った時、俺様は思い出した。

 ・・・俺様は何度もこうやって、繰り返し、お前を殺してきた。」



冷泉れいぜいの瞳が、わずかに揺れる。


「・・・意味が、分からないねぇ。

 当然だけど、俺が死ぬのは、これが初めてだ・・・。

 もしや、君は、神様か何かなのか?」


息も絶え絶えに訊く冷泉れいぜいを横目に、

今在いまざいは夜空を見上げる。




「俺様は・・・この世界の”主人公”だ!」


その瞬間、今在いまざいの視界が、急に歪み始める。


色が溶け、音が遠のき、世界の輪郭が崩れていく。




——無機質な謎の文字列が、視界の端に連続して浮かび上がる。


それらはすぐにノイズとなって視界の端に向かって消えていき、

まるで走馬灯のように記憶の物語が次々と流れていく。











——今在いまざいは瞬きをした。




「・・・ん?」


目の前には、見慣れた校門がある。


先ほどの決戦など、まるで最初から存在しなかったかのように、

記憶の奥へと沈んでいく。


体の痛みはとっくに消え去り、

すぐに、その概要すらも思い出せなくなっていく。




「・・・。」



見ると、200メートルほど前方に俺様が通う城北大学の校門が見える。


そして、校門の前では、初老の男性と大学生らしき若者が

何やら口論をしている。




——そうだ、あのジジイを殺そうとしているんだった。




今在いまざいはふと自分がやるべきことが脳裏によぎり、

今さっきまで自分が大学への通学途中だったことを思い出す。



今在いまざいは駆け出し、拳を握り締め、初老の男性に叫びながら飛びかかる。


「アルティメットォォォォ・・・ジャスティィィィス!!」






——閉じた世界の中で、彼自身が主人公となる、

彼の「理想の物語」は再び、回り始める。


これからも、何度でも。






★最終話★ 「主人公」 完結

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