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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第6章】正しさの果て
41/41

★エピローグ★

★エピローグ★




——薄暗い研究室に、低い電子音だけが満ちていた。


天井近くまで積み上げられたラックには、

無数のケーブルが蛇のように這い回り、

床に埋め込まれた冷却ユニットが規則正しい振動を発している。


壁一面を覆うモニター群には、波形と数値、

そして無数の小さな映像ウィンドウがひしめき合っていたが、

その内容はノイズ混じりで、詳細を読み取ることはできない。


挿絵(By みてみん)


その中央に、整然と並ぶ「カプセル」がある。


半透明の蓋を閉じた細長い装置が、まるで棺のように並んでいる。


その中には人間が横たわっている。


目を閉じた顔だけが、わずかにガラス越しに覗いている。


額やこめかみには細い電極が貼られ、首筋から伸びる複数のケーブルが、

床下のメインフレームへと消えていく。



その部屋に設置されたカプセルの数だけでも、軽く数万個を超えている。


白い白衣に身を包んだ研究者が2人、中央のコンソールの前に立っている。


1人はタブレットを操作し、もう1人は大きなモニターに映し出されたデータを眺めている。




「被検体No.107948。ループ回数は570周目に突入。」


30代ほどに見える男性の研究者が、低く呟いた。


モニターには、とある男性の顔が大写しにされている。


カプセルの中で静かに目を閉じたその表情は、安らかそのものだった。


脳波は安定し、心拍数も一定のリズムを保っている。


画面の隅に開いた小さなウィンドウは、激しく明滅を繰り返しているが、

中身は意図的にぼかされ、何が映っているのかは判別できない。



「570周目にして、よく飽きないですよね。」


もう1人の20代後半くらいに見える女性の研究者が、コーヒーを一口飲んでから言う。



「でも、この被検体は特に安定してる。拒絶反応もほとんどないし、

 記憶の再構築もスムーズだ。

 ”理想の世界”を、ここまで綺麗に維持できるケースは珍しい。」


30代の研究者が、画面に映る男の顔を見つめたまま頷く。




「努力しなくていい。失敗しなくていい。挫折しなくていい。

 他の誰にも邪魔されない。全部自分の思い通りになる。

 ”理想の世界”を、ただ、ひたすらに見続けられる。

 嫌な現実も、苦痛も、病気も何もない。

 ずっと幸せなまま死ぬまで過ごせる。

 ・・・まったく、何というシステムを開発してくれたものだな。」



「この調子だと、やがて日本中の人々が

 この”リアライズ・カプセル”を求め、契約しに来る日も近いでしょうね。

 我々”Heaven's Door”と。」




——冷却ユニットの音が、一定のリズムで続く。


カプセルの中の人々は、それぞれが閉じた物語の中で、

静かに「理想の世界」を堪能しながら息をしていた。






★エピローグ★ 完結


次回作「惨苦世界」へと続く

お読みいただきありがとうございました。


本作を書き始めたのが2020年7月、完結が2026年8月と、6年以上かけて、ついにエピローグまで辿り着くことができました。


私は本作以外にも過去に3本の小説を投稿していますが、本作を書き始めた当時は「推理ドラマ」にハマっており、本作では「既出の情報から推理して楽しめる」作品にしようと構想を練りました。


推理ドラマ作家の方の話をYouTubeで聞いた際、「黒幕は絶対に1話に登場していないとおかしい」と話しており、本作もそれに従いました。


その上で、以前からやってみたかった「主人公だと思っていたキャラが、実は主人公ではなかった」という要素も入れました。


プロローグから登場していた今在いまざい 征儀せいぎは、なぜか目視だけで社会貢献度を判定できる、そしてその基準は冷泉れいぜい 奏多かなたが勝手に作ったものである、ということで「今在いまざいが何かしらキーマンなのではないか?」とプロローグ〜1話から気付けるように仕組みました。



もちろん「主人公だと思っていたキャラが、実は主人公ではなかった」という作品は、私自身は見たことがないので、実際に自分でやったらどんな感じになるんだろうか?と実験的なニュアンスも込めて書きました。


今在いまざいはキチガイキャラなのに全てが彼の思い通り、順調に進む、何かおかしい」そんな違和感を覚えながら読んでもらえていたら嬉しいです。



最後の冷泉れいぜい今在いまざいが戦うことはもう最初から決まっており、2人の正義にどう説得力を持たせるか、どうやって対立構造を作るか、というのは非常に悩みました。


本音を言うと、冷泉れいぜいをもっと「分かりやすい悪役」として描きたかったというのはあります。


しかし、彼に感情移入してしまったせいで上手く書けなかったな、と思う箇所は正直多いです。



「ルールを守る」ことに拘っていた今在いまざいも、最終的には「第二世代モバイルポットによる殺人は実質的に許容されている」という、冷泉れいぜいが使っていた抜け道を自身も使います。


これは、結局のところ、彼が小学生の頃に抱いた「”利他”のためなら何をやっても良い」という思想が滲み出ており「人間の根っこの性格はそう簡単には変わらない」ということを表しています。


ちなみに、「社会のため」と言いつつも、自分が都合良く解釈して「摘人政策」を考案した冷泉れいぜいも同様です。




次回作については、もうだいぶ案が固まってきてはいますが、執筆できるのは少し先になる見込みです。

もしよろしければ、また読んでいただけると嬉しいです。


それでは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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