表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第6章】正しさの果て
38/41

★第32話★ 征儀の正義

★第32話★ 「征儀の正義」 




・・・誰もいない大型ショッピングモールの駐車場入口。


避難が完了した後の空間は、静まり返っていた。


街灯の明かりだけが、アスファルトの上に淡い円を落としている。


その入口の前に、二人の男が向かい合って立っていた。




「ようやく会えたな!冷泉れいぜい 奏多かなた!!」


声を放ったのは、今在いまざい 征儀せいぎ


筋肉質の体躯を、白い半袖シャツと黒のスウェットパンツという

非常にシンプルな格好で包んでいる。


足元には、赤と紫に分かれた第二世代モバイルポット「アラタマ」

および、赤と黄色に分かれた第二世代モバイルポット「メーキ」が

静かに待機していた。




冷泉れいぜい 奏多かなたは、ゆっくりとその姿を見つめる。


自身の足元にも、橙色を基調とした

第二世代モバイルポット「オワリ」が控えていた。




「俺のファン、という訳じゃなさそうだねぇ?」


冷泉れいぜいが軽く肩をすくめると、

今在いまざいは牙を剥くように口を歪めた。


「フザけやがって! 俺様はお前を殺しに来たんだぞ?」


「と言うことは、”第二世代モバイルポットの仕組み”に気付いた、と?」


冷泉れいぜいは眉を僅かに潜める。




「あぁ。俺様は人を見るだけで、その人間の“社会貢献度”が分かるからな!

 第二世代モバイルポットのウェポンモードにより、

 規定値“以上”の人間を殺した場合、

 ”社会貢献度の変動がない”ということも、俺様なら見るだけで分かるんだぜ!」


今在いまざいは一歩、前に出ると、冷泉れいぜいに向かって指差す。




「そして、病院でアーマーに身を包んだ人物が登場した時に確信した!

 これほどまで社会貢献度が高いヤツは、おそらく日本にいないと!」




——人を見るだけで、社会貢献度が分かる。


その発言に、冷泉れいぜいは違和感を覚えた。


社会貢献度は、株式会社LEVOL(レボル)が構築したシステムによって算出される指標であり、

その算出方法は俺が決めている。


個人の行動履歴、経済活動、社会的影響、

そして無数のデータを総合して導き出される数値。


それを「見る」だけで把握できるなど到底考えられない。




・・・冷泉れいぜい今在いまざいの瞳を見据える。


続けて、手、指、足、顔や体の角度等の

ボディランゲージをものの1秒足らずで分析し、

その直後、0.5足らずの間に、彼の発言の真偽についての考察を完了させる。




「とても嘘を吐いているとは思えないねぇ・・・。」


——十中八九、誇張でもハッタリでもない。


だが、冷泉れいぜいの中で一つの疑念が静かに広がっていく。




もし仮に、本当に「見る」だけで社会貢献度を判定できるとすれば、

その理由は大きく2パターンの仮説が考えられる。




——1つ目は、この男が「摘人システムに仕組まれた計算式を把握している」という説。


これはまずありえないと考えて良い。


仮に計算式を全て把握しているとしても、

初対面の経歴も過去の言動も何も分からない人間の社会貢献度を、

その場で算定するのは不可能だ。




——2つ目は、「この男の”善悪に関する思想”が、俺と完全一致に限りなく近いレベルにある」という説。


要するに、「このアクションで社会貢献度が低下する」

逆に上昇する、といった判断基準が俺と一致しており、

現実の人間の言動などから、それを本能的に察知できる、という可能性。


しかし、こちらも本当に「見る」だけで社会貢献度を判定する、

というのはほぼ不可能に近い。


ただし、こちらの説であれば、

未だ解明されていない理論で「野生の勘」のようなものが働くのであれば、

本能的に社会貢献度を判定することは不可能、とまでは断言できないかもしれない。


例として、カラスやナマズは、人間が観測できない要素から

地震を察知できるという。




冷泉れいぜいは小さく息を吐き、足元のポットに視線を落とす。


「オワリ、あの男の社会貢献度は?」


『社会貢献度“9838”。本日の規定値以上、排除対象外です。』




今在いまざいもまた、自分のポットに命じた。


「アラタマ、冷泉れいぜいの社会貢献度を計測しろ!」


『社会貢献度“9838”。本日の規定値以上、排除対象外です。』


同じ数字が、静かな夜の空気に響く。




冷泉れいぜいは、今在いまざいの表情をじっと観察した。


「なるほど・・・君の表情を見るに、

 インチキで社会貢献度を上げた訳ではなさそうだねぇ。

 すると、最初の軽率な『俺を“殺す”』という発言から、

 殺人に抵抗がなく、大量殺人を遂行してきたタイプということかな?」


「あぁ、その通りだ!

 俺様は、殺人で“ドキドキとワクワク”をプレゼントする!」


「ちなみに、今回はなぜ俺を殺害しようと?」


冷泉れいぜい 奏多かなたが、”黒幕”だからだ!!」




冷泉れいぜいは、わずかに首を傾げた。


「・・・分からないねぇ。

 俺のどこが“黒幕”なのか?

 例えば、君の大事な人が摘人政策で第三者に殺害され、

 その復讐として俺を殺したい、なら理解できるけど?」


「復讐じゃない。俺様はルールを守らないヤツが許せないだけだ!」


「ルール?

 確かに摘人政策の考案者の主体は株式会社LEVOL(レボル)

 つまり俺だけど、

 俺の社会貢献度はさっきも確認してもらった通り、高い数値を示している。

 それが、俺が自分で作ったルール、

 すなわち“摘人政策”のルールを遵守していることの証明だと思うんだけどねぇ?」




今在いまざいの声が、一段と高くなる。


「違う!お前は第二世代モバイルポットに細工をして、

 “ルール”の抜け穴を意図的に作ったんだ。

 お前が『殺したいヤツを殺す』ための施策だろ!!」




冷泉れいぜいは静かに、しかしはっきりと答えた。


「どんなルールにも例外を作るのは当然だ。

 社会貢献度という基準はあくまでも、俺という一人の人間が考えた指標に過ぎない。

 完璧な人間はいない、故に、人間が作った基準は将来的にも完璧になることはない。

 つまり、社会貢献度のみでは人間を正しく評価できない。

 社会貢献度が高くても排除した方が公益のためになる人間もいる。

 そのために原始会議を用意し」


「違う! 俺様が言いたいのは、

 そういう“社会のため”とか大義を装って、

 お前が殺したいヤツを殺せるような仕組みを勝手に作っているだけ、という話だ!」




冷泉れいぜいの内面で、静かな波紋が広がる。




——違う・・・。


俺は「社会のため」に摘人政策を考案した。


俺は自分の私利私欲のためではなく、社会のために生きている。


社会貢献度も通常は到達できないほど高水準。


利他の精神が強い人間に第二世代モバイルポットを配り、

例外的にその人間達が「殺すべき」と考えた人間は自由に殺害できるようにした。




——俺の理論は正しい。


もしその例外ルールがなければ、社会貢献度が高い暴走した人間を止められない。


適切な摘人政策を実現するためには、間違いなく監視役が必要。


俺は、俺が決めたルールに沿って、正しく生きている。




今在いまざいは、冷泉れいぜいの目を見据えたまま言葉を続ける。


「お前が摘人政策を考えるに至ったきっかけはなんだ!」




——いとこが亡くなった。


しかし、いとこが亡くなったことを知っても俺は悲しめなかった。


「死んでも良い人間が死んだ」ということにしたかった。


俺は、自分を肯定したかった。




確かに、そこだけを切り取れば俺は利己的な人間と評されても仕方がない。


しかし、それで社会がより良い方向に進んでいるなら何も問題はない。




——汚いパパ活女子を殺害した。


——そこら辺にいた社会貢献度が低い人間を殺害した。


——自分の影武者だった海藤かいどう 郡司ぐんじは、結果的に犠牲になった。


——アヴァラス第6号、5号を殺害した。


——実宝院じっぽういんを殺害した。




全て・・・「社会のため」ならば、何も問題はない。


俺は「社会のため」にここまで進んできた。




「社会のため」なら誰かを利用して、犠牲にして良い。


「社会のため」なら人を殺して良い。




——「社会のため」なら、”何をしても良い”のだ。






「結局、お前が自分を肯定するための理由を突き詰めていった結果、

 社会がより良くなった、と思いたいだけだ!

 社会をダシにして、自分の欲求を追求したいだけだ!」




冷泉れいぜいは、静かに息を吐いた。




「俺はそれに何も問題を感じない。

 そもそも、初対面の君に、それを指摘される筋合いもない。」


冷泉れいぜいの瞳が、わずかに細められる。




「俺様は”悪いヤツ”を倒す!

 ルールを守らないお前みたいなヤツは殺す!」


「良いだろう。

 摘人政策のルールに例外を設ける合理性を理解できない君みたいな人間は、

 社会貢献度がいくら高かろうと、社会にとって害悪だ。」


向かい合う二人の背後に、それぞれのモバイルポットが移動する。




『第二世代モバイルポット”メーキ”・ウェポンモードを起動します。』


『第二世代モバイルポット”アラタマ”・ウェポンモードを起動します。』




『第三世代モバイルポット”オワリ”・ウェポンモードを起動します。』



「「変身!」」


彼らの掛け声に合わせて、計3台のモバイルポットが一斉に半分に開き、

彼らの体にはアーマーが装着されていく。




『適正ユーザー・今在いまざい 征儀せいぎ

 ”成敗せいばいセイバー”の使用は許可されています。

 このまま対象を排除してください。』


『適正ユーザー・今在いまざい 征儀せいぎ

 ”強化外装イフェクサー”の使用は許可されています。

 このまま対象を排除してください。』




『適正ユーザー・冷泉れいぜい 奏多かなた

 ”強化外装ジェイゾロフト”の使用は許可されています。

 このまま対象を排除してください。』




挿絵(By みてみん)

アーマーが完全に展開を終えた瞬間、

誰もいない駐車場の入口に、二人の異形が向かい合って立っていた。











—————その頃、株式会社LEVOL(レボル)本社では—————




「オーライオーライ!ジャンジャン焼くYO〜!

 レッツ・タコパ!!」


誰もいないオフィスの一角で、

株式会社LEVOL(レボル)の取締役である、

合地ごうち アレクセイの大きな声が弾けるように響いていた。

挿絵(By みてみん)



——テーブルの上にはたこ焼き器が1台。


ソースとマヨネーズのボトルが転がしっぱなしで、

青のりが床にまで散らばっている。


窓の外はすでに暗く、街の明かりがぼんやりと差し込んでいた。


身長190センチを超えるアレクセイは、

スーツの上から紙エプロンをつけ、

たこ焼き器の前で汗を拭いながら腕を振るっている。


「ほらほら、タイミング・イズ・エブリシングだぞ!

 焦がしたらノーグッド!パーフェクトに焼けYO〜!!」


周囲には、アレクセイが呼び集めた友人たちが8人、

同じく紙エプロンをつけて座っていた。




「アレクセイ、本当にこれオフィスでやって良いんだよな・・・?」


一人が不安そうに聞くと、アレクセイは親指を立てて笑った。




「ノープロブレム!

 社長のミスター冷泉れいぜいは死んだ。

 実宝院じっぽういんも最近ずっとオフィスに来ていない!

 ここはセーフティ・ゾーンだ!」


「ネクスト・バッチいくぞ!レッツゴー!!」


アレクセイは生地を流し込み、タコを一つ一つ丁寧に配置していく。


その真剣な横顔は、重要な商談をまとめているときとほとんど変わらない。




「そういえばアレクセイ、

 前から『プロジェクトTP』とか言ってたよな?

 なんか怪しいプロジェクトを極秘裏に進めているのだと思っていたけど?」


友人が笑いながら聞くと、アレクセイは得意げに胸を張った。




「オーイエス!!

 そう、”プロジェクトTP”!

 俺がLEVOLに入った真の目的だ!

 長い間、密かに準備を進めてきたんだ!」


「で、結局なに?その”プロジェクトTP”って」


アレクセイはたこ焼き器を見つめながら、満面の笑みで答えた。




「”タコパ”に決まってるYO!TP!

 俺の自宅は狭いから、メニーピーポーでタコパができない!

 俺はこうやってタコパを主催するのが夢だったんだYO!

 イッツ・パーフェクト・プラン!」


友人たちは一瞬沈黙し、それから一斉に噴き出した。




「は・・・?それだけ??」


「そんな理由で冷泉れいぜい 奏多かなたの会社に入社したの!?」


アレクセイは満更でもない顔で、焼けたたこ焼きを次々と皿に盛っていく。


オフィスの蛍光灯の下で、たこ焼きの香ばしい匂いと、

あけすけな笑い声だけが満ちていた。




——かつて酔った勢いで

誤って「アヴァラス2体を生身で葬る」という圧倒的な凶暴性を持つ彼の最終目的が、

オフィスでたこ焼きパーティを主催する「プロジェクトTP」だったとは、

社長の冷泉れいぜいも含め、誰も知る由がなかった。






★第32話★ 「征儀の正義」 完結

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ