表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第6章】正しさの果て
36/41

★第30話★ 真の目的

★第30話★ 「真の目的」





・・・今、私の目の前にいるのは、

間違いなく本物の冷泉れいぜい 奏多かなただ。




「昨日私が倒した冷泉れいぜい 奏多かなたは偽者だった、という訳か。」


私が昨日、偽・冷泉れいぜい

第1号”カスケイド・エンヴィ”との戦闘後に乱入した際、

彼は既にアーマーを装着した状態で私と会話していた。


そして、ヤツを倒した際にはアーマーが損壊したが、

既に頭部は潰れており、原型を留めていなかった。



・・・つまり、私に顔さえ見られず、

声・会話の内容・動作・身長等を疑われなければ、

十分、冷泉れいぜい本人を騙ることができた状況だったのだ。



そもそも、冷泉れいぜいと5年以上の付き合いがある私が、

何の違和感も察知できず騙された、となると、

偽者の”モノマネ”のクオリティは想像を絶するレベルだ。




海藤かいどう君っていうバイトね。

 残念だったよ。

 俺の予想では、グリードも倒せる”ジョーカー”だったんだけどねぇ。」



・・・言われてみれば、確かに不自然さはあった。



私の99.99999(イレブン)9999%(ナイン)という技は、

最低100回以上のシミュレーションをベースに、

相手の動きをほぼ完全に読み、圧倒するものだ。


それにも関わらず、99.99999(イレブン)9999%(ナイン)を発動した直後、

偽・冷泉れいぜいは突然、予想外の動きを見せた。


そのせいで、私は初撃を頭部に食らい、後遺症を負うこととなった。



てっきりそれは、彼が冷泉れいぜいであり、

私の予想を上回る読みを見せたからだとばかり考えていたが、

実際はまったくの”別人”だったのだ。


例えるならば

「英語のテストに、数学の勉強をして臨んでいた」

という訳だ。




・・・では、なぜヤツは最終的には

私の読み通りに動いたのか?




これは私の推測も入っているが、

戦いが進むにつれて、冷泉れいぜいになりきって会話していたせいで、

海藤かいどうという男のモノマネのクオリティが上昇していった。


そして最終的には声だけではなく、

動作や思想までもが本物と遜色ないレベルにまで達した結果、

私の冷泉れいぜい用に対策してきた

99.99999(イレブン)9999%(ナイン)によって完璧に動きを予測され、

敗北、殺害されたということか。




「色々聞きたいことは盛り沢山だが、

 なぜアイガンノーツとして原始会議げんしかいぎの主宰を務めている?

 原始会議げんしかいぎ冷泉れいぜいの社会優先思想を

 徹底的に批判しているはずだが?」



「結論としては”より効率的に、あるべき社会を実現するため”だよ。」



・・・ヤツらしい解答が返ってきたが、

それだけでは全く理解できない。




「ご存じの通り、”社会貢献度”は俺が考案した便利なパラメータだ。

 しかし、社会貢献度はあくまでも

 ”個人の表面的な行動”をベースに算定される数値であるが故に、

 ”内面的な要素”全てを評価値として反映させることはできない。」



「・・・例えば、”利己的な性格だが、行動は善人そのものだから、

 社会貢献度は基準値を上回っている人間”といったパターンは、

 本来、お前が意図した”正確な社会貢献度”が算定されない、ということか。」



「その通り。つまり、そういった人間は

 外部から何らかの働きかけにより、

 利己的な側面を”具体的な言動”として表出させる必要があるんだよねぇ。」



「なるほど。

 原始会議げんしかいぎという”個人優先思想”を重要視する組織を創設し、

 団員たちの私欲を追求することを触発する。

 そして利己的な行動を起こすよう仕向け、

 個々人の内面まで社会貢献度の数値に反映させることが狙いか。」



要するに

”猫を被っているヤツの化けの皮を剥ぎたい”

ということだ。


・・・しかし、そうなると1つの疑問が生じる。




「しかし・・・私には分からないな。

 そもそも、社会貢献度が

 ”個人の内面情報まで反映された数値”である必要があるのか?

 例えば、非常に利己的な思考を持つ人間が、

 社会のためになる何らかの行動を継続している場合、

 その人間は生かしておく方が

 社会全体の”幸福の総量”は上昇するのではないか?」



「確かにそれも一理あるとは思うし、そういう人材も必要だ。

 しかし、俺が真に求める人材は、

 ”存在価値が高く・利他的思考が強い”人間なんだよねぇ。」



”利他的思考”という言葉を、私は冷泉れいぜいの口から初めて聞いた。


・・・おそらく、我々LEVOLレボルの面々にもずっと隠してきたのだろう。




「俺が考案した”社会貢献度”では、

 表出している要素で”人間の価値”を数値化することはできる。

 しかし、利己的・利他的思考の度合いは、

 残念ながら、完璧に計測することはできない。

 ・・・そこで、俺は原始会議げんしかいぎを立ち上げる際、

 当時からアヴァラスの研究開発を進めていた

 広幡ひろはた なぎに目を付けた。」



「・・・”欲望指数”か・・・!?」



「その通り。

 欲望指数は”私欲の強さ”を表すパラメータであり、

 本来はアヴァラスに適合する者を探すために開発されていた。

 だけど裏を返せば、欲望指数が”低い”ほど利他的思考が強く、

 俺が求めている理想像に近い人材、ということになる。」



「・・・それなら、そもそも社会貢献度の算定ロジックに

 欲望指数の評価を反映し、一元化すれば良いのではないか?」



「それは俺も考えた。

 しかし、先ほど君が言っていた通り、

 ”利己的だが社会に有益な人間”も上手く組み込んで、

 効率的に社会を動かす必要がある。

 1つの評価基準にまとめるのは、逆に管理の手間が増えると読んだ。

 それに・・・」



冷泉れいぜいはそこまで喋ると、

何やら後ろめたいような様子で数秒の間を置いた。




「イレギュラーには随時対応できるようにしておけば良いからねぇ。」



「摘人システムを開発したのはこの私だが、

 特にそういったイレギュラーケースに対応することを

 前提としたシステム仕様になっていないはずだが?」



「残念だけど、俺も摘人システムのソースプログラムを

 多少いじるくらいのことはできる。」



・・・なるほど、それは一切想定していなかった。



冷泉れいぜいは大学生の頃から”適材適所”を重視する人間だった。


ただし、なぜか冷泉れいぜい自身は

決して得意ではないことも習得しようと研鑽する習慣がある。


彼には目立った特殊な能力や、

他人が絶対に真似できないような才能はない。


世間では”天才”扱いされているが、彼は間違いなく”秀才”であり、

それも只者ではない”努力の狂人”だ。




「一体、摘人システムにどんな改修を施した・・・?」



「第二世代モバイルポットのウェポンモードによる攻撃で

 相手を殺害した場合、その殺害の結果は

 ”社会貢献度に反映されない”ようにした。」



・・・あくまでも、第二世代モバイルポットを支給した人間の裁量で、

殺害する対象を自由に選択できるようにする、ということか。




LEVOLレボルでは、第二世代モバイルポットの

 支給対象となる人間の選抜方法は公開していないが、

 摘人システム上では”社会貢献度”が規定値以上の人間しか認証できない。

 しかし、それだと、私が冷泉れいぜいのモノマネをしていた

 海藤かいどうという男を殺害した際、

 私の社会貢献度が低下しなかったことと矛盾する。」



殺害対象となっていない人間を殺害すると、

社会貢献度は0になる。



海藤かいどう冷泉れいぜいモノマネの一貫で、

第二世代モバイルポットの”メーキ”と”ヤゴトン”を操作していた。


つまり、それは彼が使用者認証を

問題なくパスしていたことを示している。


使用者認証は、LEVOLレボル取締役3人のうち、

いずれか1人の権限により行うことができる。


しかし”社会貢献度”が規定値未満の人間は認証することができない。


すなわち、海藤かいどうの社会貢献度は、

少なくとも規定値”以上”であると推測される。



しかし、私が海藤かいどうを殺害した時、

自身の社会貢献度が0になっていないことを確認した。


つまりそれは、海藤かいどうの社会貢献度が

規定値”未満”であることを示している。




「俺は使用者認証にも”抜け穴”を仕込んだ。

 実は第二世代モバイルポットの使用者になることができるのは

 ”社会貢献度が高い”人間ではなく、

 ”欲望指数が低い”人間なんだよ。

 海藤かいどう君は後者だった。

 だから、メーキとヤゴトンを扱えた。」



・・・これでハッキリした。



冷泉れいぜい

・社会への貢献度が高い人間

・利他的思考が強い人間

両輪の評価基準を用いることが適切だと考えているが、

彼の中では”後者”の方をより重要視している。


・・・その理由は、おそらく彼が突如

”社会中心主義”を唱え始めたことに関連しているに違いない。




「・・・しかし、摘人システムを無視した殺害が可能な現状は

 果たしてお前の理念に適した状態と言えるだろうか?

 仮に、いくら利他的な人間が第二世代モバイルポットを扱うと言っても、

 社会貢献度を無視した”自由な殺人”が可能と知れば、

 私怨を晴らすために悪用する等の可能性は皆無ではないと思うが?」



「俺としては、それはそれで”あるべき形”だと思っている。

 利他的な正義者ジャスティスマンの判断で殺害される人間がいるとして、

 その人間は本当に社会に必要な人間なのだろうか?

 むしろ、摘人システムという基準の中に例外パターンを設けるのは、

 摘人システムを悪用されないためにも、必要な措置だと考えた。

 もちろん、最悪のケースでは俺が正義者ジャスティスマン代表となり、

 対処するように準備もしてある。」


そう言うと、冷泉れいぜいは両手を広げ、

両目を閉じると、ゆったりとした様子で深呼吸をした。




「さて、そろそろ本題に入るとしようか。」


そう言うと、冷泉れいぜいは両目を開け、

私をまっすぐに見据える。



「本来、正義者ジャスティスマンに危害を加えたアヴァラスは

 俺が自ら始末する運用にしている。

 つまり、実宝院じっぽういん、君は俺が殺さないといけない。

 ・・・しかし、君は社会貢献度がそれなりに高く、

 先ほどのような緊急のケースに備えるという意味でも、

 ここで殺すには惜しい人材だと判断した。」



私は一言も発さず、ただ黙って冷泉れいぜいの話を聞く。




「俺の理念を知った上で、

 それでも尚、今後もアヴァラス第7号として俺に協力してくれるなら

 海藤かいどう君を殺害したケースは帳消しにしよう。

 俺と共に、より効率的な理想の社会創りをしたくないか?」


彼はそう言いながら、右手を私に向けて差し出し、

握手を求める姿勢で静止した。




・・・冷泉れいぜいは私の能力を買っている。


当然ながら、私自身が彼にないものを持っているという自覚もある。


これまでの会社経営では、

お互い単独では成し遂げられないことでも

”適材適所”の精神で達成してきた。


先ほどのラスト討伐戦もまた然りだ。


彼のことは、おそらく誰よりも私が評価している。






・・・だが・・・違う。


私が憧れた冷泉れいぜい 奏多かなた

社会の幸福なんて望んでいなかった。


自分の幸福のために、ただひたすら自己研鑽する”努力の狂人”だった。




そんな冷泉れいぜいはある時、

突然、”社会”に関心が向き、

それ以降は社会中心の思考になってしまった。



一般的には”利他的”な思考の方が評価されるだろうし、

そういった人間が沢山いた方が

社会が良くなっていくのは事実だろう。


しかし・・・私は悲しかった。




私は精神的に未発達な、幼稚で”利己的”な目標を掲げる。


その横で、冷泉れいぜいは社会のために

自分ができることを考え行動している。



冷泉れいぜいは正義、私は悪。


そう分かっていても、悲しかった。




・・・自分が幼稚なのは自覚している。


それでも、私はあの貪欲だった頃の

冷泉れいぜいの幻影を追いかけ、今日ここまで来たのだ。




ここで現在の冷泉れいぜいに協力したところで、

私は満足できないことは明らかだ。


もしそんなことをすれば、

自分で自分を許せないし、認められない。






「・・・悪いが、断る。」


私の言葉に冷泉れいぜいは「やっぱり」といった様子で苦笑いを見せ、

右手を下ろした。



「私は正直、社会がどうこうなんてどうでも良い。

 私は・・・冷泉れいぜい、お前を打ち負かし、満足したい。」



「残念だねぇ・・・。

 ここで君を失うのは惜しいが、運用上仕方がない。」


冷泉れいぜいの繰り出すフィンガースナップに反応し、

オレンジ色の見知らぬモバイルポットが彼の背後に移動した。




「まぁ、君は俺のコスプレをした海藤かいどう君を殺してるから、

 君には俺を殺す覚悟はあったんだろうねぇ。

 ならば、今度は俺が君を殺す覚悟を見せるのが筋かな?」


冷泉れいぜいは両足を肩幅程度に開き、両手を広げる。



「我々の・・・決着を付けよう。」


私は上体を低くして、両手を固く握り締める。




「変身!!」

「オーバーフロー!!」






★第30話★ 「真の目的」 完結


お読みいただきありがとうございました。


実宝院じっぽういんが倒した冷泉れいぜいは偽物だったことが判明しました。

そして、偽・冷泉れいぜいは、主人公、御子柴みこしば りゅうのいつメンである

海藤かいどう 郡司ぐんじでした。


彼については「モノマネが得意」という情報だけ第2話で明らかにされており、

長らく所在が不明でした。


本作の執筆以前に

冷泉れいぜいのニセモノを出して、本人が亡くなったと見せかける」

という案だけ決まっており、

ようやく4年以上経過してその種明かしを描くことができました。



この辺りは読者の方々にもぜひ考えていただきたいと思い、

色々と伏線を仕組んでいました。



大きなものとして、御子柴みこしばが「海藤かいどう冷泉れいぜいと誤認したシーン」では、海藤かいどうの顔を見ずに、”声”だけで冷泉れいぜいと判断しています。


ヤゴトンが「強い光を発する武器」に変形するのは、

このシーンを描く必要があったため、という事情がありました。



あとは、今在いまざい 征儀せいぎが偽・冷泉れいぜいを遠巻きに見て、「(社会貢献度が)低すぎる」と呟くシーンも、よく読むと彼がニセモノであることを示唆しています。




残り5話で完結予定ですので、ぜひ最後までお読みください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ