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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第6章】正しさの果て
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★第29話★ 再会

★第29話★ 「再会」





『それでは、手短に作戦会議をするとしようか。』


モバイルポットからの通信を遠隔で受信し、

音声通話機能を持つデバイスから、アイガンノーツの声が聞こえる。




「新ラストには近接攻撃も無効でした。

 こちらの攻撃を通すための方策について、

 何かアイデアはありますか?」


おそらくアヴァラス・アーティファクト固有の能力であると

推定される”再生”能力を攻略しなくては、ヤツは倒せない。



『まだ検証が必要だが、一応ある。

 通常のアヴァラスの場合、弱点は人間の身体と共通している。

 つまり、わざわざ核を攻撃せずとも攻撃は通る。

 しかし、アヴァラス・アーティファクトの場合、

 ”特定の部位”を攻撃しないと通らない、という可能性がある。』


「株を移植された部位、すなわち”核部分”ですか?」


広幡ひろはた なぎが残した資料には

 その可能性を示唆する記述があった。

 ・・・しかし、ワタシはそれは誤りだと思っている。』


アイガンノーツは自らの考えを即否定する。




広幡ひろはた なぎの手術記録から、

 新ラストの株が移植されたのは、”頭部”である可能性が高い。』


先ほど、ヤツの頭部に対して私がピッケルを打ち込み、

直接攻撃したが、損傷は再生していた。


・・・つまり「核が弱点である」という情報は

信憑性が低いことが判明してしまった、ということだ。




「・・・アヴァラスの開発者ですら、

 アーティファクトに攻撃を通す方法を知らず、

 しかも既に亡くなっている。

 そんなもの・・・一体どう攻略すれば・・・?」


『だからこそ、我々2人で検証し、発見する必要がある。

 ”アヴァラス・アーティファクトを倒す方法”を。』



・・・そこで私は気付いた。


私には今、原始会議げんしかいぎの主宰、

アイガンノーツが味方に付いている。


この方なら・・・いや、”コイツ”と私なら、

きっとアーティファクトの攻略も可能なはずだ。




『ワタシの中には”1つの仮説”がある。

 それが正しいかどうか、検証したい。』


「分かりました。」




・・・あぁ、やっぱり頼もしいな。


しかし、頼もしいからこそ、

私は必ず新ラストを倒さないといけない。


倒して・・・”その先”の未来に行かなければならない!




『ワタシが指示するまで、お前は回避・防御に徹しろ。

 それでは・・・作戦開始だ!』




アイガンノーツの掛け声と共に私は飛行を開始する。




『デフォルト展開している武装は?』


「”飛行ユニット”と”オート除菌システム”です。

 初激のダメージを全身に散らす”初激バリア”は展開していないので、

 残り1回だけ、武装生成が可能です。」


『やはりそうか。まさにそれがベストだ。』




やり取りが完了してから10秒足らずで、

再び新ラストの10mほど手前の地点へと着地した。






「またお前か。

 ・・・さっさと死ね。」


ラストは前置きなく、再び全身から無数のチューブを

私目掛けて発射する。


私は再び空中へと跳躍しつつ飛行し、

チューブを繰り返し避け続ける。




『初めまして。ワタシは原始会議げんしかいぎの主宰、アイガンノーツだ。』


私の右頬付近にセットされている通話デバイスのスピーカーから、

アイガンノーツが新ラストへと挨拶をする。


もちろん新ラストの攻撃が止むことはなく、

私はひたすら回避動作を継続する。



『君の欲望について、ぜひ詳細に知りたい。

 第一に、なぜ君はこんなにも多くの人間を殺害し、

 そしてまだ殺害を継続する?』



「俺は”全部”終わらせる必要があるからだ。」



『なるほど。何のために”全部”を終わらせるつもりだ?』



「・・・あずさとの約束のためだ。」



『その女性と君はどういった関係だ?』



「・・・俺の・・・とても大事な人だ。」



『その女性は、今どこにいる?』



あずさは・・・もうこの世にはいない。」



『なるほど、君は今は亡き人のために戦っているということか。

 君の気持ちはよく分かる。

 ワタシもかつて、大事な人が亡くなってしまい、

 その人のために自分に何ができるかを必死に考えたことがある。』



「・・・お前は、その人のために何をした?」



『最初は、とある加害者への”復讐”を試みた。

 しかし、ワタシの大事な人はもうこの世にいないことを再認識した。

 つまり、復讐はその人のためにはならないことに気付いたのだ。

 ・・・ではワタシは誰のために復讐を試みていたのか?

 それは紛れもなく、”ワタシ自身の自己満足のため”だと気付いた。』




アイガンノーツとラストの会話は、

互いにじっくりと言葉を選ぶような様子で繰り返される。


しかし、依然としてラストのチューブ攻撃は止むことはない。


まるでチューブが生きているかの如く、

次々と私目掛けて伸びてくる。


当然ながら、チューブに一撃でも接触するだけで、

私の体表の僅かな傷から、殺人ウイルスの侵入経路を確保される危険があり、

非常に緊張感のある戦闘だ。



そんな悪条件下で、私は2人が会話を継続できるように、

なるべくラストとの距離を保ちながら、

飛行ユニットを使いひたすら回避し続ける。




『単なる自己満足で終わってしまっては、あまりにも虚しい。

 誰しも歳を重ねれば、自分よりも先に他人を考慮することができるようになる。

 ”他者の利益”を考慮できない人間は幼い。

 ・・・自身の幼稚さに恥じらいを覚えたワタシは次に、

 その人の死を”社会にどう活かすか”を考えた。

 その人と同じ目に遭う人を減らすことができれば、

 それはワタシの自己満足で終わることはなく、

 ”他者の利益”になり、意味を持つ。』



「俺は・・・あずさとの約束を守りたいんだよ・・・!」



『”人類を全滅させる”という約束を守ってどうする?

 そのあずさという女性はもう亡くなっているのだろう?

 その約束は、誰のためになる?

 ”誰の利益”になる?』



「約束は・・・俺の・・・自己満足でも構わない!!

 あずさとの約束だけが・・・今の俺が生きる意味だ!!

 ”自分の利益”にさえなっていればそれで良い!!」



『・・・それは残念だ。

 そのあずさという女性は、天国から

 ”他者の利益”を考慮できない極めて幼稚な思考の君を見て、

 どう思うのだろうな?』




アイガンノーツがそこまで喋ると、

突如、ラストの様子に変化が起きた。


先ほどまでと比較して、

明らかにチューブ攻撃の精度が落ちてきている。



・・・間違いない。


アポカリプス・ラストは

アイガンノーツの言葉に”動揺”しているのだ。




「くっ・・・!なぜだ・・・!?」



『本当は頭では分かっているはずだ。

 君の言う”約束”は意味をなしていないことに。

 それでもあずさという女性との”約束”を無理やりにでも曲解し、

 達成することで、”彼女のために何かを成し遂げた”という事実が欲しい。

 君は彼女が死んでも尚、彼女に貢献したいと思っているが、

 それを追求しようとすればするほど、

 皮肉にも君は自己満足の極地へと歩み続けるしかない。

 ・・・そんな君を天国の彼女が見て、果たして喜ぶのか?

 彼女はそんな残酷な人間なのか?』



「違う!!あずさはそんな人じゃない!

 ・・・俺は・・・!

 俺はただ・・・あずさが好きで・・・!

 あずさのために何かしたくて、

 あずさに認めてもらいたいんだ!!」



そこまで言うと、新ラストは両手で頭を抱え、

苦しそうに踠き始める。




「あああああっ!!!

 俺はただ・・・ただ・・・」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




・・・その時、俺の耳に聞こえないはずの声が聞こえてきた。




「・・・くん・・・御子柴みこしば君。」




・・・俺がその声の主を忘れるはずがなかった。


紛れもなく、久田ひさだ あずさの声だ。




あずさ・・・あずさ・・・!」






・・・俺が目を開けると、そこは

ただ果てしなく広がる真っ白な空間だった。


俺の体はアヴァラス怪人態ではなく、

今朝のジャケットを羽織ってあずさと会う前の格好になっている。


そして、俺の5mほど前方には、

白いTシャツに黒ワンピースを着用した、

今朝会った姿のままのあずさがいた。




「・・・私のせいで、御子柴みこしば君に

 こんなに苦しい思いをさせてしまって本当にごめんね。」


あずさは申し訳なさそうに深々と頭を下げる。




「違う!あずさのせいなんかじゃない!

 俺は・・・あずさが言った言葉を約束だと勝手に思い込んで・・・。」



「私、勘違いしてたんだよね・・・。

 御子柴みこしば君が、そんなふうに

 私のことを思ってくれていたなんて全く知らなくて・・・。

 私が亡くなっても、きっと、御子柴みこしば君は

 これまでと変わらない日常を送っていくんだって思ったから、

 感謝だけ残して、私の気持ちは伝えないことにしたんだ。」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






・・・どういうことだ?


アポカリプス・ラストが項垂れた状態で、

素立ちしたまま静止し、一切の攻撃が止んだのだ。




「これは・・・あなたの能力ですか、アイガンノーツ?」


『いや、違う。ワタシに特殊能力はない。

 ワタシは”誘導”しただけだ。』


「誘導・・・とは?」


『詳細は後だ。油断するな!

 もうすぐ我々にチャンスが巡ってくるはずだ。

 最後の1スロット、いつでも使えるようにしておけ。』




アイガンノーツに言われるまま、私は感覚を研ぎ澄ませる。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






真っ白な空間の中で、あずさは言葉を続ける。




「私に認めてもらいたいなんて・・・。

 そもそも、私は御子柴みこしば君に”救われた”って言ったじゃん。

 御子柴みこしば君の”素のままを貫く”生き方に憧れて、

 すごくカッコいいなって思った。」


「あれは・・・まだ俺が幼稚な高校生だっただけで・・・。」


「それでも、当時の私が救われたことに変わりはないよ!

 私は御子柴みこしば君の生き方に惚れて、

 自分もそうありたいと思ったし、

 あれからずっと御子柴みこしば君のことが気になっていて、

 どうしても諦められなかったから、

 アヴァラスになってまで会いに来た。」




・・・そうか。


あずさが亡くなったのは、元はと言えば俺のせいだったのか。


あずさがアヴァラスにならなければ、

彼女が戦闘で負けて命を落とすことはなかった。




・・・でも・・・仮に彼女が

「アヴァラスにならない」という選択をしていた場合、

俺は彼女と再開できていなかった。


・・・その世界で、果たして俺は

”自分の生きる意味”を見つけられていたのだろうか?




「でも・・・だからといって、

 御子柴みこしば君がこんな目に遭う必要はなかった。」


あずさの表情が見る見るうちに曇り、

土砂降りのようにボロボロと大粒の涙を流して泣き出す。




「こうなったのは私の責任で、私が現れなかったら

 御子柴みこしば君は普通に日常生活を送っていて・・・」


「それは絶対に違う!!」


俺が思わず叫ぶと、彼女は泣きながら俺の顔に視線を移す。




「俺はこれまで何の満足感もない、味気ない平凡な毎日を送っていた。

 ・・・そこにあずさが現れただけで、

 俺は残り一生分の幸せを前借りしたのだとしても、

 別に良いと思えるくらいの幸福を得た。

 俺は・・・あずさに再開できて本当に良かった!

 それだけは間違いないんだ!!」



俺はあずさのもとへと駆け寄り、

正面から抱きしめる。


・・・温かい。



彼女がもう亡くなっていることは覆らない事実だ。


今、俺が抱きしめている彼女は偽物か、幻覚か。

少なくとも、生身のあずさの体ではない。




・・・それでも、今、間違いなく

俺のすぐ目の前にあずさはいる。


それだけは断言できる。


俺は今、久田ひさだ あずさと会話しているんだ。




すると、彼女は泣きながら俺の背に両手を回し、

俺を見上げると、これまでで最高の笑顔を見せた。



「・・・そう言ってもらえて・・・嬉しい。

 私も御子柴みこしば君と再開できて本当に良かった!

 あの時の御子柴みこしば君が言う通り、

 我慢しないで、本当に良かった!!」




彼女は笑顔で号泣しながら、さらに付け加えた。




「ずっと・・・好きでした・・・!」


「俺も・・・あずさが好きだ。」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






・・・その瞬間は唐突に訪れた。


私は目の前の光景を見て、自身の目を疑った。


アポカリプス・ラストの変身が解け、

段々と人間態の姿へと戻っていくのだ。



実宝院じっぽういん!!』


アイガンノーツの叫び声と共に、私は宙で素早くタイピングを開始する。



GITジーアイティー起動!フェッチ&リベース!!」


私の右手に、刃渡り2mほどの黒いブレードが出現する。



「はあああああああああっ!!!」


私は一瞬でラストの変身者との距離を詰め、

その身体を切り裂いた。



変身者は腰で真っ二つに切断され、

鮮血を撒き散らしながらアスファルトへと転がった。



私は飛行ユニットで素早く上半身の方へと接近し、

身体の状態を確認する。


既に意識はなく、切断面と口から多量の血が溢れ出してきていた。


しかし、その男の表情はその惨状に何ともそぐわず、

満ち足りたような、涼しげな表情で目を瞑り、

絶命していたのだった。




「勝ったのか・・・あの化け物に・・・。

 アヴァラス・アーティファクトに・・・。」



・・・いまいち実感が湧かなかった。


広幡ひろはた なぎがあれほど期待していた

アヴァラス・アーティファクトを私が倒したのだ。



しかし、私一人では決して倒せない存在であったことは確かだ。


アイガンノーツがいなければ、私の敗北は明らかであっただろう。




『よくやった、グリード。

 お前のお陰で、社会の平和は守られた。』


アイガンノーツからの称賛の声が聞こえる。



『おそらくこれ以上は何もないと思うが、

 念の為、お前が先ほど退避していた

 ショッピングモールの屋上に移動してくれ。』


「分かりました。」



私は飛行ユニットを起動し、移動を開始する。


そこでふと、気になったことについてアイガンノーツに問うことにした。




「・・・なぜ、ラストに攻撃を通す方法が分かったのですか?」



『臓器移植により、他人の臓器が体内に入った者には、

 前主の記憶・趣向・性格等といった

 特性が引き継がれる症例が確認されている。

 通常のアヴァラスであれば前主から能力の引き継ぎは行われないが、

 アヴァラス・アーティファクトは例外的に、

 前主のアヴァラスとしての能力を発動できる。

 そうなると”前主との繋がり”が本作戦のキーになると仮説を立てた。』


アイガンノーツは早口で説明を始めた。



『そもそも、彼がなぜアーティファクト化したか、についてだが、

 ラスト株の前主である亡くなった恋人にもう会えないと考え、

 それによってこの世への未練が無くなったから、と推定される。

 故に、本人にその解釈が誤りであること、

 すなわち、自分の中にあるはずの恋人との繋がりを

 一時的にでも認識させることができれば、

 攻略の糸口が見える、と考えた。』



「・・・なるほど、現世でも彼女に会えると錯覚させ、

 現世への未練を取り戻させた、ということですね。」



『”錯覚”かどうかは、本人以外の者には分からないがな。』




・・・私はショッピングモールの屋上駐車場へと降り立ち、

変身を解いて人間態へと戻った。




すると、屋上駐車場に繋がる店の自動ドアのうち、1つが開いた。


全身黒づくめの、見覚えのある男が

こちらに向かってまっすぐ歩いてくる。


彼の背後には、見たことがない、

”オレンジ色”のモバイルポットが追従してくる。



男はゆったりとしたペースで拍手をしており、

私と3mほどの距離を開けて立ち止まった。



「アイガンノーツ・・・やはり、近くまで来ていたんですね。」


肩から全身が隠れる黒いローブを羽織り、

顔はガスマスクで覆っている。


原始会議げんしかいぎのMTGはオンライン開催なので、

こうして対面で主宰しゅさいが登場するのは、これが初だった。



「こうして会うのは初めましてだな、グリード。

 先ほどは見事だった。」


アイガンノーツは相変わらずボイスチェンジャーで声質を変えており、

男声と女声が入り混じったような、ノイズ調の声で話す。



「初めまして・・・な訳ないだろ?」


私の返答に、アイガンノーツは首を傾げる。



「そろそろ、私には正体を明かしても良いんじゃないか?

 ・・・”冷泉れいぜい 奏多かなた”!!」


アイガンノーツはため息を吐くと、

両手で顔面を覆い、肩を震わせて笑い始めた。


そのまま、ゆっくりとガスマスクを外し、

口元から伸びる小型マイクらしきものを取り外す。




「さすがに・・・バレるよねぇ。」



・・・大学時代に出会い、共に起業までして

それなりに付き合いの長い私が見間違える訳がない。


その顔も声も間違いなく、

冷泉れいぜい 奏多かなた本人だった。






★第29話★ 「再会」 完結




お読みいただきありがとうございます。


いつもは後書きに「要点まとめ」的なものを書いていますが、

今回は個人的な感想を書きます。



御子柴みこしばが遂に退場し、

摘人世界てきじんせかいという作品にとっても、

作者である私にとっても、大きな節目となった回でした。


実は今回のストーリーは、本作を書き始める前に既にメモしていたものでした。


4年以上の時を経てようやく形になりましたが、

いざ書いてみると重要な回だけに非常に難しく、

何度も書いたり消したりを繰り返して仕上げました。


私はこれまでに別シリーズの作品を3作書いていますが、

今作ほど明確な役割を持たせ、

活躍を局所的にした主人公はいませんでした。


だからこそ、作中唯一と言っても過言ではない、

前回~今回にかけての御子柴みこしばの見せ場を

しっかり書いてあげたい、という気持ちが非常に強かったです。



また「摘人てきじん」がテーマの本作において、

摘人てきじんとは「多数のために少数を犠牲にする」意味で扱われています。


しかし、御子柴みこしばの場合は、

「少数のために多数を犠牲にする」という、

本来の趣旨とは正反対にあたる対比構造を意識して書きました。




さて、御子柴みこしばは亡くなりましたが、

物語はまだ終わりではありません。


残り数話、ぜひお楽しみいただけたらと思います。

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