★第28話★ アヴァラス・アーティファクト
★第28話★ 「アヴァラス・アーティファクト」
・・・時刻は17:40。
私はグリードに変身した状態で、
グリードの能力で生成した両翼の飛行ユニットにより、
市街地を高速飛行しながら、目的地へと向かっていた。
街のあちこちに人間が溶けたような血溜まりが大量に散乱し、
必死に走って避難する人たちの姿が目に入る。
1分も経過しないうちに、力なくフラフラと歩くターゲットを視認し、
10mほどの距離を開けて、死体の転がる道路へと着地する。
新ラストこと”アポカリプス・ラスト”は
私をまっすぐに見据え、立ち止まる。
「俺の邪魔をするなら・・・死んでもらう。」
新ラストこと”アポカリプス・ラスト”は私に向かって指を向けた。
私がアヴァラス第7号”アナーキー・グリード”であり、
何をしに来たのかも全て察しているようだ。
「残念ながら死ぬのはお前だ。」
私は途中で死体の転がるホームセンターから拾ってきた
長さ1.5mを超える巨大なピッケルを構え、接近する。
アヴァラスを直接攻撃するのに強度が足りない可能性はあるが、
未だ謎が多い新ラストに対する”検証”に使うには十分事足りる。
新ラストは私の攻撃に対して受け身の姿勢すら取らず、
両手を広げ、まるでご自由にどうぞと言わんばかりに隙を見せる。
大きく後方に引いてから、全体重を乗せたピッケルで
ラストの顔面へと打撃を加える。
ピッケルの先端はラストの後頭部まで貫通し、
ラストの動きが停止する。
私はピッケルが刺さった状態のラストを振り回し、
地面へと叩き付ける。
そのままピッケルを両手で押さえ、身動きが取れぬように動作を封じる。
・・・しかし、次の瞬間、
ラストの頭部が瞬時に元通りに再生し、
めり込んだピッケルが頭部から勢いよく弾き出される。
私はバランスを崩しながらも後方へと10歩ほど下がり、
敵の様子を確認する。
すると、ラストは何事もなかったかのようにスッと立ち上がった。
「・・・なるほど、近接武器による継続的な攻撃も無駄、か。」
事前情報では、自衛隊による射撃で欠損した頭部が
瞬時に再生した、ということが分かっていたが、
今の検証で近接攻撃も意味をなさないことが判明した。
正確には「頭部への攻撃」は無効化される、ということが判明した。
・・・現時点で考えられるのは、核が体の他の個所にあり、
それを攻撃することでダメージが入る可能性。
・・・しかし、私は嫌な予感がしていた。
先ほどの、受け身を取る素振りが皆無で、
”攻撃を避ける気がない”というスタンス。
まるで、こちらのあらゆる攻撃が通らないことが
分かっているかのような余裕。
そもそも、アヴァラスは変身者の”副欲望”によって
発現する特殊能力が決まる。
「主欲望」というのは「変身者の本質的な欲望」。
「副欲望」というのは「主欲望を達成するための”具体的な手段”を成し遂げようとする欲望」。
アポカリプス・ラストに
「ウイルスにより無差別殺人を行う能力」が
発現していることを考慮すると、
彼の副欲望には、何らかの”攻撃的な手段”に関する欲望が該当しているはずだ。
しかし、「無差別殺人」と「再生」は
あまりにもかけ離れた属性の能力であり、マッチしていない。
私の想定が及ばない”特殊な副欲望”により、
「属性が異なるように見える1つの能力」が発現している可能性もあるが、
私は違う可能性を視野に入れている。
・・・以前、アヴァラスの産みの親である広幡 凪が言っていた、
”この世への未練”を断ち切った存在。
すなわち「アーティファクトの神域」に到達したアヴァラス、
アヴァラス・アーティファクト。
これまでに神域に到達した者はない。
故に、その詳細は謎に包まれている。
仮に”アポカリプス・ラスト”が神域に到達している場合、
例外的な「特殊能力2個持ち」という事実にも説明が付く。
しかし、ヤツが「神域に到達している」
という事実が分かったとしても、問題は一切解決しない。
”どうすれば倒せるか”の方が遥かに重要だ。
・・・幸い、ヤツの機動力は低い。
攻撃を通す手段を見つけることができれば、勝ち目はある。
「俺は・・・”全部”終わらせないといけないんだ。」
ラストがゆっくりと右手の平をこちらに向ける。
「何?」
私が呟いた次の瞬間、ヤツの手の平から突如、
半径1cmほどのチューブ状の突起が私に向かって勢いよく伸びてきた。
私は頭部を傾け、その攻撃を避けるが、
ヤツの手から続け様に5,6本のチューブが飛び出し、
こちら目掛けて直進してくる。
咄嗟に飛行ユニットを起動させ、空中へと退避するが、
更にヤツの身体中から無数のチューブが射出され、次々と迫り来る。
「一体、何が起きている・・・!?」
空中で不規則な軌道を取って避けつつ、更に身体の回避動作も合わせて、
何とか全てのチューブを避け切る。
私は一時退避するため、飛行によって一気に距離を取り、
3kmほど離れた5階建てのショッピングモールの屋上駐車場へと着地した。
「どういうことだ・・・?」
チューブ伸縮・硬化・軟化は”旧ラスト”の特殊能力だったはずだ。
なぜ”新ラスト”に同等の能力が発現している・・・?
やはり・・・”アポカリプス・ラスト”は
アーティファクトの神域に到達したと見て間違いなさそうだ。
まったく推定の域を出ないが、
おそらく「無差別殺人」はヤツの本来の特殊能力。
そして「再生」は”この世への未練が消え”たせいで
受けた攻撃を無効化するという
アヴァラス・アーティファクトが共通で持つであろう特殊能力。
さらに「チューブ伸縮・硬化・軟化」は
アヴァラス・アーティファクトの何らかの機能によって
旧ラストから継承した能力。
・・・ふと気付くと、私は変身が解け、人間の姿に戻っていた。
そして、自分の意思とは関係なく、体が前のめりに倒れていく。
両膝を付き、咄嗟に両手で体を支え、四つん這いの姿勢になった。
・・・体の震えが止まらない。
そうか、私は未知の敵を相手にして、恐怖を感じているのだ。
こちらからの攻撃は無意味。
そればかりか、ヤツのチューブ攻撃でグリードの表皮を抉られた場合、
場所によっては私の体内にウイルスが侵入し、
身体が破裂して私は死亡する。
すなわち、一撃でも貰えばゲームオーバーの恐れがある戦い。
・・・私は”死ぬことが怖い”のだ。
吐き気を催すと共に、視界が狭まって息が苦しくなり、
心拍数が急速に上昇していく。
慌てて仰向けに転がり、必死に呼吸のペースを戻す。
・・・そもそも、私は何のために戦おうとしている?
私は「あらゆることで相手よりも優位に立つ」ことを主欲望としている。
本来であれば、私は新ラストのような怪物相手にも
「優位に立ちたい」と感じるはずなのだ。
・・・しかし、自分の体の反応から察するに、
今の私自身は、到底そんなことを考えていない。
その理由は、敵が強いから?
勝てる確証がないから?
敵が、私自身と同じアヴァラスとして、
上位の存在である”アヴァラス・アーティファクト”だから?
・・・表面的な解答としては、間違ってはいない。
ただし、私があの怪物よりも
「優位に立ちたい」と感じられない理由は他にある。
それは・・・”私が冷泉 奏多に勝利してしまったから”だ。
昨晩まで、長らく私の行動力の源泉になっていたのは
「冷泉を超えたい」という欲望だった。
彼に勝利してしまったせいで、
私はアヴァラスに適合するために必要な
”主欲望”が弱まっているのだろう。
だが・・・そんなことは甘えで、決して許されない・・・。
・・・いや・・・むしろ、これで良いのではないだろうか?
もしかすると、私の主欲望は
「他者よりも優位に立ちたい」訳ではなく、
「冷泉を超えたい」というものだったのではないか?
冷泉に勝ったことで、
私は満足してしまったのかもしれない。
それならそれで何も問題はない。
私の欲望は果たされ、私の役目は終わったのだ。
このまま寝転んで待機し、いずれ接近してくる
アポカリプス・ラストの殺人ウイルスに殺害されても・・・。
・・・いや・・・違う。
それだと、先ほど通常通りグリードに変身できた理由が分からない。
私は・・・「何か」をやり残している?
少なくとも、自分の脳はそう認識しているのだ。
その「やり残していること」とは一体何だ?
・・・ラストを倒して世界を守ること?
いや、私はそこまで責任感が強いタイプではない。
そもそもアヴァラスに適合している時点で、
私が私欲を追求する意思が強いタイプの人間であることは明白。
少なくとも、「やり残していること」が分からなければ、
この怖気付いた状態でラストに立ち向かえる気がしない。
・・・その時、耳元に装着した
遠隔でモバイルポットの通信を受けるデバイスから通知音が鳴った。
てっきり、発信者はアイガンノーツかと思ったが、違った。
「なんだ、貴様か。この忙しい時に・・・。」
『もしもし、俺様も忙しいから手短に伝えるぜ!』
昨晩、冷泉を倒した後に現れた
今在 征儀という第二世代モバイルポット使いだ。
「伝える・・・?
あぁ、”黒幕”がうんたらかんたらの話か。」
『その通りだ!”黒幕”の正体と根拠を伝えるぜ!!
黒幕は・・・』
その続きを聞いた私は、その場で硬直した。
「おい・・・貴様、私を馬鹿にしているのか!?
だってアイツは」
『あぁ、それは偽者だぜ!なぜなら・・・』
2分ほど、彼の説明を聞き、私は納得していた。
「・・・分かった。約束通り、
第二世代モバイルポット”メーキ”の使用者認証を遠隔で実施しておいた。」
『以上だ!!切るぜ!』
そう言い、彼は通話を一方的に切った。
・・・合計で3分にも満たない、雑な会話だった。
それでも、私を再起させるには十分な満足度だった。
彼が通話を切るのとほぼ同時に、新たな着信が入る。
『アイガンノーツだ。現在の状況はどうなっている?』
原始会議の主宰、アイガンノーツからの通話だ。
「あぁ・・・ちょうど今から、第二ラウンドです。」
私は先ほどまでと打って変わって、
ラストを倒す意欲で満ち溢れていた。
・・・ラストを倒さないことには、
私の「やり残していること」が達成できない。
相手がアヴァラス・アーティファクトであろうと、もうやるしかない。
アイガンノーツの遠隔サポートも込みで、
”アポカリプス・ラスト”を必ず倒す!!
「オーバーフロー!!」
両手を固く握りしめ、そう叫ぶと、
欲望に体が応えるように、
私の体がグリードのものへと変化し、戦闘準備が完了した。
★第28話★ 「アヴァラス・アーティファクト」 完結
お読みいただきありがとうございました。
今回は
・(新)第5号”アポカリプス・ラスト”
と
・第7号”アナーキー・グリード”
の戦闘がスタートしました。
通常、アヴァラスは
副欲望に則った特殊能力を1種類だけ持っていますが、
アヴァラス・アーティファクトと化した新ラストは
現在判明しているだけで
①本人の能力
②継承元(旧ラスト)の能力
③攻撃を受けても元通りに再生する能力
と3つ所持しています。
グリードこと実宝院は
今在 征儀から”黒幕”の情報を伝えられたことがきっかけで
新ラストを倒すことに意欲的になりました。
果たしてその”黒幕”とは誰なのでしょうか?
次回、いよいよ”黒幕”の正体が明らかになります。
予想できる最後の回になるので是非当ててください。




