★第25話★ 約束
★第25話★ 「約束」
「なんで・・・どうして・・・こんなことに・・・」
俺は無惨な姿になった梓の隣に跪き、
過呼吸になり、視界が揺らいでいた。
両目からこれまで経験したことのない量の涙が溢れ出す。
・・・梓は焦点の定まらない様子でまっすぐ宙を見上げ、
口を半開きにして、僅かにまだ呼吸をしていた。
思わず、俺は梓の両肩に手をかけて、彼女の体を揺する。
「梓!!梓!!
頼む・・・死なないで・・・くれ・・・あぁ・・・」
そう言いながら、俺は途中から呆然としていた。
もはや、彼女が助からない状態にあるのは
医療知識が皆無の俺の目にも明らかだったのだ。
俺の背後では、
俺と共に先ほどまで2人の戦いを見守っていたドクター凪が
梓の様子を観察していたが、
彼が何も手を施そうとしないことが、何よりの証拠だった。
・・・俺は・・・なんて無力なんだ。
さっきの戦いでも何も出来なかったし、
今もこうして梓に何もしてあげることができない。
「いざとなったら自分を犠牲にしてでも守る」とか
虚無な自己満足に浸っていただけで、
文字通り、自分を犠牲にすることすらできないでいるだけのザコだ。
・・・俺は・・・梓に昨晩久しぶりに再開して、
彼女に貢献したいという”目標”を持ったばかりだった。
それが、24時間足らずで達成できなくなるとは、
あまりの無力さに滑稽にすら思えてくる。
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・・・御子柴君?
体が動かせない。
声も発することができない。
僅かに周囲の音が聞こえるだけで、
御子柴君が何かを喋っていることは
見て分かるけど、聞き取れない。
・・・あぁ、そうか・・・。
私は・・・負けたんだね。
・・・私の推理には”誤り”があった。
全部ヤツに”誘導されていた”ことに気付かなかった。
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ジェイゾロフトが俺の背後10mほどの地点に着地する。
「・・・申し訳ないですね、これも”ルール”なので。」
淡々と言い放つジェイゾロフトに対して、
俺は泣きながら立ち上がり、鋭い視線を向ける。
「拳での殴り合いかと思ったら、
まさか近接武器で切断しに来るとは予想できなかったでしょうね。」
ジェイゾロフトは右前腕に搭載された台形の形をした箱から
外側に向かって伸びる刃渡50cmほどの細い刃が
自動で内部に収まった。
「お前の・・・お前の目的は何なんだよ!!
なぜ梓をこんな目に遭わせる必要があったんだよ!!!」
俺の問い掛けに対し、ジェイゾロフトは少し考えるように間を置く。
「・・・それは”ルール”だからとしか言いようがないですよ。
いくらアヴァラスでも好き放題やられると困るので。」
「意味分からねぇよ!!
そもそもお前は何者なんだよ!!
原始会議のボスか!?」
俺がそう叫ぶと、ジェイゾロフトはフッと短い笑いをこぼした。
「いいえ。ワタクシは・・・”管理者”です。」
・・・管理者だと!?
一体コイツは”何の”管理者だというんだ・・・?
「・・・それにしても、感慨深いものです。
ここだけの話、第5号がそうなったのも、
ついでに言うなら”摘人政策が始まったこと”も、
あなたが起源なんですよ?御子柴 竜さん。」
「な・・・何を言ってるんだ・・・!?」
・・・そんな訳がない。
梓がやられたのも、摘人政策も、
この俺に原因があるというのか?
・・・いや、そんなこと嘘に決まっている。
哀れな俺を面白がって、惑わせようとテキトーなことを言っているだけだ。
全部コイツの作り話に違いない!
「まぁ、もし再開することがあれば、
ゆっくり話をしましょう。」
そう言うと、ジェイゾロフトのブースターが起動し、
ヤツがゆっくりと宙に浮き始める。
・・・逃げるな、とでも叫んで
ヤツを追跡するのが本来俺がすべきことだろうけど、
そんな力は俺にはない。
悔しい・・・!!
せめて・・・俺がアイツを倒すための力があれば・・・!!
「殺す・・・」
俺は無意識にそう口走っていた。
「絶対、殺しに行くからなあああああ!!!」
俺の叫びも虚しく、ジェイゾロフトは瞬時に加速し、
姿をくらました。
俺は再び膝をついて、梓を抱き抱える。
・・・虚な目でかろうじて呼吸をしているが、まだ意識はあるようだ。
「梓・・・ごめん・・・俺は何もできなかった・・・!」
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・・・もう何も音が聞こえない。
視界も段々と閉ざされてきた。
・・・悔しいな。
私がジェイゾロフトに勝てたら、
もっと御子柴君と色々な話ができたのにな・・・。
・・・でも、”タラレバ”で考えてももう仕方がないから、
せめて最後に、御子柴君に伝えるべきことを伝えないと。
・・・彼が、未練を残さないように。
そして・・・何よりも私からの・・・”感謝の気持ち”を。
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彼女は苦しそうに口を開くと、
震えながら満面の笑顔を作り、
俺の目をまっすぐ見据えながら、喋り出した。
「御子柴君に・・・また会えて良かったなぁ・・・。
・・・本当に・・・ありがとう。
この先も・・・」
そこまで言うと、彼女の全身の力がガクッと抜けた。
彼女は、俺に抱えられたまま、絶命していた。
・・・俺は彼女の瞼を優しく閉じ、
しばらく彼女の遺体を泣きながら無言で抱きしめていた。
「・・・ラストちゃんは残念やったんやけどね」
頃合いを見計らって、俺の背後からドクター凪が声を掛けてきた。
「どうやら、君が
ラストちゃんの意思を継ぐチャンスはありそうなんやけど、どうする?」
俺は背後のドクター凪に対し、背中越しに視線を向ける。
「それは・・・どういうことですか・・・?」
俺の問い掛けの最中に、ドクター凪のポットが喋り出す。
『御子柴 竜さんの欲望指数、72。
適合候補株、ラスト。』
「君の、ラストちゃんに対する想いが、
君がアヴァラスに適合する可能性を生み出したんよ。」
・・・俺が・・・アヴァラスに?
「君の力で、さっきのヤツに”敵討ち”をするっていうのはどうかな?
まぁ、これは僕の勘でしかないけど、
今の君なら、これまでのアヴァラスを凌駕する存在になれる気がするんよ。」
・・・そうだ、思い出した。
昨晩、梓とベンチに座って話した時、
彼女から言われた言葉。
『・・・お互いのバタバタが全部終わったらさ、聞いてほしいことがあるんだ。』
・・・そうだ。
まだ俺にはやるべきことがある。
俺と梓の「最初で最後の約束」。
・・・”全部”・・・終わらせるんだ・・・。
”全部”終わらせないと・・・梓に示しがつかない。
もちろん、それで梓が蘇る訳でもないし、
梓が「聞いてほしい」と言っていた言葉を聞ける訳じゃない。
・・・それでも、彼女との間に残った唯一の”約束”は守りたい。
「彼女に貢献すること」こそが、
人生で初めて自分で決めた”目標”であり、
”自分が生きる意味”だったのだから。
「俺を・・・アヴァラスにしてください。」
「100%適合できると決まった訳じゃないもんで、
適合しなかった場合は死ぬんやけど、それでも良い?」
そんなこと、当たり前だろう?
・・・今更、俺がどうなろうと、俺の関心事ではない。
「良いに決まってます。」
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・・・およそ1時間後、愛知県内のとある工場施設にて。
「ダメです!さすがに困ります!」
御子柴たちと分かれた後、
今在 征儀は
修理に出していたモバイルポット”メーキ”を回収しに
株式会社LEVOLの下請けである工場施設を訪れていた。
「損傷が激しくて、まだ右腕部分しか正常に機能しないんですよ?
不良品のままお返しすることはできかねます!!
せめてあと1日待ってください!」
30代に見える整備士の男性が、声を荒らげて征儀に必死に訴えかける。
「俺様はこの社会を救いに行くんだ!!黙ってよこせ!!」
征儀は整備士の男性を乱暴に押し退け、
自身の背にメーキを背負うようにして持ち上げた。
「だいたい、貴方は既に
第二世代モバイルポットを持ってるんですよね?
第二世代の2台持ちなんて贅沢じゃないですか?」
整備士が征儀の背後で待機している
赤と紫の2色ポット”アラタマ”を指差す。
「いや、コイツだけじゃ黒幕は倒せないんだよ!!
分かったらどけっ!!」
そう言いながら、再び整備士を押し退け、
征儀はズンズンと早歩きでドアの前へと進む。
「さぁ!!”最終決戦”の始まりだぜ!!」
そう叫ぶと、力一杯ドアを開け、施設を後にした。
「・・・どうなっても知らないぞ・・・あの脳筋ガキ・・・」
整備士の男性は深いため息を吐いた。
★第25話★ 「約束」 完結
お読みいただきありがとうございました。
梓がジェイゾロフトとの戦いで負った致命傷により亡くなり、
主人公である御子柴がラスト株を継ぐこととなりました。
御子柴は梓との約束を守るため、
”全部”終わらせることを決意しますが、それが何を意味するかは現時点では不明です。
そして、征儀は修理途中の第二世代モバイルポット”メーキ”を無理やり回収します。
彼曰く「最終決戦」とのことですが、彼は一体誰と戦おうとしているのか、
今後の展開を是非お楽しみに。




