★第23話★ 突然の刺客
★第23話★ 「突然の刺客」
・・・俺たち3人は愛知県内にある行武病院を訪れていた。
「四十住さん、先ほどお伝えした御子柴さんが来ましたー!」
「失礼しまーす。」
看護師さんの案内で俺らが病室に入ると、
ベッドで上半身だけ起こした状態の小柄な女性がこちらをまっすぐに見据える。
「あの・・・初めまして、御子柴 竜です。」
俺は恐る恐る挨拶する。
「四十住 千佳です。
話は看護師さんから聞いています。
・・・色々ありがとうございました。」
そう言いながら、彼女は頭を深く下げた。
・・・彼女はアヴァラス第1号「エンヴィ株」の本来の後継者だった人間だ。
何となく「ヤバい人なのかな?」という偏見があったが、
初対面の印象は至って普通の女子大生という感じだ。
「ここにいるヤツらは全員同学年なんだから、敬語いらねぇだろ。」
征儀が珍しく冷静なツッコミを入れると、
さっきまで緊張で強張っていた四十住の顔が一瞬にしてほころんだ。
「同学年だったんだ、そっかそっか!」
気が抜けて安堵する様子の彼女に対し、俺は意を決して本題を振る。
「申し訳ないんだけど、
原始会議について聞きたいことがあって・・・。」
俺はてっきり、その一言で彼女の機嫌を損ねると思っていたけど、
彼女は何も聞かなかったかのようにニコニコしている。
「まぁ・・・色々あって、
四十住が原始会議の団員であること、
エンヴィ株の継承者であったこととかは知っているんだ。」
「はいはい、そんで?」
だいぶ彼女にとってはプライベートな情報を提示したはずだけど、
彼女は表情ひとつ変えず、依然として笑顔のままだ。
「単刀直入に訊くんだけど・・・鈴木 結乃って知ってる?
ネットで有名なインフルエンサー”ゆのぽん”なんだけど。
原始会議に関わっているかもしれなくて。」
「すずき・・・ゆの・・・?」
四十住は記憶を辿るように、5秒ほど考え込む様子を見せる。
「う〜ん・・・”ゆのぽん”は聞いたことあるけど、
原始会議と関わりがあるかどうかは知らないなぁ。
原始会議の集まりは基本オンラインMTGだし、
メンバーを本名で認知する習慣がないんだよね。」
「なるほど・・・。」
・・・四十住からは有益な情報は得られないか。
それにしても、結乃は一体何をするつもりなんだ?
「ちなみになんだけど、四十住さんは
なぜエンヴィ株に適合すると判断されたのか自覚はあるの?」
俺の後ろから久田 梓が尋ねる。
すると、四十住が一瞬怪訝そうな視線を梓に向け、
すぐに笑顔に戻った。
「あっ、私は現アヴァラス第5号”ラスト”株の適合者なんだけど。」
「へぇ〜!ラストの人なんだ!
5,6,7号はこれまでに一度も継承されてないらしいから、凄く強いんでしょ?」
「いや、6号は昨日殺害されてるんだけどね・・・。」
四十住は無関心な様子で「そうなんだ」と相槌を打つと、
ベッドの隣にあった棚に乗っているリュックをがさごそと探り始めた。
「私、中3の頃からVTuberやってたんだよね!」
彼女は取り出した黒いインカムを手にして説明を始めた。
「当時の私は陰キャ中の陰キャで友達もほぼいなかったけど、
VTuber活動をしていたら登録者が1万人を超えて、
ネットが私の居場所になった。」
・・・俺は四十住の話を聞きながら、
彼女が大事そうに持っているインカムにふと目がいった。
あのマイク部分だけ銀色になっているインカム、
なんか見覚えがあるんだよなぁ・・・。
しかも、つい直近のどこかで。
「私は高校時代もずっと個人で配信活動を継続して、そのまま大学生になった。
入学後、最初に話した女の子にVTuber活動の件を話したら興味を持ってくれて、
私のアシストでその子も個人勢として活動スタートしたんだよね!」
・・・そうか!思い出した!
昨日、原始会議の主宰である”アイガンノーツ”が
不特定多数人に送信した動画の中で身に付けていたものと同じモデルだ!
ん?まさか・・・コイツが「原始会議の主宰」ってことはないよな?
アイガンノーツは顔をガスマスクのようなもので覆い、
声もボイスチェンジャーで変えていたので、
おそらく素性が知れたら不都合があるんだろう。
四十住は今初めて話しただけだから詳しい性格は不明だけど、
そんな大ヒントになる情報をこんな無防備にする訳がない、と思うけど、
どうなんだろう・・・?
「その子は声も可愛い、話も面白い、歌も上手いでどんどん登録者が伸びて、
たった3ヶ月で10万人に達した。
私は5年以上やって2万ちょい。
そりゃあ、めちゃくちゃ悔しかったよね・・・。
やっぱり才能なんだなって思っちゃったよ。」
四十住は先ほどまでの明るい感じから、
一気にテンションが下がり、本当に悔しそうな表情を浮かべた。
「だからって死んじゃダメだろ・・・。」
俺は独り言のつもりが、声を発していた。
「えっ?どういうこと?」
四十住がキョトンとする。
「あの・・・車に飛び込んで・・・その・・・終わらせようとしたんだよね?
全然登録者2万でも凄いし、声も良いし、明るい感じも才能あると思うけど?」
俺は独り言が漏れていたことに焦って、ついごまかそうと早口で続けた。
「ん・・・?私が自殺しようとしたってこと?」
彼女の不思議そうな表情を見て、
状況を理解した俺は、気付けば鳥肌が立っていた。
梓も状況を察したらしく、険しい顔付きになる。
・・・四十住を殺そうとしたヤツがいる・・・!?
俺は混乱しつつも、当時の状況を思い浮かべようと試みたところ、
突然病室のドアが勢いよく開き、人影が勢いよく飛び込んできた。
「何者!?」
梓は咄嗟に身構える。
しかし、その人物を認識すると警戒を解いた。
「おー!ラストちゃん!久しぶりやんな〜!!」
オレンジ色のアロハシャツに、下はスリムフィットなジーパン。
頭は茶髪のパンチパーマで、色白な肥満体型の男が立っていた。
白衣を羽織っていたので、かろうじて医療関係者だと察することはできた。
「お、お久しぶりです・・・。」
梓は気まずそうに頭を下げた。
「あー、この人はアヴァラスの細胞を単独で研究しているドクター凪。
私もこの人に手術してもらってアヴァラスになったんだよね。」
梓が俺と征儀に説明してくれた。
「おやおや!!原始会議の入団希望者かな〜?」
ドクター凪は俺の全身を舐めるように見渡した後、
征儀に視線を移すと、目を大きく見開き、凝視する。
「おぉっ!!君はなんだか
第8の”ジャスティス”株に適合できそうな予感がするな~!」
何やら感銘を受けたような様子で、
ドクターは自身の背後にいた黄色のモバイルポットに
「欲望指数・計測。」と指示を送る。
『今在 征儀さんの欲望指数、0。
適合候補株、見つかりませんでした。』
「えぇっ!?マジで・・・?」
ドクターは驚いた様子で硬直する。
「僕の勘も外れた上に、”0”はさすがに初めてやなぁ・・・。
君、どんだけ”社会大好き人間”やねん。」
「何のことやらさっぱりだが、俺様は正義のヒーローだからな!!
社会のために悪者は倒すのみだぜ!」
征儀は褒められたものと解釈し、決め台詞を吐く。
・・・一体何のやり取りをしているのか、全然分からない。
呆れて、四十住の背後にある窓の先へと視線を移した直後、
梓が何やら目を大きく見開き、叫びながら、
俺の正面から覆い被さるように飛び掛かってきた。
俺の体は後方に向かって倒れていく。
次の瞬間、轟音と共に病室の壁が突如砕け、
外からの眩しい太陽光と共に病室内に散乱する。
俺は背中から床へと倒れ込むが、
梓が後頭部と背中を両手でカバーしてくれており、
痛みは皆無に等しかった。
視線を上げて梓を見ると、
既に彼女は青と赤の血管を模したチューブに覆われた
アヴァラスの姿へと変身完了しており、
俺から素早く離れ、窓の方へと向き直る。
・・・何だ!?
何が起きたんだ!?
「手荒な登場で失礼します。
初めまして。アヴァラス第5号”コンテイジョン・ラスト”。」
破壊された壁の向こうから突如、
人影が室内に飛び込んできて静かに着地した。
俺をはじめとする、室内にいた
梓、征儀、四十住、ドクター凪、
全員の視線がその人物へと集まる。
・・・テカテカと光沢感のある”紺藍色”を基調としたボディに、
体サイドにはゴールドの3本ラインが入っている。
頭部はフルフェイスタイプのヘルメットを被ったようなシンプルな造形。
両肩には半径30cmほどの金色の球体が肩を覆うようにセットされている。
両手は前腕部分がボコッと高さ50cmほどの台形の形状に隆起しており、
内部に何かを収納していると思われる。
そして、最も特徴的な箇所は、
腰部分を囲うように前後左右に配置された巨大なジェットブースター。
同じように背中にも1つ大きめのブースターが搭載されており、
それを中心としてクロスするように巨大な羽が4枚装備されている。
「”ワタクシ”は新アヴァラス第6号”マーヴェリック・ラース”。
以後お見知り置きを。」
そのアヴァラスと思しき人間は気取った様子で右手を添え、一礼した。
声はボイスチェンジャーか何かで変えられており、判別不能だ。
「残念だけど、6号は昨日死んだばかりで、
僕がまだ手術していないから、新6号はまだこの世に存在していないんよな〜。」
ドクター凪が苛立ちを隠さない気怠い様子で言い放つ。
「あらら、それは言い逃れできないですね。
・・・ワタクシの本当の名前は”ジェイゾロフト”と言います。」
・・・このネイビー野郎はアヴァラスなのか?
でも確かに、言われてみれば、
梓のラストにせよ、
紘のエンヴィーにせよ、
昨日遭遇したグリードにせよ、
共通で生物らしさを感じるフォルムではあった。
それに比べて、今目の前にいるネイビー野郎は
生物にしてはちょっと全体的にメカメカし過ぎる気がする。
「僕の予想に過ぎんけど、もしかしてラース殺したのアンタなんやないの?」
ドクター凪が先ほどよりもあからさまに不機嫌そうに訊く。
「さて、どうでしょう?
ただし・・・」
ネイビー野郎がスッと右手を前に突き出し、
梓が変身した姿である”ラスト”を指差す。
「ワタクシはアヴァラス第5号を殺しに来ました。」
・・・俺は思わず背筋が凍る感覚に、体がブルッと震えた。
が、それとほぼ同じタイミングで、
ラストの姿が一瞬にしてその場から消える。
すると、次の瞬間、ネイビー野郎の腹部に強烈な打撃が入ると共に、
その勢いを殺せず、ヤツが突入してきた壁から外へと放り出される。
それと同時にラストが病室から飛び出したかと思いきや、
両手から伸ばしたチューブでネイビー野郎の両手を瞬時に拘束し、
間髪入れず、高速でチューブを巻き取りながら右足での渾身のキックを決める。
ネイビー野郎は勢いよく病院の駐車場へと落下し、
アスファルトにクレーターができた。
・・・やっぱりラストの動きは
他のアヴァラス達と比較にならないほど速い!
現にあのネイビー野郎もまったく反応できていなかった。
アイツがなぜ梓を殺そうとしているかは不明だけど、
あんなに強い無敗のラストなら、梓なら・・・きっと勝てるはずだ!
「あぁ〜こんなことになるんやったら、
僕自身に今余ってるエンヴィ株かラース株を入れておけば良かったわ〜・・・。」
ドクター凪が頭を掻き毟りながら急いで病室の出口へと向かう。
「ほら、早く1階まで行かないと!」
ドクター凪が振り返り、俺らに向かって声を掛ける。
「あ、四十住さんは黙って寝とってね!
後で部屋移してもらうわ!」
彼女はこの2分ほどで起きたことに理解が追いつかないのか、
真顔で何も言わず、コクンと頷いた。
「ほら、正義マン、行くぞ!!」
俺は征儀の片腕を引っ張ったが、びくともせず、
何やら思考を巡らせている様子だ。
「・・・なるほど、そうか、そういうことだったのか!」
征儀は突如そう叫ぶと、俺の肩をガシッと掴み、歯を見せて笑う。
「”黒幕”が分かったぞ!!」
・・・ヤツの目はとてもまっすぐで、
フザけて言っているようには見えなかった。
そして、その情報がどうでも良いとも思えないのは事実だった。
・・・でも、ヤツが言う”黒幕”の情報よりも、
今俺は優先すべきことがある。
「すまん!俺は梓のところに行かないといけない!
また詳しく聞かせてくれ!」
俺はそう告げ、急いで病室を出た。
すると、背後から征儀が着いてきて、
ついには俺の隣を追い越していった。
「俺様は”黒幕”を倒すための準備をしに行くからな!!」
彼は追い越す時にそう言い放ち、
彼のポット”アラタマ”と共に、病院から去っていった。
★第23話★ 「突然の刺客」 完結
お読みいただきありがとうございました。
今回は本来2話分でプロットを作っていたのですが、
書いていてテンポが悪いと感じたので、1話にまとめました。
四十住は自殺ではなく、「他殺」の疑いがあるという情報が判明。
そして、突如現れた「アヴァラス第6号」を騙る謎の敵は何者なのかは、まだ不明です。
さらに、征儀が「黒幕が分かった」とのことで、
再び主人公達とは別行動をすることとなりました。
一応まだヒントは少ないですが、
既出の情報で黒幕を予想できるようには書いているので、
良かったら当ててみてください。




