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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第5章】あなたにとって社会は必要ですか?
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★第22話★ 黒幕の匂い

★第22話★ 「黒幕の匂い」




高校時代の同級生、久田ひさだ あずさと再会した翌日、

俺は彼女との待ち合わせ場所である城北じょうほく大学の正門前に来ていた。


・・・昨晩はさすがに色々なことが起こり過ぎて、

脳が興奮していたせいで、なかなか寝付けなかった。


お陰様で今日は2時間くらいの睡眠でここに集合している。


もちろん昨日の疲れはバッチリ残ったままだ。




・・・株式会社LEVOL(レボル)代表取締役社長である冷泉れいぜい 奏多かなたの死亡は

今朝のニュースで大々的に報道された。


摘人政策については、彼は考案者に過ぎず、政府の人間ではないから、

特に中止するような動きにはなっていない。


しかし、彼はメディア露出にも積極的だったので、

彼の突然死に対する話題性はかなり強いと思う。




俺は昨晩の疲労は残っているものの、

服装はキレイめの黒スラックスにグレーのジャケットを羽織り、

髪もヘアアイロンとワックスでバッチリ決めてきた。


ちょうど梅雨時の季節、この格好は暑苦しいけど、

高校時代の思い出の女子と待ち合わせという手前、一切の妥協はできない!!




今日は土曜日だから

サークルや部活に参加する学生がチラホラと通るものの、

人通りは普段と比べて少ない。


が、それでも疲労困憊の形相を浮かべ、

これからデートの如くバチバチに決めている異質な俺という学生に

ドン引きの視線を向けてくる輩は少なくない。




・・・張り切り過ぎて待ち合わせ30分前に到着した俺のせいだけど、

早く来てくれ・・・!!




ふと駅の方に続く道に視線を向けると、

早歩きでこちらに向かってくる女性の姿が視界に入った。


久田ひさだ あずさご本人だ。


半袖の白いシャツに、黒のワンピースを着用している。


昨日の水色カーディガンコーデとはまた違った印象だけど、

容姿が良い女性は基本的に何を着ても様になるから、

無条件で「センスも良いんだなぁ」と感じてしまう。




「おはよう〜!ごめん!待ったよね?」


あずさが両手を合わせて軽く頭を下げる。




「いや〜俺もちょうど今来たところだから!!」


お決まりの台詞を吐いて、俺らは鈴木すずき 結乃ゆのの家に向かった。




途中、彼女の隣を歩くだけで舞い上がってしまって

頭が真っ白になっていたけど、彼女の方から上手く会話を振ってくれて、

何とか自然な感じになった。


・・・やっぱり容姿が優れた女子はだいたい男慣れしているし、

男子との会話の機会も多いだろうから、振ってくるネタも何というか上手い。


せっかくのこんなチャンスにリードできないのは悔しいけど、

今、俺が底知れぬ幸せを感じているのは間違いない。




「ちょっと待って。」


あと1kmほどで結乃ゆののマンションに到着するというところで、

あずさが突然俺の袖を引いて曲がり角に身を潜めた。


2人の体の距離が近くなり、思わず俺の心臓が高鳴る。


ふと彼女の顔を見ると、先ほどまでの優しそうな笑顔は消え去り、

警戒心MAXの表情で俺らが歩いてきた道をチラチラ見ている。




「誰かに付けられている・・・。」


「えっ!?」


あずさの一言で、俺の全身に緊張が走る。




「およそ150m後方。男性1人。

 随分と大きな動きをしていて、私達から隠れるつもりは無さそう。

 何かボソボソ独り言を言っている気がするけど・・・ここからじゃ聞き取れない。

 とりあえず気付かないフリをして、向こうから仕掛けてきたら即座に対応するね。

 私は0.4秒あればアヴァラスに変身できるから。」


可愛らしいあずさの変貌ぶりに俺は驚きを隠せなかったけど、

アヴァラス第5号ということもあってか、その頼もしさに俺は安堵していた。




・・・本当は男性である俺があずさを守れたらカッコいいんだけど、

何の戦闘手段も持たない俺はもとより守られる前提になっており、情けない。


・・・しかし、もし尾行者があずさに危害を加えようとした場合は、

俺はいくらでも彼女のために犠牲になるつもりだ。




あずさは尾行者を警戒させないようにか、

これまでと同じ足取りで俺に話題を振りながら再び歩き出した。






やがて俺らは結乃ゆののマンションの入り口まで到着した。


そのまま共用玄関の入り口に隠れ、俺らの背後から近付いてくる尾行者を観察する。




・・・謎の男は規則的な足取りで、ブツブツと何かを唱えながら向かってくる。



「・・・・・・ティス!」


「へっ!?」


その男の顔に見覚えがあった俺は思わず声を漏らしてしまった。




御子柴みこしば君、どうしたの?」


「ごめん、アレ・・・知り合いだったわ・・・。」


「えぇっ!?」


あずさの顔が一瞬にして引き攣る。






「正義!正義!アイ!アム!ジャス!ティス!」


ピチピチの白Tシャツに、黒いスウェットパンツ、

使い古されて汚れたスニーカーを履いている男は、

気持ち良さそうに謎の台詞を口ずさみながら、

行進の如く高く足を上げながら一歩一歩俺らに近付いてくる。


・・・どう見ても不審者の類だ。


やがて俺らのもとまで辿り着くと、立ち止まった。




「久しぶりだなぁ!同級生!!」


大学の同級生である”キチガイ暴力マッチョ”こと、今在いまざい 征儀せいぎだ。




「一体俺らに何の用だよ・・・?」


「簡単な話だ!!俺様が倒すべき”黒幕”に近付くために

 わざわざお前らを追いかけて来たんだぜ!!」




・・・黒幕?


コイツ、ヒーローごっこか何かにハマってるのか?




「俺様の勘だが、鈴木すずき 結乃ゆのは”黒幕”っぽい匂いがする。

 あるいは”黒幕”と何らかの深い関係がある気がする。」


「すまん、全く話に付いていけてないわ・・・。

 その”黒幕”っていうのは”悪者”って感じか?」


俺はドン引きして硬直しているあずさを横目に、

一旦この場の主導権を握ろうとする。




「俺様が倒すべき”ルールを守らない悪人”だ。

 さぁ、ウダウダ喋ってないでさっさと行くぞ!!」


俺もあずさも頭に?が浮かんでいる状態だが、

征儀せいぎは俺らに構わずマンションの入り口を抜けて歩き出す。


俺らは慌てて彼の後に続いた。






最上階の6階にある結乃ゆのの部屋のチャイムを鳴らしたが、反応がない。


ついでに、その隣の部屋、

俺が結乃ゆののインフルエンサー活動を手伝うために借りていた部屋も同じく、

何の反応もなかった。




「居留守も考えられるかと思ったけど、そもそも人の気配が無さそうね。」


あずさがドアに耳を付けて確認しながら言う。




「俺様がここに来るのを読んで逃げたか、それとも、お前らから逃げたか。」


征儀せいぎが腕組みをして思案する様子を見せる。




「いや、たぶんお前と結乃ゆのは面識ないだろ?

 普通に考えて、俺らに会いたくないとか、そっちな気がするけどな・・・。」


・・・いや、待てよ?


何だかおかしいぞ?


その仮説が正しかった場合、

なぜ俺らがここに来ることを結乃ゆのが察知できたんだ・・・?




大前提として、あずさに出会ってから緊張と興奮でぶっ飛んでたけど、

昨晩、俺は結乃ゆのに誘導されてあの場に向かったんだ。




・・・なぜ・・・俺をあそこに誘導したんだ?


冷泉れいぜいに会わせたかったから?


それとも、月影つきかげ しゅんと会わせたかったから?




いや、ちょっと待て・・・。


月影つきかげ結乃ゆのからの依頼で俺を捕えようとしていた。


結乃ゆのは俺を捕えて何をしたかったんだ?




そもそも、俺は結乃ゆのが契約した賃貸物件に頻繁に通っていたから、

何かしら罠を仕掛けて俺を捕えることは容易だったはずだ。


つまり、「俺を捕える」という彼女の目的はダミーだった可能性が高い。




そうなると・・・結乃ゆのは俺を冷泉れいぜいに会わせたかった・・・のか?




・・・いや、違う気がする。


俺は重大な”何か”を見落としている気がする。


寝不足で頭が上手く回らないけど、

気付かないといけない”何か”を、俺は見逃している気がしてならない。




ふと俺は謎の寒気を感じ、自身の鳥肌が立っていることに気付く。






その時、俺のモバイルポット”ジングー”の着信音が鳴った。




『あ、もしもし?御子柴みこしばさんですか?』


パッとは出てこないが、聞き覚えのある声だった。


「はい、そうです。」


『私、行武ゆきたけ総合病院の加賀かがです。

 四十住よそずみ 千佳ちかさんの件でお電話しました。』




・・・四十住よそずみ 千佳ちか


俺が1週間前に車に撥ねられたところを通報した

同じ大学の女子だ。


意識不明のまま、昨日でちょうど1週間が経過していた。


彼女とは直接面識はないが、片親で、

かつ、その母親も摘人てきじん政策が始まって

亡くなってしまったという情報を聞いている。




昨日はさすがにお見舞いをすっぽかしてしまったが、

それまでは毎日様子を見に行っていた。




『昨日20:30頃にもお電話したのですが、出られなかったので・・・。』


昨晩はハプニングまみれで、着信に気付かなかった。


『昨晩、四十住よそずみさんが意識を取り戻されて、

 現在は体調も安定していて、面会できる状態なのですが、

 御子柴みこしばさんのご都合は如何ですか?』




・・・今はそんな余裕はない・・・と思ってしまったけど、

彼女は亡くなったアヴァラス第1号のひろと面識があった人間。


望み薄ではあるけど、もし仮に結乃ゆの

原始会議げんしかいぎと何らかの関係があるならば、

彼女に関する情報が得られるかもしれない。




「分かりました。これから向かいます。」


俺は電話を切り、あずさに視線を向ける。




「・・・アヴァラス同士って知り合いだったりする?」


あずさは残念そうに首を横に振る。




「いや、団員同士の情報はプライベートで、互いに明かす慣習がないから、

 今のアヴァラスの中の人は誰も分からないかな・・・。

 あっ、でも昨日やられた第1号は、

 本来予定していた継承者が事故に遭ったせいで、

 急遽代役の継承者となった人だった、って聞いたよ!」


俺はあずさの返答を聞いて、

ふと昨日の第7号”グリード”が話していたことを思い出した。




原始会議げんしかいぎってアヴァラス以外にも構成員がいるんだよね?」


「そうだね。立ち位置はオンラインサロンみたいな感じで、

 昨日の時点では参加者140人くらい。

 定期的に主宰のアイガンノーツっていう人が話すイベントがあるのと、

 あとは、緊急でアヴァラスに変身するための株を回収したり、

 株を配送する任務を任されることもあるね。」




・・・昨日亡くなったひろ原始会議げんしかいぎのメンバーだった。


そしてひろ四十住よそずみ 千佳ちかに会いに病院に立ち寄っていた。


つまり、あずさの話と組み合わせるなら、

彼女は本来のアヴァラス第1号の継承者、ということになる。




まだ結乃ゆの原始会議げんしかいぎと関係があると決まった訳ではないけど、

もし仮に関係があった場合、

何か有益な情報が得られる可能性はある。


特に、そういうプライベートな部分が隠されている組織だからこそ、

あずさが知らない情報も得られるかもしれない。




「・・・行武ゆきたけ総合病院に行こう。

 結乃ゆのに関する情報が何か得られるかもしれない。」


俺の言葉に、あずさは黙って頷いた。




「よぉぉし!!そうと決まれば先を急ぐぞ!!」


「いや、お前も来るのかよ!!」


征儀せいぎは張り切ってマンションの階段を駆け下り始めた。


その背後を彼のモバイルポット”アラタマ”が急いで追いかけていくが、

俺とあずさは黙ってエレベーターのボタンを押し、箱の到着を待った。






★第22話★ 「黒幕の匂い」 完結


 

お読みいただきありがとうございます。


しばらく登場していないコミュ障インフルエンサー”ゆのぽん”こと”鈴木すずき 結乃ゆの”ですが、

今在いまざい 征儀せいぎによると「黒幕っぽい匂い」がするとのことでした。


御子柴みこしば りゅうは彼女の目的について考えを巡らせますが、

ゴールに辿り着くことはできませんでした。


すると、1週間前に事故に遭って入院していた四十住よそずみ 千佳ちか

意識を取り戻したという連絡が入ります。


彼女は原始会議げんしかいぎのアヴァラス第1号・エンヴィ株の候補者だった人間で、

御子柴みこしば結乃ゆのに関する情報が

何か得られるかもしれないという淡い期待を抱きます。


こうして、御子柴みこしば久田ひさだ あずさ征儀せいぎの3人は

病院へと向かいます。

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