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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第5章】あなたにとって社会は必要ですか?
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★第21話★ アーティファクトの神域

★第21話★ 「アーティファクトの神域」




「・・・第6号、ラースが殺された。」


原始会議げんしかいぎの主宰・アイガンノーツの言葉に、

オンラインMTGに参加していた5体のアヴァラスは言葉を失った。




「これまで無敗だった5、6、7号の一人に初めて黒星を付けたヤツがいるってことか・・・。」


現アヴァラス第3号”オーバードーズ・グラトニー”が深刻そうな様子で呟く。




「・・・6号を倒した相手の情報は既に入手しているのですか?

 少なくとも、ここにはいなさそうですが。」


アヴァラス第7号”アナーキー・グリード”が訊く。




・・・そもそも、原始会議げんしかいぎは”個人の欲望”を重要視しており、

それ故に団員への規制が緩い。


例えそれがアヴァラス同士の”同士討ち”であっても、

特に咎めるといった慣習はない。


現に、これまで何度も殺害され、株が継承されてきた第1〜4号については、

アヴァラスの同士討ちで殺害された者も多数いた。




「情報は少ないが、戦闘によって殺害されたという点だけは確かだ。」


主宰の言葉に、グリードが腕組みをして思案する仕草を見せる。




「第二世代モバイルポットの持ち主なら可能かもしれないが、

 おそらくラースに対抗できるのは”メーキ”、”ヤゴトン”、”サカエ”くらいだろう。

 しかし、最初の2つは同時刻帯に冷泉れいぜいが使用していたから、有り得ない。

 ”サカエ”は一応可能だとは思うが、盛って勝率5%くらいとしか考えられない。

 あるいは、私が知らないモバイルポットが存在しているか・・・。」


グリードの言葉を、主宰含め皆黙って聞いている。




アヴァラスは皆揃って

怪人態のアバターでオンラインMTGに参加しているという点から

察することができるように、

変身前の個人情報については互いにシークレットとなっている。


グリードの正体が

第二世代モバイルポットを設計している株式会社LEVOL(レボル)の役員である

実宝院じっぽういん 駿河するがと知るものはアヴァラスの中にはいない。




「一旦、現時点での報告は以上だ。不審な勢力等を発見したら報告してほしい。」


主宰・アイガンノーツの言葉によってMTGが終了した。






「・・・あ~終わった?じゃあ飲み行きますか~」


総合病院の事務室の一室でノートPCをいじっていた実宝院じっぽういんの隣で、

オレンジ色のアロハシャツにピチピチのジーパンを着用し、

パンチパーマを茶髪に染めた、

30代前半と思われる色白な肥満体型の男が声を掛けた。




広幡ひろはた、一応私は後遺症で体調悪いんだが・・・。」


「まぁ何かあったら僕が治療するから大丈夫だで〜!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




・・・彼の名は広幡ひろはた なぎ


普段は外科医であり、朗らかで一見社交的に見えるが、

常に目の奥が笑っていないのと、

密かに個人でアヴァラスを開発している悪趣味なヤツだ。




出会いは私が大学時代から通っていたラーメン屋だった。


私は必ず毎週末にそのラーメンを食べに行っていたが、

最低月に2回以上は彼とエンカウントしていた。




ある時向こうから話し掛けられ、医学部医学科の学生であることが判明。


私が対人関係の構築がニガテということもあり、

特に親密になることが無かったが、

後ほど、原始会議げんしかいぎの主戦力であるアヴァラスを

密かに単独で開発していたことが判明した。


私が原始会議げんしかいぎに入団した後も、

そこまで親密な関係になることはなかったが、

「話が合うヤツが周囲にいない」とのことで、

頻繁に飲みに誘われるので、適当に付き合っていた。




・・・さすがに今日はやめて欲しかったが・・・。






私達は総合病院を出て、徒歩10分ほどの行き付けの個室居酒屋に入った。




「ってか、ラース死んだとかショックなんやけど。めっちゃ強かったやんね!!」


ハイボール1杯で既に酔い始めた広幡ひろはたが語気を強めて言う。




彼は酔うと原始会議げんしかいぎの機密情報をベラベラと喋り出すので、

個室居酒屋じゃないと飲めない。




「”相手の技を3種類まで設定し、

 それらを使用を試みた時に叱責してその動作を封じる”。

 この能力だったな?」


「ラースが”イラついた”技限定やね!

 ただしヤツはすぐ怒るから実質は無制限!

 あと、技を封じるというのも、ただキレるだけじゃなくて

 相手の脳に作用してコルチゾールを過剰生成させるとかやで、

 よほどめちゃくちゃ意思が強い相手じゃないと防げないと思うんよね!!」




・・・封じられる技は3種類。


”技”の定義範囲によるが、

その3種類の中に”主要技を入れない”ように立ち回れば特に問題はない、

と私がラースの相手なら考える。


そうなると、私のように複数種類の武装を組み合わせて戦う相手であれば、

イマイチ効果が薄い能力ではある。




しかし、ラースはゴリゴリの武闘派タイプだった。


自身の能力を有効に利用するような戦略性はおそらく皆無で、

感情的になって能力を場当たり的に使用しているに過ぎないと考えられる。


その上で、これまで無敗の戦績を収めているということは、

フィジカル面の強さの方が突出していると考えられる。




広幡ひろはた、ラースを倒した相手に目星は付いていないか?」


私の問いに対して、彼は乱暴にグラスを置いて、

思案するように腕組みをする。




「その一、めちゃくちゃ強いアヴァラス。

 その二、原始会議げんしかいぎに詳しい人間。

 その三、我々の知らない第二世代モバイルポットの使い手。

 その四、我々の知らない武装の使い手。

 くらいなんかな〜?」


「その一は、もしいるなら広幡ひろはたが誰よりも知っているはずだろ。」


「せやな〜、現時点で6号を万が一でも倒せるのは5号か7号のみ、やろうね。

 でも、同じ時間帯で5号にも7号にもアリバイがあるんよな。

 1号も殺されちゃったし、現2〜4号には少なくとも、

 ”アーティファクトの神域しんいき”に到達できるような奴はいない。」




・・・アーティファクトの神域しんいき




「”アーティファクトの神域しんいき”というのは初耳だな?」


私が訊くと、広幡ひろはたは油でギトギトの唐揚げを食べて少し間を空けた。




「一言で言うなら”この世への未練を全て捨て去った存在”。

 ”アヴァラス・アーティファクト”と仮で命名しているんやけど、

 僕の理論上、存在しなくもないよなぁ、程度の話やね。」


「随分とおかしな話だな。

 そもそも、アヴァラスの原動力は”欲望”。

 すなわち、”現世で”あれがしたい、これがしたい、といったものだろう?

 どう足掻いてもアヴァラスに適合するような人間が、

 現世への未練を断ち切れるとは思えないが?」




広幡ひろはたは「そうよな〜」と言いながらハイボールをあおる。




「少なくとも、僕は断ち切れなかった。

 だからアヴァラスを他の適合者達に託したんよな。」




・・・広幡ひろはたはアヴァラスの産みの親と同時に、

通常1〜2種類にしか適合できないアヴァラスの株のうち、

7種全てに適合できる傑物なのだ。


しかも、かつて第4号”スロウス株”に適合した際には、

”視界に入った任意の相手の頭部を強制的に弾き飛ばす”という

圧倒的チート能力を使用してみせた。


彼は現在でも「歴代最強のアヴァラス」として

原始会議げんしかいぎでは恐れられている。




加えて、彼の特性はもう1つある。


通常、アヴァラスの株を移植された人間は、その株を体内から摘出されると死亡する。


しかし、彼の場合、アヴァラスの株だけをピンポイントで

口から吐き出すことで、体内に排出することができる。




「なぁ実宝院じっぽういん

 お前は”アーティファクトの神域しんいき”に到達できないんかな〜?」


「残念ながら無理だ。

 私の主欲望は”あらゆることで相手よりも優位に立つ”こと。

 そして、副欲望は”完璧な想定をベースとして相手を圧倒する”こと。

 そもそも、”相手”という存在がなければ私は欲望を発揮できない。」


広幡ひろはたは残念そうに、

おかわりしたハイボールを一気にグラスの半分くらいまで流し込んだ。




「こうなったら、”第8の株”の適合者に任せるしかないんかな〜!」


「”第8の株”だと・・・?」


私は思わず食事を中断して彼を凝視した。




「私の”第7号・グリード株”が最高傑作と聞いていたはずだが、

 まさか、8つ目の株を開発しているということか?」


「そりゃあそうやね!!好奇心がないと人生つまらんよ。

 ってかもう開発完了しとる。」


彼は焼き鳥一本を丸ごと串から抉り取るように食べると、

自信満々といった様子で続けた。




「その名も、7つの大罪の8つ目の大罪”ジャスティス”株。」


「・・・ジャスティス・・・”正義”か。適合者の目処は?」




・・・アヴァラスの適合者は、基本的に摘人てきじんシステムによって

モバイルポットから収集した個人の行動データを元に解析し、発見する。


一般公開はされていないが、

私が広幡ひろはたと共同で作成した専用のアプリを使えば、

社会貢献度と同様に”欲望指数”というパラメータを測定することが可能で、

適合する株を判定することができる。


他にも、広幡ひろはたは独特の”勘”のようなもので

目の前の人間が各株に適合するかどうかをおおかた予測することもできる。




「いや、まだ見つかっとらんよ。

 でも、”私利私欲のために自分の正当性を主張したい”ヤツなんて沢山おるで、

 見込みのある適合者を厳選していきたいとは思っとるけどね。」


広幡ひろはたは楽しげな表情で

鯛の刺身を箸で掴んで醤油を全面に塗りたくる。




「・・・ところで、今後、第8号とか第1〜6号の中で、

 ”こういうヤツが出てきたら負けそう”みたいなのってあったりするん?」


広幡ひろはたは鯛を口に放り込むと、

興味津々といった様子でいつものように笑っていない目をキラキラさせている。




「ご存じの通り、私は事前準備に特化する戦闘スタイルを取っている。

 つまり、そういう敵の想定は常日頃から欠かさない。

 例えば、ウイルスや細菌をばら撒くような敵のために、

 デフォルトで私の吸気・体表等から侵入しようとする有機物を熱殺する

 オート除菌システムを作動している。

 あとは、初見殺しの不意打ちを狙ってくる敵のために、

 ダメージを全身に均等に散らして分散させるバリアを展開したりもしている。」




・・・当然ながら、彼が信用ならない人間なら一切の情報は漏らさない。


原始会議げんしかいぎの方針として、

アヴァラス同士の”同志撃ち”は禁止されていないし、日頃から行われている。




しかし、彼はアヴァラス同士の殺し合いを良くは思っていない。


アヴァラスの”生みの親”なだけあり、

その適合者が殺害されるのは悲しいのだろう。


私の情報を他の適合者には漏らさないだろうし、

アヴァラス以外の他者に漏らしたところで、彼に得がない。






・・・私達はその後1時間以上アヴァラスに関する会話を続けた後、解散した。


互いに、今日この時が2人の”最後の飲み”になるとは知る由もなかった。







★第21話★ 「アーティファクトの神域」 完結


今回もお読みいただきありがとうございました。


原始会議げんしかいぎのルールや、

「この世への未練を断ち切った」すなわち

「アーティファクトの神域しんいき」に到達する

”アヴァラス・アーティファクト”の存在、

そして7つの大罪・8つ目の大罪となる

”ジャスティス”株の存在について明かされる回となりました。


果たして、アヴァラス・アーティファクトや、

ジャスティス株の適合者は現れるのでしょうか?


次回以降も是非お楽しみに。

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