★第18話★ 表裏一体
★第18話★ 「表裏一体」
・・・不登校殺し屋・満希による暴行事件発生から1週間が経過し、
翌週の金曜日になっていた。
あの事件後、教室では不可解な光景を目にするようになった。
なんと、あのモテモテJK・久田 梓が
自発的に満希に話し掛けるようになったのだ。
たぶん最初は先週の件で話す程度のノリだったと思うけど、
今週は満希が登校してきた月・木・金と皆勤賞で会話していた。
久田 梓はたぶん性格が良さそうだから、
自分のために戦ってくれた満希に恩義を感じているのかもしれない。
しかし、俺は正直なところ納得いっていない。
彼女が満希と朝話しているせいで、
俺が彼女に「ちゃっかり善行アピール」するルーティーンが崩壊してしまった。
それに、先週まで満希は
別にそこまで気が合わない訳でもないと思っていたけど、
あの暴行事件の後からは、ちょっと気軽に話し掛けにくいオーラを纏っている。
「・・・あのさ、御子柴君、一緒に帰らない?」
教室で一人帰宅準備をしていた俺は、満希から突然話し掛けられ、
一緒に帰ることになった。
これまで殺し屋側から話し掛けてきたことは一度もなかった。
「僕さ・・・梓さんに告白してみようと思ってるんだよね。」
帰路で俺は衝撃的な言葉を彼から聞き、
思わず立ち止まり、その場で思考停止してしまった。
「はあっ!?」
俺は3秒ほど経過してからようやく反応できた。
「あの、僕は不登校でチビだし、話も上手くないし、
友達も御子柴君以外いないけど、
最近、梓さんのお陰で凄く学校が楽しくて・・・。
梓さん可愛いし、彼女と話していると時間も忘れるくらい楽しくて・・・。」
満希は恥ずかしそうにモジモジしながら早口で続けるが、
俺は沸々と数年ぶりに感じるレベルの怒りが込み上げてきていた。
「やっぱり・・・後から後悔したくないから・・・告白してみようと思ってるんだけど、
御子柴君はどう思う・・・?」
「・・・無理に決まってんだろ!!お前が!?バカじゃねぇの!?」
俺は人目も気にせず、無意識に叫んでいた。
「お前、不登校のクセになんで梓さんと普通に付き合えると思ってんだよ?
そんな世の中甘くねぇよ!!」
彼は驚いた様子でこちらを凝視して固まっている。
「だいたいお前キチガイだろ!!
お前みたいなヤツが梓さんと付き合える訳ないだろ!!
フザけんな!!
だいたい、お前にとって学校が楽しくなってきたのは半分くらい俺のお陰だろ!!
俺に礼の一つくらい言えねぇのかよ!!」
俺が怒りをぶちまけている間、満希は震えていた。
・・・俺は自分が何を言っているか分からなかった。
ただ、この怒りの矛先は満希に対してではなく、
自分自身に対してだということに薄々気づいていた。
満希は非常識な方法ではあるけど、
自ら堂々と梓をいじめから守って、彼女から好感を得た。
・・・対する俺は「不登校生に優しく接してみせる」という
セコい方法で久田 梓のご機嫌取りを試みていたに過ぎない。
自分よりも圧倒的に格下だと見下していた人間が、
自分よりも圧倒的に大きな勇気を持ち合わせていて、
かつ、自分が出来なかったことを平然と成し遂げているという事実に、
底知れない不快感を覚えていた。
「ご・・・ごめん・・・。御子柴君・・・。僕は・・・」
彼は咄嗟に謝るが、すぐさま鼻水をすすりながら涙をボロボロとこぼし始め、
数秒で一人で走っていってしまった。
・・・俺はすぐに衝動的な暴言を激しく悔やんだ。
俺はあの日まで、自分がいわゆる普通の人種だと思っていた。
人並みに優しくて、人並みに思いやりがあって、人並みに気が利く。
そんなセルフイメージを持っていた。
でも蓋を開けてみれば、自分はただの器の小さい人間だった。
・・・俺は紛れも無い”クズ”だ。
俺は、勇気を出して告白する同級生を応援することもできないのか?
俺は・・・いつの間にこんな性格悪いヤツになったんだ・・・?
いや、ダメだダメだ。
さっさと満希に謝らないと。
俺は咄嗟に満希が走っていった方に走り出そうとするが、
そこでふと立ち止まる。
・・・俺は・・・”自分のために”満希に謝ろうとしているんじゃないのか?
自分がこのまま不快感を残したくないから、
謝らないのは”理想の自分”じゃないから、
謝ろうとしているだけじゃないのか・・・?
俺は・・・どこまでいっても「自分のこと」しか考えていないんじゃないのか・・・?
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「満希は・・・あれから1週間後、”自殺”した。」
自分でも無意識に封印していた全ての記憶が蘇った俺は、
久田 梓の前で崩れ落ちた格好で涙を流していた。
「俺が・・・満希を殺したんだ・・・俺は取り返しの付かないことをした・・・。」
おそらく、目の前の彼女は、
突然俺が泣き出したことについて状況が全く整理できていないと思うが、
何も口に出さず、黙って俺の話を聞いている。
「俺は根が”自分が良ければそれで良い”っていうクズなんだよ。
だから社会貢献度が低いし、この社会に存在する価値なんてない!!」
俺はなぜか、自分でもよく分からず、
目の前にいる彼女に自分の話をひたすら浴びせるように叫んだ。
「御子柴君、それは違うよ。」
彼女が静かに言う。
「私は・・・御子柴君に”救われた”んだよ。」
・・・彼女の言葉の意味が分からない。
「んな訳ないだろ!!
俺は・・・満希みたいに梓さんを助けられなかった!!
何も出来なかった・・・。」
「私はね・・・1年生の時は素で生活してたけど、
2年生の時に女の子達から”ウザい”って理由でいじめられて、
そこから”万人ウケする、敵を作らない女子”を取り繕って生活してたんだ。」
突然の彼女の告白に、俺は言葉を失った。
「・・・でも3年生のクラス替えで、
御子柴君が楠根君と楽しそうに、
大きな声で周囲を気遣わずに好きなことを好きなだけ話している姿を見て、
素のままでいることに憧れてたし、昔の自分を重ねちゃって、
頑張ってあの頃に戻りたいと思った。
だから、どうにかして御子柴君と仲良くなりたいと思ったんだよ。」
・・・俺は彼女の言葉の理解が追い付かず、身動きが取れなくなっていることに気付いた。
「満希君が暴力事件を起こした直後、
私は御子柴君と距離を縮められるチャンスだと思って、
積極的に満希君に話し掛けに行ってた。
・・・そうしたら、御子柴君、なぜか満希君と話さなくなっちゃうんだもん。
私の作戦ミスだったよ。
それから・・・満希君が亡くなって、
御子柴君が卒業まで学校来なくなっちゃって・・・。
・・・でもね、御子柴君の”例の口癖”は今でもずっと覚えてる。」
彼女はそう言うと、ニッコリ笑って俺の目を見た。
「”我慢するトコじゃない”。私が我慢しなかったから、こうやって、また会えたんだよ。」
★第18話★ 「表裏一体」 完結
お読みいただきありがとうございました。
今話で御子柴 竜の過去が全て明らかになりました。
彼は不登校生の満希を罵倒し、
ショックを受けた満希は1週間後に自殺してしまいます。
(今話では描かれていませんが彼が”自殺”を選んだ理由は他にもあり、次話以降明らかになります)
そして、彼がポイント稼ぎ計画の対象としていた久田 梓もまた、
御子柴と仲良くなろうとしていたことが判明しました。
そんな彼女は、かつて「素の自分」が除け者にされた経験に苦しんでいた中、
自由気ままに自身の感情のまま振る舞う御子柴と出会ったことで、
救われた気持ちになり、彼の生き方に憧れを抱いていたようです。
そして、現在の大学時代よりも
自由気ままに振る舞っていた高校時代の御子柴の口癖が
「我慢するトコじゃねぇ」であり、
その言葉を彼女は大事にして今日まで生きてきたそうです。
次回は場面が変わり、冷泉 奏多が殺害された直後の現場に移ります。




