★第14話★ 自分が生きる意味
★第14話★ 「自分が生きる意味」
・・・激しい息切れを起こしながら、俺は必死に走った。
この俺、御子柴 竜は
冷泉 奏多に誘導されるまま
あの戦いから逃げた。
そもそも、俺は鈴木 結乃こと”ゆのぽん”から
JUNCビルからDBサーバーを盗むという依頼を託されてここまで来たのに、
結局それも叶わなかった。
依頼もこなせず、同級生のイケメン陽キャこと
西願 紘が亡くなるところも目の当たりにして、
俺のメンタルは正直ズタズタになっていた。
・・・今はただひたすら走ることしかできない。
俺はもうとっくに思考を停止していた。
・・・すると、俺の行く手100mほど先に
一人の人間がこちらをまっすぐに凝視したまま
直立しているのが目に入った。
とてつもなく不気味だが、今はとにかく逃げることが最優先だ。
「ちょっと待て。」
男の声が聞こえ、俺はピタッと足を止める。
「素通りすんなって。御子柴 竜。」
俺はその声に聞き覚えがあった。
そして、その声の持ち主の顔はすぐに脳裏によぎった。
つい2日前に会話した時の記憶が蘇ったからだ。
「ポットヲタクの月影 舜だな?」
「正解!再開を喜びたいところだけど、
今日僕は仕事でここまで来たんだ。」
仕事だって・・・?
「ズバリ、君を捕らえて依頼人に差し出さなくちゃいけない。」
「いやいやいや、唐突すぎだろ!
普通にポットバトルの方の仕事かと思ったわ!」
月影は一切の笑みを見せずに
クソ真面目な表情でこちらを見据えている。
・・・仕事スイッチが入ったか、このヲタクスポンサー野郎。
「その依頼人って・・・誰?」
「いや、言う訳ないだろフザけんな。」
月影は童顔でちょっとアホなイメージがあったから
もしやイケると思ったが、さすがに仕事受けて金稼いでいるだけあるか。
「・・・さすがにつまらないだろうからヒントだけやるよ。」
いや、なんでそうなるんだよ!!
「『ゆ』から始まって『ん』で終わるヤツだ。」
・・・まさかここで嫌な予感が当たるとは思わなかった。
アイツ、最初から俺をハメる目的でここに派遣したのか?
・・・”ゆのぽん”こと、鈴木 結乃。
「まぁ、さっさと捕まってくれ。手荒な真似はしたくないからな。」
その時、俺の背後にいたモバイルポット・ジングーから通知音が鳴った。
『動画メッセージを受信しましたジン!』
「くっ、こんな時に・・・。」
俺が月影の方を見ると、
彼も自身のモバイルポットの通知音に気を取られて背後を見ていた。
「再生しろ、ジングー。」
ジングーは空中にディスプレイを投影し、再生を開始する。
・・・動画が始まると、真っ黒な背景に
ガスマスクのようなものを被った人間が映し出された。
頭上を通すインカムのようなものを装着している。
「・・・これ絶対イタズラやん。」
月影の独り言が聞こえてくる。
・・・ヤツも俺と同じ動画を見ている?
つまり、複数人にまとめて送られているということか?
《初めまして。ワタシは”原始会議”の主宰、
「アイガンノーツ」である。》
・・・おいおい、マジかよ。
《突然だが、摘人政策を考案した
冷泉 奏多は先ほど我々が始末した。》
・・・なんだと・・・!?
冷泉のヤツ、あの黄緑色に光る怪人に負けたってことか!?
《我々、原始会議は【個人】優先主義を唱えている。
人間の文明は、”欲望”を最大の武器として発展してきた。
欲望は人間の本質であり、欲望なくして社会は発展しない。
我々は冷泉 奏多が考案した摘人政策を強く批難する。
社会貢献というつまらぬ茶番で、人が秘めた欲望を抑制するのは愚かしい。
我々は【個人】を中心とした、
個々の欲望によって支えられる社会の実現を目指している団体である。》
アイガンノーツとやらの声は
ボイスチェンジャーを使用しているせいで原形をとどめておらず、
性別すらも分からない。
《冷泉 奏多は死亡したが、
摘人政策は今や国の方針と化している。
我々と共に、このおかしな社会を変えようという意思を持つ者はいないだろうか?》
・・・コイツは一体何を言っているんだ?
《もし我々と共に理想の社会を実現する同志となるならば、
この動画メッセージにそのまま返信するが良い。
それでは、皆の参加を心待ちにしている。》
そこで動画は終了した。
「なんだったんだ、今の・・・。」
「ヤバいヤツがいるもんだ。」
月影は苦笑いを浮かべている。
「・・・さてと、さっきの話の続きに戻ろう。
さっさと俺に捕まってくれ。
と言ってもたぶん”はいそうですか”とはいかないだろうから強硬手段に出るわ。」
月影はそう言うと、指パッチンを繰り出す。
すると、彼の背後から半身が赤色でもう片方が水色のモバイルポット、
"ゴキソー"が現れた。
それと同時に、周囲の物陰から計12機のモバイルポットが続々と姿を現す。
『”第二世代モバイルポット”の機能を解放します。』
ゴキソーからガイダンス音声が流れたかと思うと、
月影の大量のモバイルポットが2列に奇麗に積み上がっていく。
そしてその中央にゴキソーが登ると、
ゴキソーの機体が変形し、モバイルポット3機ずつをそれぞれ手足にした格好の
ドデかいロボットが完成した。
・・・全長は2mほど、だろうか?
普段は見下ろしているポットの親玉みたいなロボットに
逆に頭上から見下ろされると言うまでもなく恐怖を感じる。
「マジかよ・・・」
「抵抗しないでくれよ。まぁ、抵抗する手段も何もないと思うけど!」
月影がそう言った瞬間、
ロボットがこちらに向かって走り始める。
・・・こんな俊敏に動くのかよ!?
俺は後ろを振り向いて走り出そうとしたが、
どう考えても走力で負けていると気付き、再び向き返る。
・・・あぁ、こりゃ無理だ。
俺の絶望を察したのか、月影は指パッチンを繰り出し、
ロボットを俺のすぐ目の前で立ち止まらせた。
「お前の依頼主は・・・」
俺は言いかけて唾をゴクリと飲み込む。
「・・・”ゆのぽん”は俺のこと、なんて言ってたんだよ?」
結局、状況から察するに結乃は俺のことをハメた訳だ。
でも・・・その理由は想像できない。
俺がただのインフルエンサー活動の手駒なら、
こんな他人に依頼してまで俺を捕獲する必要なんてないはずだ。
彼女は・・・何が目的なんだ・・・?
彼女は俺を殺すつもりはないと答えたが、それもどこまで信じて良いのか分からなくなってきた。
あれ・・・俺は結乃に恩を返すために体張ってたけど、
結乃は結局俺を何かに利用しようとしていただけだったんだよな?
じゃあ、今俺は何のために体張ってるんだ?
俺は社会貢献度が低いせいで結乃に協力してもらわないと命が危うい。
でも・・・そうまでして”俺が生きている意味”ってあるのかな?
俺が生きていて、誰か得をするのかな・・・?
「・・・依頼主からは、お前に関する情報をほぼ与えられていないというのが回答だ。」
月影は俺がゆのぽんという名前を出したことに驚いた様子で答えた。
・・・急に全てがどうでも良くなってきた。
なんかもう・・・疲れた。
・・・俺、なんで今まで必死に生きようとしてたんだろうな・・・。
「もういいか?」
気付くと、月影が操るポットロボットの手が迫ってきていた。
・・・もう好きにしろ。
俺は目を瞑って、俯いた。
しかし、次の瞬間、俺は大きな音に驚いて目を開ける。
先ほど俺のすぐ前にいたロボットはいつの間にか
柵を破って川へと落下している。
状況がよく分からない。
「な、何者だこの野郎!!」
月影はこの世の終わりのような表情でこちらを見ているが、
俺には何のことかさっぱり分からない。
俺は彼の視線を追って斜め後ろを振り返ると、
その瞬間、声を失った。
そこにいたのは頭部に王冠のような金色のパーツを身に付けた怪人だった。
全身に赤と青の血管のように浮き出たチューブが
左右から斜めに折り重なるように規則正しく整列しており、
まるでミイラを模しているかのような姿だ。
顔面は王冠を深く被っているようなデザインになっており、
口のような形状のパーツだけが見えている。
割とシンプルなシルエットだが、
原色のカラーリングも相まってかなりグロテスクな印象。
背丈は王冠部分を除けばおそらく150cm程度で、
俺よりも小さい。
「私は・・・アヴァラス第5号”コンテイジョン・ラスト”。」
その怪物は機械音声のように抑揚のない声で自己紹介をした。
身長からも予想できた通り、案の定、女性の声だった。
・・・この声、どこかで聞いたような気もするけど、
気のせいのような気もする。
「その様子だと、俺の邪魔をしに来たらしいが、果たして俺のゴキソーに勝てるかな?」
月影は指パッチンを繰り出すと、
先ほど川に突き飛ばされたロボットが瞬時に跳躍し、
上空から拳を振り下ろす形で怪人へと迫る。
ロボットの拳がアスファルトを破壊し、
怪人もろとも粉々にしたかと思いきや、
怪人はいつの間にか俺から見て左側にある土手の上にいた。
「・・・瞬間移動・・・ではなさそうだな。」
俺には怪人の軌道が全く見えなかったけど、
月影はある程度まで動きを追っていたようだ。
★第14話★ 「自分が生きる意味」 完結
今回もお読みいただきありがとうございました。
主人公、御子柴 竜の前に
”ゆのぽん”こと鈴木 結乃からの刺客として
ポットヲタクの月影 舜が現れます。
月影の持つ第2世代モバイルポット”ゴキソー”の能力は
「他のモバイルポットと合体してロボットになる」というものです。
抵抗する手段がない御子柴でしたが、
そこにアヴァラス第5号”コンテイジョン・ラスト”が現れ、
月影のロボットを妨害します。
ちなみに、ゴキソーの能力で合体する他のモバイルポットは、
通常のモバイルポットなので、変形することができません。
ロボットの上半身、頭部、間接部分、指の可動部、足先の可動部は
全てゴキソーが変形・分離したパーツで構成されます。
ちなみに作中では12機のモバイルポットと合体していますが、
合体数を増減することも可能です。




