★第12話★ アヴァラス第7号の正体
★第12話★ 「アヴァラス第7号の正体」
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・・・時は2045年4月。
「そもそも俺はITとか興味ないんだよね~。」
研究室という名の10畳ほどの部屋で、
1人の大学生が呟く。
「え~!冷泉君って何でもできそうだけどね!」
「俺、実は暗記系はニガテなんだよね。
数字もつまらないから嫌い。
その場で考えればどうにかなるのは得意だけど。」
「え!なんで理系来たのー?」
私の目の前に席に座っている長身の男、
冷泉 奏多が
同じ研究室の女子、柳川と話している。
この私、実宝院 駿河は
無事に4年生進級時に第一志望の研究室へ配属された。
しかし、まさかあのチャラ男の冷泉 奏多が
この細堀研に配属されてくるとは思わなかった。
・・・ヤツは理系科目がニガテと言いつつ、
周囲に良い顔をしてちゃっかり過去問を収集し、
最終的な評価では好成績を修めている、というので有名だった。
しかも、イケメンでコミュニケーション能力が高く、
私を含めた一部の陰キャからは僻まれている。
・・・僻む、という言い回しは少々良くないかもしれない。
ヤツがたまたま対人スキルに恵まれているというだけで、
IT技術に関する知識は私の方が上。
・・・ただ、パッと見の優秀さで評価するとなれば、
あの男は非常に”優秀そう”に見える。
ちゃんと勉強せず、卑怯なマネで単位を取って、
この人気の高い細堀研に配属されている。
尚且つ、見た目だけで周囲からの高評価を勝ち取っている。
そういった事実だけで、私はあの男が好かない。
実際はコイツは私よりも”格下”なんだ。
「あぁ、挨拶が遅れたね。
俺は冷泉 奏多って言うんだ。」
冷泉は女子との会話をそこそこで打ち切り、
私に向かって挨拶をしてきた。
「インテリメガネ君、君の名前は?」
「・・・。」
・・・こういう馴れ馴れしいノリは大嫌いだ。
このまま無視してやろうと思った、その時だった。
「なるほど、君は俺の実力を認めていないから、
格下なんかと口は聞きたくないって感じかな~?」
「・・・!?」
私は衝撃を受けた。
私は一言も彼に喋っていない。
それにも関わらず、私の思っていることをほぼほぼ正確に当てた。
「う~ん、確かに君はとても優秀そうだ。
じゃあ・・・こういうのはどうかな?
君が得意な、もしくは好きなトランプゲームで俺と勝負しないかい?
公平で、実力が勝敗に影響するものであれば何でも構わない。」
「・・・トランプの”大富豪”でいいか?」
ヤツはさっき”暗記がニガテ”と言ったばかりだ。
”特殊能力”を持つ私と大富豪で勝負して勝てる訳がない。
呑気に不利な条件を指定してきたのは向こうだ。
「ただし、この場だけの特別ルールを設定したい。」
私がそう言うと、ヤツはまっすぐに私の顔を見据えた。
「特別ルールは3つ。
1つ目は、互いの初期手札は10枚とし、
残ったカードは山札として裏向きにセットする。
2つ目は、両プレイヤーはカードを出す直前に
山札から1枚のカードを任意で引くことができる。
3つ目は、流れたカードは全て裏側に伏せ、
両プレイヤー共に確認できないようにする。」
「なるほどね・・・それでいこう!」
私は机の引き出しから自分のトランプを取り出し、
軽くシャッフルしてヤツに手渡す。
ヤツは満面の笑みで素早くシャッフルし直し、
カードを配り始めた。
「大富豪は先に手札を消費した方が勝ちだけど、
手札に強力なカードを持ってくるためにドローすることができる、
ということか。」
配り終わったカードを整理しながら、
冷泉は独り言つ。
・・・残念ながら、冷泉に勝ち目はない。
私は先天性の「共感覚」の持ち主。
個人差はあるが、私の場合は、文字を見ただけで音が聞こえたり、
ものに触れただけでそれとは全く無関係な味がしたりする。
しかも私は、それを任意に引き起こせる。
・・・このトランプは、それなりに使い込んできた私物だ。
このトランプに限れば、
カードの色・数字・スートを「音」「味」「臭い」「触覚」と結びつけることで、
私は裏面を「見る」だけで種別を思い出せるようにしてある。
とてもではないが、最初からヤツが勝てる訳がない勝負だった、ということだ。
・・・ふと気付くと、彼の隣で話していた女子柳川は部屋から消えていた。
ーーーーー8分後ーーーーー
「はい、俺の勝ち~!」
冷泉は大声でそう言うと、
最後のカードであるスペードの5を机に叩き付けた。
「・・・こんなことが・・・起こる訳がない!」
私は悔しさのあまり、左手の拳で机を叩いてしまった。
「私は・・・私は共感覚持ちだぞ!?
こんな一般人に・・・大富豪で負けるなんて・・・。」
「やっぱり、何か仕掛けがあったというワケか。
でもまさか、君が10万人に1人と言われている
共感覚の持ち主だったとはねぇ。」
冷泉は驚いて目を丸くする。
「トランプは確実に私が用意した・・・。
一体どこでトリックを仕込んだんだ?」
「トリック?そんなものはないよ。
ただ・・・俺は軽度の”HSP”と診断されていてね。」
・・・HSP・・・Highly Sensitive Personというワードは知っている。
人よりも感覚が敏感で、気疲れしやすい体質。
「元々、他人の感情を読むのは得意なんだ。
ただ、昔から如何せん周囲を気にし過ぎるきらいがあってね。
俺は自分の生まれ持ったその特性が鬱陶しくてたまらなかった。」
冷泉の話を、私は黙って聞いていた。
ヤツの話は、私と重なる部分もあった。
・・・私の場合、共感覚の特性として、
意図しない音や味・匂いを突然不意に感じる。
ひたすら気持ち悪かった。
周囲に共感してくれる人も皆無だった。
普通じゃないことが嫌で、思春期には死を考えたこともあった。
「ただ、俺は高校時代に気付いた。
変えられないものを変えようとするのは効率が悪いと。
むしろ、俺は逆に生まれ持ったものを”活かす”ことを考えた。」
・・・私自身、共感覚の可能性に気付いたのは
高校2年生の時だった。
周囲の人間が覚えられないことを、私は簡単に覚えられる。
調べたところ、これは私の”病気”ではなく”能力”であると分かった。
「俺が目を付けたのは”心理テクニック”だった。
相手の感情を読むことは生まれつき得意だったから、
今度は”相手を自由自在に動かす”ことに着眼した。
・・・でも俺は暗記がニガテだったから苦労したよ。
必死に食らいついて心理テクニックを覚えて、そして実践した。
そうしたら、この大学4年生までの間、
ほとんどのことが”他者を上手く使う”ことで乗り越えられることが分かった。」
「一体、さっきはその”心理テクニック”をどう使ったんだ・・・?」
私にとっては、
・相手の全手札
・山札の全カード
いずれも全てが公開されているに等しい状態だったのにも関わらず負けた。
さすがにヤツがテクニック程度で私に勝利したとは考えられない。
「マイクロエクスプレッションとボディランゲージの連鎖、とでも言っておくか。
通常、トランプの裏面に意味はない。
しかし、君は俺の手札の裏面、1枚1枚に丁寧に視線を向けていた。
単なる癖か、もしくはトランプの裏面に何らかの細工がしてある、と読んだ。」
・・・なるほど、私の視線を敏感に察知されたということか。
「俺は試すためにカードを数回山札から引き、君の反応を探った。
結果、君は俺がカードを引いた時ではなく、
”山札の最上位のカードの裏面が見えた時”に安堵や不安のしぐさを見せた。
つまり、細工が施してあるのは”カードの裏面”であることに確信を得た。」
・・・私はハッとした。
確かに、私はカードの裏面という「視覚情報」でカード種別を判断していた。
つまり、裏面を確認しないことにはカード種別は分からない。
もし私がカードを見て何らかの無意識的な「反応」をしているのであれば、
それは裏面が見えた時に自然と発せられてしまう。
「加えて、大富豪であれば、一般的には
初期段階で手札のカードを降順または昇順に振り分ける。
例えば、俺が9を出した時に、
君の視線は自然と、次に出すカードの候補へと向けられる。
その視線の動きで、君の手札が降順もしくは昇順に並んでいるのか予想できる。
・・・あとは簡単で、山札の最上位のカードが見えた時の君の反応を見れば良い。
君に焦りのボディランゲージが見えて、かつ、
視線が、君の手札の上位カードがある方に向いた場合は
高い確率で山札から上位カードが引ける。
・・・その逆も然り。
この要領で自分のターンにドローすべきかどうかは判断できる。」
・・・まさか、ヤツが毎ターンのドローに
ここまで思案しているとは思いもしなかった。
「ちなみに、肝心の”カードを出す”行為はもっと簡単で、
君が余裕そうな表情をしていたらそのカードを出すのは断念。
逆に君が不安な表情を見せたらそのカードを出す、
ということの繰り返しでしかない。
・・・もっとも、こんな方法は
”カードの裏面からカード種別が判別できる人”にしか使えないけどねぇ。」
・・・私は正直なところ、それを聞いて無性に腹が立った。
どうせ勝った今だからこそ、言いたい放題言っているだけだ。
そんなふうに都合よく捉えて、
変なプライドで素直にヤツを認められない”自分自身”に腹が立った。
「まぁ、今回の一番の肝は”最初”だった。
トランプゲームの中には
勝敗が運に大きく依存するタイプもある。
状況的に君がそれを提案してくるのは避けたかった。
だから、あたかも君に裁量権があるかのように
俺は”君の得意な・好きなトランプゲーム”と提案したんだ。
相手に優劣を付けるであろう君が、
運任せのゲームで挑むとは考えにくいからね。」
「・・・そこまでして私に勝ちたかった理由は一体何だ?」
それを聞いて、冷泉は視線を落として不気味に笑った。
「いや、つまらないプライドだよ。
俺は君を何としてでも倒したい、後悔させたい、
この生意気なメガネ陰キャに俺を認めさせたい、
そういうことしか頭になかったよ、ぶっちゃけ。」
「・・・フッ・・・ハハハハ!!」
私は気付けば、大口を開けて笑っていた。
・・・なんだこの男は?
計算高いメンタリストと思いきや、
ヤツの行動指針は、ただの”私欲”だった。
そして、私欲を満たすための努力は惜しまない。
・・・まさか、こんなイライラさせるヤツが
私と同じ行動指針で生きている”同族”だとは思わなかった。
「・・・私は機転を利かせるような発想がニガテだ。
だから、これまでの勉強は
ひたすら反復してパターンを暗記することでどうにか乗り越えてきた。
共感覚の恩恵もあるが、
ひたすら詰め込む勉強は特に苦だと思ったことはない。」
冷泉は何も言わずに私を凝視している。
「・・・私も・・・お前のように自分の弱点を克服できるだろうか?」
「できるさ。」
冷泉の返答は早かった。
「ただし、自分自身で克服しようとするのは推奨しないね。
人間はいくら弱点を克服したところで得手・不得手がある。
だから、そういう時は他人を使うんだ。
欠けている能力は他人で補い、自分は得意な部分に集中する。
それが最も効率的に弱点を克服する方法だよ。」
・・・”他人を使う”というヤツの表現に、私は底知れぬ愛着を感じた。
正確には、その表現を使う彼自身にも
私は少なからず魅力を感じ始めていた。
冷泉は席を立つと、
窓から外を見渡した。
「俺はね、実は大学の最中か、
もしくは卒業後に起業するつもりなんだ。
・・・君も良かったら俺と共に来ないかな?
君の共感覚に加え、その勉強好きでマメな性格、
どちらも俺が持ち合わせていない稀有な才能だ。
俺と一緒にビジネスで成功して
20代のうちに一生遊んで暮らせるくらいの金を手に入れないかい?」
「・・・素晴らしい・・・。」
私も立ち上がり、彼に右手を伸ばした。
「私は実宝院 駿河だ。
お前に欠けている能力の一部は私が補完できるはずだから、
有効に使ってくれ。」
冷泉は満面の笑みで私の右手を握り返したのだった。
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・・・この私、実宝院 駿河は
アーマーを身に纏った冷泉 奏多を前に、
両手に武器を構えて戦闘態勢に入っている。
アヴァラス第7号”アナーキー・グリード”として。
正直なところ、冷泉を手にかけるのは気が引けた。
冷泉 奏多は、ここで死んで良いような男じゃない。
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・・・時は2047年11月。
冷泉が大学卒業直後の昨年4月に立ち上げた
株式会社LEVOLはこの1年半ほどで急成長を遂げた。
彼は、持ち前のコミュニケーション術と行動力を駆使して
みるみるうちに人脈を広げ、ビジネスを拡大していた。
「うーん・・・アレクセイの商談結果が気になるね~。」
アレクセイ、というのは
合地 アレクセイという
冷泉がどっかからスカウトしてきた
身長190cm越えのロシア人ハーフ男性だ。
元々は冷泉が営業をこなしていたのだが、
案件が次第に増加することで手が回らなくなり、
ちょうど1年前、去年の11月に雇った人材がアレクセイだ。
彼は冷泉のように
心理テクニックが使えるといった特性はないが、
持ち前のビジュアルと口調とオーラだけで「成約率99%」という
怪物みたいな成果を出している。
ちなみに、これは冷泉の82%という数字よりも高い。
「アイツなら大丈夫だろう。」
椅子に浅く腰掛けて天井をぼーっと見上げる冷泉に
私はコーヒーカップを両手に持って話し掛けた。
「あー、ありがと。」
冷泉は卓上の角砂糖を6個もコーヒーに入れ、
すかさずかき混ぜた。
「・・・しかし、アレクセイのヤツ、
成約率で冷泉を越えてくるとはな。
しかもあのフザけた様子だと、
何の努力もなしにあの成果を上げているんだろう。」
私も自分のコーヒーをブラックのまま一口飲む。
「あぁ、彼は凄いね。
俺が昔、必死に身に付けた対人スキルを、彼は元から持っている。
彼は実宝院と同じく、特化タイプの人間だ。」
「・・・私とヤツが”特化タイプ”だと?」
私の問いかけに、冷泉は口元に笑みを浮かべた。
「何かが突出している人間は、大概の場合、
何かが著しく欠けている。
現にアレクセイは”報連相”は壊滅的だよね?」
激甘コーヒーをすすりながら、彼は続ける。
「そんなことを言うが、冷泉、
お前も十分その”特化タイプ”に分類されると思うが・・・?」
「いや、違うね。
俺には突出した、誰にも負けない圧倒的な才能なんてものはない。」
・・・冷泉の言葉の意味が、私はすぐには理解できなかった。
「君たち2人を見れば分かるだろう?
俺は、暗記能力は君に劣り、
初対面で上手く立ち回って信頼を獲得する能力はアレクセイに劣る。
そして、君たちのそれらの能力は全人類でもトップレベルだろう。」
「・・・いや、能力単体で見ればそうかもしれないが、
私とアレクセイはおそらく俗に言う”社会不適合者”だ。
冷泉 奏多という司令塔がなければ
少なくともこのLEVOLは機能しない。」
「その通りだよ、実宝院。
特化タイプの人間を上手く活かすのが
汎化タイプの人間、つまり俺みたいな奴のことだね。」
私は、基本的に彼の感情が読めないが、
今、冷泉からはどことなく不快感が漂っている。
「汎化タイプであることは苦痛か?
私は色々なことをバランス良くこなせるお前が羨ましいがな。」
体感で3秒ほどの沈黙が続いた。
「・・・さぁね。」
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・・・あの頃の冷泉 奏多は
私欲にまみれていた。
そんなお前を、私は密かに尊敬していた。
私欲を動力源として、
多才に何でもこなすお前は私にとって憧れだった。
それなのに・・・”あの日”から株式会社LEVOLは、
いや、お前は【社会】を優先するようになってしまった。
★第12話★ 「アヴァラス第7号の正体」 完結
お読みいただきありがとうございます。
アヴァラス第7号こと、最強アヴァラスの正体は
冷泉 奏多が社長を務める株式会社LEVOLの
技術部門役員である実宝院 駿河でした。
彼は大学4年生から冷泉と知り合いで、
卒業後、冷泉と共にLEVOLを起業しています。
本来の刺激とは無関係な五感が機能する
”共感覚”という稀な能力を持ち、
頭で「暗記」を意識するだけで強力な記憶能力を発揮します。
彼は”事前準備”に長けている一方で、
その場での機転を利かした対応はニガテです。
それとは対照的に、冷泉は事前準備はニガテですが、
機転を利かしたその場での対応力に優れているので、
2人は欠けた能力を補い合える存在と言えます。
しかし、そんな2人でも、
実宝院の尖った能力は
全人類の中でもトップクラスですが、
冷泉の能力は色々な分野で90点を出すようなものであり、
多才ながら決して尖った能力ではない、という違いがあります。
作中では、
良好な仲であったはずの2人の距離が開いた原因は、
冷泉が【社会】を優先し始めたことであると説明があります。
しかし、現時点での詳細は不明です。
次回、因縁の対決である
冷泉 VS 実宝院の勝敗が決まります。
果たしてこの戦いの勝者は
【社会】を優先する冷泉か
【個人】を優先する実宝院か。
ぜひ次回もお楽しみに!




