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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第3章】不義者(アンライジャスマン)
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★第11話★ 誰が為の社会

★第11話★ 「誰が為の社会」






「先ほどは第1号が退屈させてしまったようで申し訳なかった。

 アヴァラスは性質上、変身者の体内から細胞を摘出すれば、

 他の適合者にその細胞を注入し、

 アヴァラスへの変身能力を継承することができる。

 今回、第1号の欠員が出て、急いで穴を埋めるために

 ”予定していた適合者”ではない人間に

 緊急で継承させてしまってね。

 本来であれば、第1号のエンヴィでも

 もう少しまともな戦闘ができるのだが。」




漆黒の体の各所から黄緑色の光を放つアヴァラス第7号を名乗る怪人、

”アナーキー・グリード”は

男か女か判別不能なほどくぐもった声で話し出す。


第1号のエンヴィを一撃でKOした

冷泉れいぜいを前にしているにも関わらず、

怪人のゆったりとした口調からはかなりの余裕が感じられる。




「欲張りで自分勝手な奴ほど

 アヴァラスに適合すると強い、ということか?」


"強化外装きょうかがいそうイフェクサー"を纏った

冷泉れいぜいも声の調子から焦りは見えない。




「欲張り、自分勝手、

 そんなくだらない要素でアヴァラスの強さが決まる訳ではない。」


怪人はそう言いながら、先ほど倒されたエンヴィの亡骸を見据える。




「アヴァラスの強さは変身者の”欲望”に依存している。

 欲望には大きく分けて2種類あり、

 1つは”主欲望しゅよくぼう”、もう1つは”副欲望ふくよくぼう”だ。」




「・・・プレゼンがスタートしてしまったね。」


冷泉れいぜいはそう呟くが、

怪人は特にリアクションを見せずに続ける。




主欲望しゅよくぼうというのは、

 変身者の本質的な欲望だ。

 先ほどの第1号の例なら、

 ”誰かが誰かに自分より評価されているのが嫌だ”

 という”嫉妬”の欲望。

 アヴァラスにとって、主欲望しゅよくぼうの大きさは

 全部で7種類ある各細胞に【適合するかどうか】に関わる。

 ”嫉妬”が主欲望である先ほどの彼は、

 第1号”エンヴィ”株に適合したという訳だ。」




「では、先ほどの第1号が本来よりも力不足だったという理由は?」


冷泉れいぜいが問う。




「それが、副欲望ふくよくぼうの話に関わる。

 副欲望ふくよくぼうというのは、

 主欲望しゅよくぼうを達成するために、

 ”具体的に落とし込んだアクション”を成そうとする欲望だ。

 これはアヴァラスに発現する【特殊能力の性質】に関わる。

 先ほどの彼の場合、副欲望ふくよくぼうとして

 自分のカーストを守りたい、等といった”自己保身”を強く意識していた。」




「つまり、主欲望しゅよくぼうを満たすために

 個々の適合者が”どういう手段で実現しようとするか”によっても

 アヴァラスの戦闘力・特殊能力は変わってくる、という訳か。」


冷泉れいぜいが独り言のように呟くと、

怪人は首を軽く縦に振った。




「エンヴィ株は”嫉妬”の特性故に、

 他者を攻撃するためのアタッカー寄りの特殊能力が発現する場合が多い。

 しかし、彼は本能的に”他者からどう思われるか”という

 外見そとみの部分に強い執着があり、

 防御に特化した能力が発現したパターンだった。

 ・・・やはり、我々”原始会議げんしかいぎ”以外が選定した適合者は

 力量不足という訳だな。」




「・・・しかし、妙だね。

 君たちの”原始会議げんしかいぎ”という組織の目的は何だ?

 さっきのエンヴィは本能のまま

 後ろの大学生を殺そうと襲ってきただけだった。

 俺はオマケだとでも言うような具合に。

 組織の邪魔になるならば、

 俺を最優先にターゲットにすべきじゃないのかな?」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






冷泉れいぜいと怪人が会話を続け、

御子柴みこしば りゅうがそれを見守る中、

ビルの屋上に1人の盗聴者がいることに

彼らは気付いていなかった。






「・・・こりゃあ、おかしいぜ。」




そこにいるのは身長170cmのゴリゴリに筋肉質な男性。


白いタンクトップに黒いスウェットパンツを身に付け、

頭髪をチクチクに立ち上げたワイルドな若者が、

JUNCビルの屋上から彼らの話を聞いていた。




彼は御子柴みこしば りゅうの同級生である

”キチガイ暴力マッチョ”こと今在いまざい 征儀せいぎである。




「”アイツ”の依頼でここまで来てやったは良いが、

 冷泉れいぜいの野郎の様子がおかしいぜ・・・。」


そう言いながら、彼は背後を振り返る。




そこには、彼のモバイルポットである

赤と紫の第二世代ポット”アラタマ”が待機していた。




「俺様の社会貢献度は?」


『社会貢献度“8751”。本日の規定値以上です。』


「やっぱり俺様の【不適合者センサー】は正常だ。」




通常、社会貢献度の測定にはモバイルポットの機能を使う必要がある。


しかし、今在いまざい 征儀せいぎ

”目視でおおよその社会貢献度を把握することができる”

という能力を持っている。




冷泉れいぜいの野郎・・・本当にあんなに”低い”のか?」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






怪人はまだ攻撃の姿勢を見せず、話を続ける。




「勘違いしているようだが、

 アヴァラスは原始会議げんしかいぎ傀儡かいらいではない。

 原始会議げんしかいぎの目的は

 "自分の欲望に忠実に生きることの素晴らしさを国民に広めること"だ。

 アヴァラスは欲望に忠実に生きる人間の象徴であり、

 彼らに組織への帰属意識は一切求めていない。

 もちろん、”害悪思想”を潰すという行動指針がない訳ではないが。」




「国民全員がその思想に染まったら社会はどうなるのかな?

 個々が好き勝手に生きて社会が機能するんだったら

 ”政治”も”通貨”も”法”もいらないってことなのかい?」


冷泉れいぜいがそこまで言うと、

怪人は3秒ほどの沈黙を経て、再度声を発し始める。




「・・・社会を構成するのは個人。

 つまり、社会はどんな形であれ”個人”によって保たれる。

 個人の欲望の果てに存在するのが社会であり、

 貴様のように社会から構築しようとするのが間違っているのだ!」


怪人はこれまでとは一転し、

殺気を込めた様子でそう言うと、

両手でボクサーのようなファイティングポーズを取った。




冷泉れいぜい 奏多かなた、最後に確認しよう。

 摘人政策てきじんせいさくを諦めるつもりはないか?」




怪人が問うと、冷泉れいぜいは身に纏ったアーマーの下で

乾いた笑いをこぼした。




「ないね。」




「そうか・・・。」


怪人が静かにそう呟くと、

怪人の腕に付いた六角形の装甲から黄緑色の光が発せられ、

彼の目の前の空中にディスプレイ画面が表示された。




GITジーアイティー起動!フェッチ&リベース!!」


彼は腕を体の正面に配置し肘を90°に曲げ、

まるでタイピングするように指を動かす。


そして、すかさず空中の何もない部分を握るように構える。


すると、ディスプレイ画面が消え、

彼の左右の手にはそれぞれ

刃部分が黄緑色に発光する剣と、

やけにシャフト部分が長いトンファが、

まるで手の平から生えるように突如出現した。




99.99999(イレブン)9999%(ナイン)発動!」






★第11話★ 「誰が為の社会」 完結


お読みいただきありがとうございます。


第11話はアヴァラスの特性、

そして新組織”原始会議げんしかいぎ”の目的について

アヴァラス第7号の口から語られました。




原始会議げんしかいぎは、

”個人が欲望に従って活動することで良い社会が構築できる”

という思想を抱いており、

社会を重視して個人を軽視する冷泉れいぜいとは

相反する思想であるといえます。




アヴァラス第7号の正体は性別含め現在不明ですが、

冷泉れいぜいに対して摘人政策てきじんせいさくを諦めるように促し、

冷泉れいぜいを殺害することを少し躊躇っている様子を見せます。




そして、1章ぶりの登場となりましたが、

”キチガイ暴力マッチョ”こと

主人公の御子柴みこしばと同学科の今在いまざい 征儀せいぎが現れます。


彼は目視でおおよその社会貢献度を測定することができますが、

そんな彼は冷泉れいぜいの社会貢献度を見た結果

「おかしい」と呟いていました。


これがどういった意味なのか、現時点ではまだ不明ですが、

今後重要な伏線となっていきます。




次回、アヴァラス第7号の正体が判明。

変身者の過去に迫ります。


是非、お楽しみに!


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