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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第3章】不義者(アンライジャスマン)
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★第10話★ 社会を持続させること

★第10話★ 「社会を持続させること」




冷泉れいぜい 奏多かなたの目の前には

黄色と赤で半分に色が分かれた第二世代モバイルポットが停止する。




「紹介しよう。

 これが俺の切り札、最強第二世代モバイルポット”メーキ”だ!」




西願せいがん ひろが変身する謎の怪人、

カスケイド・エンヴィはそのモバイルポットを凝視する。

挿絵(By みてみん)


「モバイルポットなんて、第二世代だとしても所詮は武器にしかならない。

 その赤と黄色のポットからどんな武器が飛び出るか知らないが、

 全身が武器と言っても過言じゃないアヴァラスが負ける訳がない。」






・・・市販されているモバイルポットはもちろん、

携帯端末としての役割しか果たさない。


しかし、冷泉れいぜいが社長を務めるLEVOL(レボル)では

正義者ジャスティスマンという、

集団の利益を追求する意欲が高い人種に

専用のモバイルポットを配布していた。


それが第二世代ポットといって、

ある基準を満たせばモバイルポットが変形して

内部から武器が出てくる、という仕組みになっている。




今、冷泉れいぜいが呼び出したポットも第二世代ポットであり、

何らかの武器が出てくることは想定できる。




でも、相手は人間の力を超越したアヴァラスという怪人だ。


開発元の社長のモバイルポットとは言っても、

あの化け物に勝てる武器が出てくるとは考えにくい。






「ならば、”全身が武器”なら勝てる見込みはある、ということだね?」


そう言い、冷泉れいぜいは再度指パッチンを繰り出す。




『第二世代モバイルポット”メーキ”・ウェポンモードを起動します。』


彼がメーキと呼ぶポットが、上から半分に割れるように展開してベースとなり、

まるでページを開くと立体的に浮き上がる絵本のように

細かい金属パーツがベース上に並ぶ。




それを確認すると、冷泉れいぜいは両手の平を上に向けて腕を広げ、

軽く夜空を見上げた。




「・・・変身!」




彼の叫び声と同時に、

メーキが変形したパーツの並んだベースが

彼の方に向けて一気に傾き、

彼はそのベース上に並べられたパーツ一式を

体の正面から受け止める格好になる。


そして、正面に装着されたパーツが足元から順に

体の後ろ側を覆うように連続で変形していき、

3秒ほどでベースは元の角度に戻る。


挿絵(By みてみん)


全身は深いガンメタルの銀に包まれ、光を受け、冷たく鈍く輝いている。


両肩には、巨大な円筒状の装甲が腕を覆うように垂直に突き出し、

重厚なシルエットを形成する。


肩の装甲は厚く、まるで巨大な砲塔のように存在感を放ち、

動きのたびに金属の重みを感じさせる。


胸部中央には、鮮やかなメタリックパープルで描かれた大きな「X」が浮かび上がる。


Xの交差点から下へ、流線型に尖った装甲が鋭く前方へ伸び、

まるで槍の穂先のように胸を貫く。


紫のラインは静かに脈動し、冷たい金属の中に生命のような光を宿している。


頭部は洗練されたヘルメット型。


バイザーは深い黒で覆われ、その上を紫のX型装甲が覆い被さるように配置される。


両側から伸びる二本のアンテナは細く長く、

先端まで鮮やかなパープルに輝き、まるで鋭い刃のように空を切っている。


脚部は対照的に、裾まで広がるワイドなフォルム。


側面を紫の発光ラインが縦に走り、動きに合わせて光が滑らかに流れる。


上半身のゴツさと下半身の流麗さが交錯し、

全体として威圧感と優美さを同時に纏う、異様に洗練された姿だった。




「さて・・・」


冷泉れいぜいがそう言うと、

両肩の六角形装甲のサイドが紫色に発光しながら高速で回転し始めた。


それから2秒ほど経過し、彼は自身の両手を開閉させる。


彼が動くと同時に、両肩の装甲の回転が弱まり、ゆっくりと停止する。




『”強化外装きょうかがいそうイフェクサー”の使用は許可されています。

 このまま対象を排除してください。』


女性のガイダンス音がモバイルポットのベースから流れると、

冷泉れいぜいはゆっくりと前進を始めた。




「さぁ、最強の第二世代ポットの力、じっくりと見せてやろう。」


彼が装着するアーマーの両肩の装甲は、

彼の動作を認識すると激しく回転を始めるようだ。


それがあのアーマーにどう作用しているか分からないが、

紫色に発色するライトが禍々しさを強調する。




「ヒーローごっこのつもりか知らないが、

 たかがポットが変形した武装がアヴァラスに勝てる訳がない!」


西願せいがん ひろが変身したカスケイド・エンヴィが

一気に距離を詰める。




エンヴィが回し蹴りを繰り出すと、

冷泉れいぜいは受け身の姿勢も間に合わず、

もろに顔面へとヒットする。




「は?あんな派手な演出のくせに

 この程度避けられないなんて勝敗は既に」




・・・その瞬間だった。




エンヴィの話が止まったかと思うと、

彼は一瞬にして脱力し、

両手をだらんと垂らし、俯く姿勢になった。




「なぜ・・・なぜ・・・!?」




エンヴィは力なくそう言うと、

咳き込んで物凄い量の鮮血を吐き出した。




「紹介が遅れたが、この”強化外装きょうかがいそうイフェクサー”は

 ”2秒の壁(クライシス・ディレイ)”というシステムを採用していてね。

 通常、脳が筋肉に向けて電気信号を発してから

 筋肉が実際に動くまで0.2秒以上かかると言われている。

 そして、このアーマーの装着者は、

 ”筋肉に電気信号が到達してから、さらに2秒後”にその動作を行う、

 という制約を課される。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・・・仮に「右手をパーにせよ」という命令が脳から発された場合、

約0.2秒後に実際に「右手がパーになる」。


しかし、このアーマーを装着した状態で

「右手をパーにせよ」という命令が脳から発された場合、

・命令が右手の筋肉に到達するのに約0.2秒

・そこから更に「右手がパーになる」のに2秒

を要する動きになる。


つまり、未装着状態と比較すると

あらゆる動作を実行するために「約11倍」の時間を要する、

という非常に扱いにくい、クセのある仕様となっている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




挿絵(By みてみん)


エンヴィの腹部には

アーマーを纏った冷泉れいぜいの右腕が貫通していたのだった。


「もちろん、普通の人間ではこの2秒の壁(クライシス・ディレイ)を克服できないが、

 世界そして世界マルチスレッド・ブレインを持つ俺なら

 このイフェクサーを扱うことができる。」


「そんなもので・・・この俺が・・・倒せる訳が・・・」




エンヴィはかろうじて未だに怪人の姿を保っているが、

いつ死んでもおかしくない状態だった。




「君は再生に特化した怪人で、

 ”表面が破壊された瞬間ほぼ同時に再生が進行する”能力を持つ

 とさっき自分で言っていたよね~?

 単に再生能力が高いのであれば

 主語が『体が』とかになるはずだけど、

 君はわざわざ”表面”という言葉を口にした。」




右腕を怪人の腹部に貫通させたままの姿勢で、

冷泉れいぜいは続ける。




「内部まで破壊が及ぶ攻撃が有効である、

 と自分で言っているようなもんだよ。

 ・・・結局のところ、エンヴィだけではなくて

 君自身も自分の表面だけにしか自信がない。

 中身はスカスカ。

 その程度の存在だったって訳だ。」


「うるせぇ・・・俺は・・・俺は・・・」




エンヴィは悔し気に肩を震わせる。


彼は見る見るうちに元の

西願せいがん ひろの姿に戻っていく。




「・・・カースト最上位にいるべき存在なんだ!!」




その次の瞬間、彼の頭部がまるでねずみ花火のように

鮮やかな血を撒き散らしながら空中でクルクルと回転し、

アスファルトに転がった。


アーマーを纏った冷泉れいぜい

右拳によるアッパーの構えで硬直し、

その一部始終を観察していた。






・・・ひろ・・・。




冷泉れいぜいひろの戦いを傍観していた俺は、

思わず涙を流している自分がいることに気付いた。




・・・ひろは自分のカースト意識を満たすために

俺とつるんでいただけだった。


でも、そんな彼でも、

俺と過ごしていた時間があったことは事実だ。


彼はイケメンで色々な人と仲良くできていたし、

実際、俺も完全に彼を信用していた。


彼がどう思っていようが、

俺は彼を友達として認めていたし、

今もそれは変わらない。




もっと・・・ひろと話しておきたかった。




そして、今俺は彼を殺した冷泉れいぜいに対して

理不尽な怒りを覚えている。


もちろん、この場に冷泉れいぜいがいなかったら

俺はひろに殺されていたに違いない。


でも・・・でも・・・どうしてもヤツを許せない。






「・・・さてと。」


冷泉れいぜいはアーマーを纏ったまま俺の方に向き返る。


彼の右腕には、さっき葬ったひろの血が

どっぷりと付いている。




「こんな状況でも君はまだ

 JUNCビルに侵入することを諦めていないかい?」




・・・アヴァラスという人間を遥かに超える力を持つ怪人を

たったのパンチ一撃で戦闘不能に追い込むアーマー。


そんなアーマーを纏ったヤツを突破してビルに入るなんて

ちょっとそれはいくら何でも無謀過ぎる。




力業では到底無理だけど、

何か・・・何か策はあるはずだ・・・。




「お前は・・・人を殺しておいて何とも思わないのか?」


自分の口から意図せずでてきた言葉に驚く。




「さっきも言ったけど、君よりも大きなスケールで

 俺は物事を考えているんだよね。

 人は社会を構成するパーツに過ぎない。

 パーツを捨てただけでは基本的には何とも思わない。

 もちろん、それが社会に必要な

 優秀な人材や努力を重ねて結果を出すことが見込まれる人材だったら

 話は別だけど。

 ・・・残念だけど、さっきのアヴァラスはそれに該当しない。

 だから殺した。

 それだけだよ?」


「お前は・・・何様だ・・・?

 社会の神様になったつもりかよ・・・?」




俺は激しい怒りを覚えたが、

何もできずに立ち尽くす自分が

とても惨めに感じた。






・・・俺には冷泉れいぜいに意見する力がない。


彼の言葉でいうところの「パーツ」に過ぎないんだ。




確かに、彼は社会のことを考えて行動している、

この危機的状況にある日本社会に必要な人物なのかもしれない。




・・・それに比べて俺は?


自分がただの「パーツ」じゃないことを

自分で証明できない・・・。




もちろん、ひろみたいに

自分最優先で

自分の好きなように生きて

自分の欲求を満たす生き方もあるにはある。


でも、そんなことを正当化したら社会は崩壊する。


そんな奴が一定以上いたら社会が成り立たない。




じゃあ・・・冷泉れいぜいの思想が正しいのか?


俺は・・・社会に貢献しなければ

ただの「パーツ」なのか?






「いい加減、見方を変えようよ、御子柴みこしば。」


冷泉れいぜいの呼び掛けに、俺はハッとした。






・・・確かに、彼は今俺の名前を口にした。


俺はヤツに名前をまだ名乗っていないのに。




当然、さっきひろが俺の名前を口にしたのは

ヤツの耳にも入っていたはずだ。


俺の名前の情報が出ていなかった訳じゃない。


でも、「パーツ」呼ばわりするどうでも良い人間の名前を

ヤツが記憶していて呼ぶとは考えにくい。






案の定、冷泉れいぜいは続く言葉がすぐに出ない。


僅かではあるけど、動揺しているように見えなくもない。






・・・冷泉れいぜいは今日出会うまでに

既に俺の名前を知っていた?


となると、俺が今日この場に来るのも知っていたのか?


じゃあ一体誰が情報を流した・・・?




今揃っている情報で導き出される答えは1つだった。




”ゆのぽん”こと鈴木すずき 結乃ゆのだ。






・・・何がどうなってるんだ?


結乃ゆの冷泉れいぜいに情報を流して何がしたいんだ?


全然分からない。






「お前、結乃ゆのと結託して何がしたいんだ?」




・・・俺が訊いたその瞬間だった。




空が少しだけ光ったかと思い、やや死線を上に向ける。


すると、一瞬のうちに黄緑色の閃光が地面に達し、

俺達のすぐ近くに落下した。




地面が揺れるほどの衝撃で、

冷泉れいぜいもそれに気付いたのか背後を振り返る。




・・・落下した物体が人型だということに気付くのに

そう時間は掛からなかった。


前傾姿勢で、片膝を付いた状態で停止している。




漆黒のボディ。


その所々に黄緑色に光るラインが配置された、

ゲーミングデバイスを連想させるような配色。






その人型はやおら立ち上がると、

こちらをまっすぐ見据えた。


・・・それだけで、俺はヤツから放たれる

ただならぬ気配を察知した。


挿絵(By みてみん)

全身は深い漆黒の装甲に覆われ、

表面には回路基板を思わせる無数の細い溝が精密に刻まれている。


頭部は滑らかなヘルメット型で、バイザーは横長の黒一色。


頭頂部から二本の細いアンテナが垂直に伸び、

先端まで鮮やかなライムグリーンに輝く。


両肩からは鋭く尖った翼状の装甲が大きく左右に張り出し、

先端は刃のように研ぎ澄まされている。


全体のシルエットは細身で流麗ながら、肩の突起が強い存在感を放つ。


前腕部には六角形の発光パネルがはめ込まれ、

黄緑の光が静かに明滅する。


胴体から脚部にかけて、装甲は体のラインに沿って密着し、

細かなパネルが規則正しく重なり合うことで、

機械的でありながら有機的な動きを予感させる。


静かに立つ姿は、まるで影そのものが形を成したかのように冷たく、鋭い。




「今ここに現れるってことは、アヴァラスの一派と見て間違いないだろうね。」


冷泉れいぜいは腕組みをして余裕の姿勢で訊く。




「いかにも、私はアヴァラス第7号”アナーキー・グリード”だ。」


ひろが変身していたカスケイド・エンヴィ同様、

くぐもった声で漆黒の怪人が答えた。


しかし、こちらの声はノイズが激しく、

男性か女性か判別できないほどだ。




「さっきの貝殻は第1号とか言ってたっけ?

 君は第7号?数字が増えると何が変わるんだろう?」


「アヴァラスは第1号が試作品、

 その後研究が進み、最終的には第7号まで完成した。

 そして、アヴァラスは第7号で当初予定していた極限へと至り、

 研究を完了した。」


「つまり・・・君の第7号が”最強のアヴァラス”ということか。」




”アナーキー・グリード”と名乗る怪人は鼻で笑った。




「我々”原始会議げんしかいぎ”にとって、

 冷泉れいぜい、貴様の存在・思想はただの害悪だ。

 ・・・いや”私にとって”と言うべきか。」




その発言を聞いた冷泉れいぜいは腕組みを解き、

両手を開閉させ、戦闘準備に入る。




「・・・面倒臭いね。

 何もできない君はさっさと逃げた方が良いよ。

 この相手は、おそらくさっきの貝殻とは次元が違う。」




冷泉れいぜいは敵を見据えたまま、

背後にいる俺に声を掛けてきた。






・・・彼の言葉に反応しようとした俺は、

自分が震えていることに気付いた。




何だろう、この寒気は?


・・・この嫌な予感は?




あれほどの性能を誇るアーマーを纏った冷泉れいぜい

そう簡単に負けるような気はしない。




でも、何だろうか・・・?


自分でもよく分からない、”嫌な予感”がする。




・・・怖い、今ここで逃げ出したい。




そんな心の叫びを必死に押し殺し、

俺はこの戦いの結末を見守ることにした。


なぜだか知らないけど、

この戦いは俺にとって、

とても意味のあるものだという予感が拭えなかったから。










★第10話★ 「社会を持続させること」 完結




今回もお読みいただきありがとうございます。


冷泉れいぜいが装着する”強化外装きょうかがいそうイフェクサー”は

2秒の壁(クライシス・ディレイ)というシステムを採用しており、

装着者の脳からの命令が発せられた約2秒後に

動作を反映します。


つまり、あらかじめ相手がどう動くのかなどの情報を先読みし、

適宜脳からの命令を出さないと使い物にならないアーマーです。


しかし、冷泉れいぜい世界そして世界マルチスレッド・ブレインを持つので、

このアーマーを使いこなすことができます。


作中には書いていませんが、

2秒の壁(クライシス・ディレイ)は命令を受け付けてからの2秒間に

内部で強力なエネルギー変換を行うためのシステムなので、

装着者のパンチやキック一撃一撃が必殺級の威力となります。




イケメン陽キャこと西願せいがん ひろが変身する

カスケイド・エンヴィを始末したと思ったら、

今度はアヴァラス第7号、つまりは最強のアヴァラスである

”アナーキー・グリード”が現れます。


変身者はまだ不明ですが、

冷泉れいぜいはアナーキー・グリードを倒すことができるのでしょうか?




また、新組織”原始会議げんしかいぎ”の名前がグリードの口から正式に出ました。


彼らの組織の目的は?

冷泉れいぜい殺害の先には何があるのでしょうか?

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