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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第3章】不義者(アンライジャスマン)
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★第9話★ 世界そして世界

★第9話★ 「世界そして世界」






・・・俺と冷泉れいぜい 奏多かなたの目の前には

濃紺の鱗で敷き詰められた皮膚に

巨大な貝殻を模した灰色の装甲をまとった怪人がいる。

挿絵(By みてみん)

そして、その怪人は俺達を殺さんと

こちらに迫ってきている。




「死ねええええ!!」


怪人は叫ぶと冷泉れいぜい 奏多かなたに向け、

鋭利な爪が伸びた腕で左右から切り裂いた。


次の瞬間、冷泉れいぜいは姿勢を低くすると

バックステップで5歩ほど後退した。




「チッ!小細工か・・・?」


怪人は手ごたえが無かったという様子で自身の両手を見つめた。




それでも、周囲のコンクリートの壁には

爪で削られた跡がくっきりと残っていて、

あの怪人に挑むことの無謀さがよく伝わってくる。




「こんなところで”俺の能力”を見せるつもりは無かったが、

 今はやむを得ない状況だね~。」


冷泉れいぜいが説明を挟もうとしたその一瞬の隙を突くべく、

怪人、カスケイド・エンヴィは右フックを繰り出す。


しかし、一瞬で冷泉れいぜいの頭部が右に傾き、

その拳を避けた。




怪人は間髪入れずに左右からの連続パンチを繰り出すが、

そのどれも彼には命中しない。


もちろん、爪の斬撃だろうとパンチの衝撃だろうと、

当たり所が悪ければ一撃で致命傷を負って死ぬレベルだろう。




それに、それらの攻撃は見えないほどでないが、

明らかに人の限界を越えているスピードではある。


仮に攻撃を仕掛けられたのが俺なら

一撃目で間違いなく食らっていた。




しかし、そんな怪人でもさすがに不審に思ったのか、

ファイティングポーズを取ったまま俺達と2mほどの距離を取った。




「・・・貴様、何者だ?

 俺は細胞特化型強化兵器である”アヴァラス”に変身してるんだぞ?

 どんなイカサマを使ってるんだ!」


世界そして世界マルチスレッド・ブレイン、それが俺の能力。

 俺は全人口の2%存在すると言われている、

 マルチタスクを問題なくこなせる”スーパー・タスカー”なんだよね。」




・・・やっぱり、冷泉れいぜいはごく普通の一般人ではなかったということか。




「一般的なスーパー・タスカーは、脳の処理を超高速で切り替えることで

 マルチタスクが可能な状態を作り出している。

 でもね、俺の脳は”本当の並列処理”が可能なんだよ。」


「同時に2つのことを考えられる、ということか?」




怪人は驚いたように冷泉れいぜいの頭部を見据える。




「そういうこと!

 でも、これはなかなかにクセの強い能力なんだよね。

 並列処理の本領を発揮するには”何を並行で思考するか”という

 事前準備が僅かでも必要になる。

 悔しくも、それを思考するために1スレッド消費してしまう。

 ・・・まぁ、今となっては慣れたからどうでも良いけど、

 俺はこういった瞬間的な判断を要される

 リアルタイムの戦闘には不向きなんだよね。」


「それは”お前にも十分チャンスがある”というお情けのつもりか?

 いずれにせよ、冷泉れいぜい御子柴みこしば、貴様らは殺す!!」


「・・・前から気になってたけどよ・・・」




俺は2人の会話に思わず口を挟む。




「そこにいる残酷思想の持ち主はともかく、

 なんで俺はそんなお前に恨まれてるんだよ!ひろ!」




怪人の正体は

俺の同級生である西願せいがん ひろ


俺は彼にそこまで恨みを買うようなことをした記憶がない。




「・・・仕方がない。どうせ死ぬんだし、教えてやるよ。」


怪人は3秒ほど考えてからくぐもった声で答えた。




「俺は大学入学直後の5月、

 結乃ゆのちゃんに告白して振られたんだよ。」


「は?」




俺の返答を待たず、怪人こと西願せいがん ひろは続ける。




「その時はまぁ・・・彼女はかなり寡黙なタイプだし、

 単に人付き合いがニガテなだけだと思っていた。

 でもお前は結乃ゆのちゃんと気安く話していた。

 ・・・それだけじゃない!

 彼女はお前を病院の入り口に迎えに来ていた!!」


怪人のくぐもった声の声量がどんどん大きくなり、

ちょっと耳を塞がないとうるさく感じるくらいにまでなってきた。




・・・しかし、俺はひろの知られざる悲惨な過去を知って

堪えきれずに噴き出していた。




「ブフゥッ!アッハッハッ!!

 ワロターーー!」


「・・・俺は小学校からずっと運動神経バツグンで、

 学力も上位層には入っていたし、

 身長も高くて、顔は周囲の男子よりはイケメンでモテた。

 男女問わず、誰とでも仲良くなれる。

 もちろんクラスでは常に中心人物。

 ・・・そんな俺が結乃ゆのちゃんに構ってもらえなくて、

 どうしてお前みたいな”雑魚”が行動を共にできる!?」




彼は一度は感情を抑えて冷静になったが、

やはり話しているうちにどんどんと爆発させていく。




ひろ・・・お前ってさ、

 ずっと周囲をそうやって見下してきたんだな。」


「そりゃあそうだ!俺はカースト最上位にいるべき存在だから。」






・・・俺は大学入学後1週間で

初めてひろと話した時のことを思い出した。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「あーーー!!マジで分からねぇ!!」


第一志望校の城北大学に入学できたは良いものの、

大学の数学系の授業がぶっちゃけムズ過ぎて、

既に工学部を選んだことを後悔しつつある。


入学してまだ2週目だからいつメンもいないし、

そこそこコミュ障な俺にとっては

席が隣の人間に話し掛けるのも一仕事だ。




「はい、そこ!

 隣の人の答案見ちゃダメ!

 自分で考えることに意味があるので

 しっかり考えて解答してください。」


どうやら後ろの方の席で答えを見たヤツが

先生に見つかり注意されたようだ。




・・・へっ!このマヌケが!


答えは”チラ見”でバレないように見るんだよ!!




俺のさっきの叫び声は自分で考えているアピールであり、

頃合いを見てから周囲の解答用紙をチラ見の連発で

自分の答案を創造する!


俺が何度この技で高校時代のピンチを切り抜けてきたと思ってる!




「やっぱり難しいよな、コレ。」


左隣から独り言とも取れるくらいの囁きが聞こえ、

俺は横目で左を見やる。


すると、高身長のイケメンがハッキリと俺の顔を見据えている。




「あー、確かに・・・。」


コミュ障の俺にとっては、初対面の人との会話は

少なくともこの難しい数学問題並みに高難度だ。


ただ、なんというか、

このイケメンからは良い人オーラが溢れているし、

ここで会話を切りたくないと思うような不思議な魅力を感じる。




「えぇと・・・」


ダメだ。


やっぱりスムーズに言葉が出てこない。




「良かったら、先生にバレないように一緒に考えない?

 俺は西願せいがん ひろ

 君は?」


どもった俺の様子を見て、

言葉に困っていることを察したのだろう。


彼は優しく笑うと、小声でそう言った。




「・・・御子柴みこしば りゅうです。」


「なんで敬語なんだよ!

 とりあえず、呼び名は”ミコちゃん”でいいかな?」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






・・・結局、俺は大学入学後の2か月くらいは

ひろと共に行動していた。


彼は大学入学時から本当に誰とでも仲良くできて、

俺とはタイプがまったく違う人間だから、

段々と一緒にいることが少なくなっていき、

それぞれ別々のグループに分かれた。




ただ、今の彼の話を聞く限りでは、

まだ俺と一緒に行動している時期に

結乃ゆのに振られていたことになる。


マジで全然気付かなかった・・・。






「フッ・・・。」


俺の目の前にいる冷泉れいぜい

堪えられなくて出てしまったような笑い声を発したが、

すぐに押し殺した。




「何がおかしい!!」


「いや・・・話を聞いていれば、

 俺が殺される理由が一切ないと思ってね。」


冷泉れいぜいはやはりまだ笑いが収まらないような声で答えた。




・・・彼からしたら、赤の他人であるひろの失恋話なんて

そんな面白いもんじゃないと思うんだけど・・・。




冷泉れいぜい 奏多かなた、お前の考案した摘人政策てきじんせいさく

 あれは実にくだらない!

 誰しもが一度きりの人生。

 他人のために時間を使っている暇なんて本来はないはずだ。

 それにも関わらず、社会貢献などと謳って

 他人のために奉仕することを強要する。

 そんなことで、本当に国民の幸せが望めるなんて思ってるのか?」




怪人はくぐもった声で冷泉れいぜいに問う。




「国民の幸せを追求するなんて発言、俺はしてないけどね?

 拡大解釈だよ、それは。

 俺はメディアとかでも”日本が好き”としか言っていない。

 国民は国を構成する要素の一部でしかない。

 そんな”パーツ”の幸せを願って何になる?」


「パーツだと・・・?

 国民なくして国が成り立たないなら、

 国民の幸福度を考慮するのは当然のことだろ!」


「それは勘違いだよ。

 俺は幸福度を考慮していない訳じゃない。

 あくまでも俺が”能動的には”国民の幸福を願っていないというだけであって、

 個々に好きなものを買ったり、恋愛をしたり、

 旅行に行ったりして幸せを追求するのは自由なんだよね~。

 第一、幸せなんて個人で掴むものなんだから、

 俺が追求するのも筋違いってもんさ。」




冷泉れいぜいが軽い調子でそう言うと、

怪人は露骨に苛立ち、右足で地団太を踏んだ。




「しらばっくれるな!

 お前の摘人政策てきじんせいさくが幸せを奪っているんだ!」


「それは日本の存続のために仕方がないよね?

 万人の幸せを追求したせいで、

 経済状況が停滞し、平均年収は下がり続け、

 人口も年々減り続けている。

 こんな状況で日本を存続させるにはどうすべきか?

 簡単な話さ。

 重量オーバーとなったノアの箱舟から

 ある基準に満たない乗員を追い出せば良いだけ。

 ただそれだけのことだよ。

 さて・・・」




冷泉れいぜいはそこまで喋ると一息ついた。




「君の主張はそれくらいかな?」


冷泉れいぜいのトーンが明らかに下がり、

俺は思わず自分が身震いしてることに気付く。




「それはこっちの台詞だ!

 冷泉れいぜい、貴様の話がこれで終わりなら

 後は殺すだけのこと。」




怪人は自身の爪を開閉させ、威嚇するような仕草を見せる。




「貴様の人工衛星からの攻撃は俺には効かない。

 このカスケイド・エンヴィは再生能力に長けたアヴァラスであり、

 ”表面が破壊された瞬間ほぼ同時に再生が進行する”能力を発動できる。

 切り札が無効化されたお前など、ちょっと素早いだけのゴキブリ同然だ!」




「フッ・・・”切り札”ね。

 実は、このヤゴトンは本来の俺のモバイルポットじゃない。」




冷泉れいぜいがそう言いながら指パッチンを繰り出すと、

ビルの陰から左右で配色の違う、見たことのないポットが飛び出し、

彼の前に停止した。


左サイドが黄色、右サイドが赤色の第二世代ポット、

というところまでは分かるが、

それ以外の見た目は通常のポットと何ら変わりない。




「紹介しよう。

 これが俺の切り札、最強第二世代モバイルポット”メーキ”だ!」















―――――同時刻、愛知県内某所では―――――






8畳半ほどの室内に置かれたデスク上のノートPCでは、

音声のみの通話アプリケーションが作動していた。


そして、ノートPCと接続されたモニターには

監視カメラからの映像が4つ均等に並んでいた。




「はい、アイガンノーツ様の仰る通り、

 私の見立てでは、エンヴィではほぼ確実にヤツは倒せません。」




PCの前に座った人間が深刻そうに、

それでもどこか嬉しそうにそう言う。




「だから”最強の駒”を用意したのです。

 ・・・はい・・・もちろんです。

 冷泉れいぜい 奏多かなたは今日死にます。

 そして我々”原始会議”は次のステップに進むことができます。」












★第9話★ 「世界そして世界」 完結





お読みいただきありがとうございました!


これまでイケメン陽キャとして登場しながらも

どこか闇を抱えている描写が多かった西願せいがん ひろですが、

ついに本性を現しました。


そんな彼は「一度きりの人生だから個人が好きなことをやりたいようにすべき」

という主張のもと、冷泉れいぜい摘人政策てきじんせいさくを批判します。


そんな彼が変身するカスケイド・エンヴィは防御能力に長けたアヴァラスであることが判明。


冷泉れいぜいの武器である人工衛星の熱線照射は

通常の人間相手なら一瞬でまる焦げにできますが、

瞬時に表皮を再生するエンヴィには効きません。




冷泉れいぜいは個人の幸せには興味を示さず、

それよりも「日本を存続させること」を第一目標としています。


そんな彼の能力は世界そして世界マルチスレッド・ブレインという名称で、

脳の並列処理が可能、という内容の能力です。


一見地味で、当の本人も”クセの強い能力”と言っているあたり、

使い方を間違えると真価を発揮できない能力でもあります。


彼は自身の使うモバイルポット”ヤゴトン”は実は自分のポットではないと明かし、

彼曰く、最強第二世代モバイルポットである”メーキ”を起動させました。




そして、彼らが戦う最中、

その戦いを監視しながら会話をする謎の連中は

自分達を”原始会議”という名称で呼称します。

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