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ハンティング

 星司はできるだけ物音を立てずに近くの路地裏に身を隠した。魔獣相手ではすぐに気づかれるかもしれないが何もしなければ一瞬で殺されるのが目に見えている。ならば僅かでも生き残れる可能性があるなら足掻くしかない。まだ妹の安否を確認していないのだから。恐怖と痛みで鈍る体を家族の為にと動かす。星司はまだ諦めてはいなかった。生き残る方法を模索し続けていた。

 下手に動かず様子を見よう。そう考えた星司は身を隠したまま魔獣の方を見る。段々と砂埃が晴れて魔獣の姿が露になっていく。その姿を見て星司は思った。――見なければよかった。


 そこにいたのは赤い鬼。


 成人男性と比べて一回り、いや二回りは大きい赤い体。頭に禍々しい二本の角。口の上下からでかい牙が二本ずつ出ている。大人二人分は優にある筋肉の塊の様な巨大な腕が地面に突き刺さっている。星司は理解した。先程の衝撃は鬼が地面を殴りつけて起きたのだと。


 あの角なら自分の体を簡単に貫ける。あの牙で噛みつかれたらトマトの様に磨り潰されるだろう。あの腕を振るわれたら容易く挽き肉に変えられてしまう。

 どう抵抗しようが死を免れない。それ以外のイメージが湧いてこないほど星司は恐怖していた。


 目の前の化け物はただの人間如きでは太刀打ちできない。


 知識としては知っていた。本物に遭遇したことで本能的に理解できてしまった。


 今まで出会わなかったのは幸運だったのだと。その幸運も尽きてしまったのだと。


 最早逃れることのできない死の気配に星司は身動き一つ取れなくなった。やけに大きく聞こえる心臓の音すらも自分を追い込んでいるようで息苦しい。それでも鬼から目を離さない。目を離してしまえば一瞬で終わる。


 視界が晴れた事に気づいた鬼は腕を地面から引き抜き周りを見渡している。どうやら星司を探している様だ。


 まだ気づかれていない。今のうちに逃げれば助かるかもしれない。願望でしかない浅はかな判断をした星司は路地裏の奥に行こうと脚を動かす。だが星司はそこでミスを犯す。魔獣からすぐに目を離さなかったために足元を見ていなかった。その結果、動かした拍子に小石を蹴り飛ばしてしまった。

 音に気づいた鬼はその濁った眼を星司の方に向ける。


「――――っ!」


 悲鳴を上げそうになるのをなんとか堪え急いでその場を離れる。


 グガァアアア!!


 その直後、星司が居た場所から破壊音と雄叫びが響いた。思わず振り向いた星司が見たのは近くの建物を拳で抉り取りながら狭い路地に入り込もうとする鬼だった。

 余りの光景に思わず足が止まる。だがすぐに正気を取り戻し走り出した。星司が逃げていくのを見た鬼も建物を破壊しながら追いかけてくる。


 いっそ発狂すれば楽になれる。


 そんなことを考えてしまうほど星司は追い込まれていた。

 背後から聞こえてくる唸り声と建物を砕く音に怯えながら逃げていた星司は大通りに辿り着いた。大通りに沿って走りながら有る事に気が付いた。


「……まずい」


 失敗した。現状を把握した星司から血の気が引いた。

 先程までは建物が障害となり破壊しながら進んでいたために鬼は星司に追いつけなかったのだ。もしそれが無くなってしまえば逃げ切れない。

 追いつかれる前にもう一度路地裏に逃げ込む! そう判断した星司だが一歩遅かった。


 ガァアアア!


 先程とは比べ物にならないほどの速度で鬼が咆哮を上げながら背後から迫っていた。瞬く間に目と鼻の先と言える距離にまで近づかれて星司は――


「……もう、無理だな」


 自身の生存を諦め逃げるのを止めた。どうしようもない。抵抗する事すら無駄だと悟ってしまったのだ。


「……ごめん、桜花」


 振り上げられた鬼の拳がゆっくりと自分に向けて振り下ろされるのをただ見ている事しかできない自身の無力を嘆きながら目を瞑った。


「…………?」


 しかし、いつまで経っても想像していた衝撃が来ない。意識もはっきりしている。即死したわけでもないようだ。ならばなぜ? 疑問が頭を過った星司は恐る恐る目を開けると信じられない光景が目に映った。


「くぅうう――!」


 少女がいた。赤い髪を後ろで束ね不釣り合いなはずなのに違和感のない短いスカートの煌びやかな衣装を着た少女が両手で持った杖で魔獣の拳を受け止めていた。信じられない光景に星司は自分が夢を見ているのか、あるいは死ぬ間際に都合のいい妄想をしているのかと現実逃避をし始める。


「諦めないでください……!」


 少女の声を聞き星司は意識を少女の言葉に向ける。


「どんなに絶望的であっても最後まで諦めないでください!」


 少女は慟哭する様に語る。その言葉は星司には自分を通して別の誰かに向けて話しているようにも見えた。


「どうしようもない時には――」


 少女が持つ杖が光り始めると杖先に火が灯る。それを見た鬼は動きを止め少女を観察し始めた。


「私が――」


 その火は徐々に大きくなり、バスケットボールサイズにまで大きくなると少女は杖を上段に構えた。


「私たちが――」


 そして杖を勢いよく振り下ろし火の玉を鬼にぶつけた。同時に閃光と爆発音が周りを包んだ。予想外の閃光に星司は反射的に目を閉じた。光が収まったのを感じて目を開けると全身から煙を上げてのたうち回る鬼の姿が有った。

 信じられない。それ以外の言葉が浮かばないほど現実離れした光景に星司は少女の方に目を向ける。


「必ず助けます!」


 笑顔で宣言する少女に思わず見惚れた。


方向性が決まってきたのであらすじを変えます。


18/9/12


内容変更しました。「同い年ぐらい~」を削除

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