第9話 精霊女子会 〜ユノの部屋について〜
ところ変わって、再び神秘的な光に満ちた精霊界。
湖畔のテラス。
豪奢な大理石のテーブルの上には、淹れたてのハーブティーと、これまたどこから調達したのか色鮮やかなタルトが並べられていた。
「はーい、みんな集まったー? 緊急精霊女子会、始めるよー!」
せわしなく飛び回りながら、声高らかに号令をかけるのは、今回の幹事、というか、だいたいいつも女子会を企画している風の精霊シルフィだ。
「ちょっと開催頻度高くねぇか?」
イグニスが呆れたように赤い髪をかき上げ、クッキーを齧る。
「だって学校着いてすぐヤバいこと起きたんだもん!」
シルフィはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、ウンディーネの肩を叩いた。
「ほらウンディーネ! アレ映して、アレ!」
「もう、騒々しいですね……」
ウンディーネが苦笑しながら前にかざした水晶が、淡い光を放ち、つい先ほどのユノの研究室の様子を映し出した。
水晶の向こうでは、床や机に魔導書が散乱した、相変わらず荒れ放題の部屋が映し出されている。
「……女子を呼ぶ部屋ではないですね」
ウンディーネがため息混じりに呟くと、シルフィが手を叩いて爆笑した。
「アハハ! 確かに! でもこっからのユノが面白いから!」
「ネタバレやめろ」
イグニスがシルフィをたしなめる。
映像は部屋の奥へと切り替わり、台座に鎮座する《 メイスオブゼウス 》を捉える。
「あ、ゼウスか」
イグニスが反応する。
「……あれ……やばい」
テラリアがボソッと呟く。
「ええ。昔、不用意に触った生徒が焼死体になりかけていました」
ウンディーネが冷ややかに振り返る。
「てか、そもそも人間が持つような杖じゃないし! 神格神器。うちらの魔力ベースで作られてるし」
シルフィが珍しくまともなことを言うと、精霊たちは一様に頷いた。
「あんたも一応、最高位精霊としての自覚あったんだ」
イグニスが少しシルフィを見直す。
シルフィは、えっへんと胸を張っている。
やがて、画面は机の上のピンクの封筒——女子生徒からのラブレターを映し出す。
「あー、これはないわー。リゼちゃんかわいそう」
シルフィが眉をひそめてブーイングを入れる。
「読まないなら捨てろよ」
イグニスが腕を組んで不満を露わにする。
「……捨てづらいって……一応、人の好意だし」
テラリアがボソッとフォローを入れる。
「まぁ、顔はいいからな、ユノ」
「顔はね」
「ええ。性格はアレですけど……」
精霊たちの辛辣な言葉に、サラマンダーまで「きゅ~(それな)」と同意するように鳴いていた。
そして——ついに問題のシーンがやってくる。
本の雪崩で、ユノがリゼをソファへ押し倒したあの瞬間——
「「「「きゃーーーっ!?」」」」
四精霊の黄色い悲鳴がシンクロする。
「うわぁ!ベタ!!」
イグニスが身を乗り出して叫ぶ。
「……お約束」
テラリアがじっと画面を見つめる。
「王道展開!!」
シルフィが空中で悶える。
「これは素晴らしい……」
ウンディーネが両手を頬に当ててうっとりとしている。
画面の向こうでは、至近距離で顔を真っ赤にするリゼと、じっとその唇を見つめるユノの姿。
「ちょ、またユノ時止めてんじゃん!!」
シルフィの言葉に、精霊たちは一斉に大爆笑。
「いやー、あの子供の見た目で、一瞬だけ男の目付きになるの、あれなんなの?」
イグニスが興奮冷めやらぬ様子でお茶をがぶ飲みする。
「でもさ、思うんだけど……」
シルフィがタルトを頬張りながらしみじみと回想する。
「リゼちゃんって、本当にいいお嫁さんになりそう」
ウンディーネが頷く。
「ええ、本当に。あんなに一途に想われて、主は幸せ者ですね」
そして、優しく微笑んだ。
「……ユノには……もったいない」
テラリアのボソッとした一言に、全員が「それな!」と力強く同意し、再び笑い声が響き渡る。
秘書のノックで二人が飛び起きるオチまでしっかり鑑賞し、現実をよそに、今日も精霊界は、とても平和で賑やかなのだった。




