第80話 ◇ジハード
ほどなくして、地平線の彼方から猛烈な砂煙を巻き上げ、魔導省が誇る最新鋭の大型戦闘機が凄まじいエンジン音を轟かせて接近してきた。
『きぃぃさぁぁぁまあああ!!!! 星の賢者ァァァ!!!』
魔導拡声器を通して、コックピットからレーヴェンの狂気じみた叫び声が響く。
「うるさい男ね」
フィオナは耳を軽く押さえ、冷ややかな目を向けた。
『貴様のせいで! 俺は魔導省を追われた!! 地位も名誉も、これまで築き上げてきたものすべて失った!! 貴様だけは、貴様だけは絶対に生かして帰さん!!!』
「それ、拡声器で言うこと? 100%あなたの自業自得じゃないの」
『うるさあぁぁぁい!! 喰らえ、愚民ども!!!』
戦闘機の砲台が駆動し、膨大な魔力をチャージする。
『これは余のメラだ!!!!』
次の瞬間、特大の炎魔法がフィオナめがけて放たれた。
ちなみに、レーヴェンはハンドルを握ると気が大きくなる、そういうタイプの男だった。
凄まじい熱波が襲う。
しかし、フィオナの前に一歩出たウンディーネが、瞬時に巨大な水壁を展開してそれを完全に相殺する。
ジジジ、と蒸気が上がる中、ウンディーネが淡々と反撃に移る。
「《 ウォーター・シュート 》」
激流の槍が戦闘機を真っ向から貫こうとするが、戦闘機の外壁に弾かれ、水しぶきとなって霧散した。
分厚い装甲は伊達ではないらしい。
『無駄無駄無駄無駄ァ!!! この装甲は魔導省の技術の粋を集めて造られた特注の結晶装甲だ! そんな並の魔法じゃ傷一つつかんのだよ、ハーッハハハハ!!!』
「ずいぶんとテンションが高い男ですね」
ウンディーネが心底呆れたようにため息を吐く。
「ここは私に任せて」
フィオナが前に出る。
「……見えたわ」
フィオナが、夜空のように深い瞳を怪しく光らせて呟いた。
「そのおもちゃが、砕け散って粉々になる運命がね」
フィオナは美しく輝く星詠みの杖を天に掲げ、冷徹に呪文を唱える。
「《 シューティングスター 》」
ズガガガガガガガガガッ!!!!!
天空から、大気を引き裂く嵐のような流星群が絶え間なく降り注いだ。
自慢の結晶装甲が、一枚、また一枚と凄まじい衝撃によってベキベキと剥がれ落ち、ひしゃげていく。
『な、何ィ!? バカな、最新鋭の装甲が——』
「《 メテオ 》」
フィオナが間髪入れずに追撃を放つ。
ドォォォォン!!! と地響きを立てて、燃え盛る巨大な隕石が戦闘機の真上へと垂直落下した。
凄まじい重量と熱量に押し潰され、戦闘機は一瞬で半壊し、レーヴェンはコックピット内で悲鳴を上げる。
「あなた、私を殺しに来たんでしょう? 容赦はしないわよ」
フィオナはダメ押しと言わんばかりに、星の最高位究極魔法を発動させた。
「《 ジハード 》」
その瞬間、世界から音が消え、大気が目に見えてグニャリと歪んだ。
遥か上方。天空から、視界を埋め尽くすほどの規格外の『天地終焉の巨星』がその姿を現し、絶対的な重力を伴ってゆっくりと地表へ向けて落ちてくる。
巨星が近づくにつれ、その凄まじい超高密度の質量によって周囲の地殻がバリバリと音を立てて捲れ上がり、重力圏に捕らえられた戦闘機の残骸が、きしみを上げて宙へ浮き上がり始める。
世界が、圧倒的な光によって真っ白に染まっていく。
『……終わった』
半壊したコックピットの中で、レーヴェンは己のあまりの矮小さを思い知り、ただ静かに死を受け入れる呟きを残した。
ズドォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
星の賢者フィオナによる、あまりにも圧倒的すぎる、地球規模の破壊魔法。
すべてが光の中に消え去り、轟音が去った後には、戦闘機の破片すら残っていなかった。
「ふぅ。終わったわね」
フィオナはふわりと長い髪をなびかせ、風で少し乱れた着衣を優雅に整えた。
戦いの余韻など微塵も感じさせない、いつも通りの涼しい顔である。
「お見事です、フィオナ様。相変わらず加減というものを知りませんね」
ウンディーネが感心したように拍手を送る。
「さ、お茶の続きをしましょう。まだ冷蔵庫に冷たいタルトが残っていたかしら?」
フィオナはウンディーネににこりと美しく微笑むと、超豪華な魔導馬車の中へと、何事もなかったかのように戻っていくのだった。




