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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第3章 大陸横断編(前編)
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第78話 ★本当の試練

 古代ダンジョン『試練』。

 

 通常なら熟練の4人パーティが命懸けで挑むその鬼畜レベルの迷宮を、ユノとメリッサはものすごい速さで攻略していた。

 

 10階層を超えたあたりから、出現する魔物のレベルも仕掛けられた罠の難易度も格段に上がっていたが、もともと大陸最強クラスの剣士と大賢者である二人の前には、そんなことは大した問題ではなかった。

 

 ただ、この様子を脳内から見ていた地の精霊テラリアは、後にこう不満げに述懐することになる。

 

『ユノとメリッサ、イチャイチャしすぎ。ダンジョンなのに、完全にデートしてるみたいだった……』

 

 その言葉通り、今のユノは別の意味での『試練』と戦っていた。

 

 地上のほとぼりが冷めるまで時間を稼ぎたいユノは、意図的に攻略のペースを落とそうとする。


 それに対し、テンポよくサクサク先へ行こうとするメリッサ。


 ユノは致し方なく、自ら世間話や話題を提供するなどして、メリッサが先に進みたがらないよう、必死に時間を稼がなければならなかった。


 その姿はさながら、テーマパークで人気アトラクションの長い順番待ちをしている際、彼女を退屈させないよう細心の注意を払って喋り続ける彼氏のそれであった。


 もちろん、これまでの人生で女子にこの手の配慮をしたことが皆無だったユノにとっては、魔女と戦う以上の重労働であった。


「メリッサ、肩とか凝ってない?」


「全然!」


「そ、そう……じゃあ、冷たい飲み物でも取ってこようか?」


「いい!」


 そんな具合の噛み合わないやりとりを繰り広げながら、ユノは世の男性たちの苦労というものを、生まれて初めて少しばかり理解したような気がしていた。


 後にユノはこう述懐する。


 「女って、マジで疲れる……」


  ——言うまでもなく、絶対に口に出してはいけない禁句である。


 

 そんな中、事件が起きたのは第12階層。メリッサの担当する番であった。


 暗闇から這い出てきたのは、深海魚を無理やり人型にしたような、ぬめぬめとしたグロテスクな見た目の異形の魔物たちだった。

 

「ギギギ……!」

 

「ウゲゲゲ……!」

 

「——いやぁぁぁ! 気持ち悪いぃぃぃ!!」

 

 ガシッ!! と、ユノの腕に抱きつき、まるで可憐な少女のように悲鳴を上げるメリッサ。

 

 あれほど無敵の剣技を誇る彼女だが、こういう生理的に受け付けない見た目のクリーチャー系だけは、子供の頃から大の苦手だったのだ。

 

「だ、大丈夫? 僕が代わろうか……?」

 

 あまりの密着度合いと、メリッサの普段とのギャップにタジタジになりながらも、ユノは完全に優しく彼女を甘やかす彼氏のような口調になっていた。

 

「ううん、私がやる……!」

 

 そこは勇者パーティに選ばれたプライドがあるのか、メリッサが謎の意地を見せる。

 

 ——とは言ったものの、自慢のレイピアがあの緑色の粘液で汚れるのは生理的に絶対に嫌だった。

 

 そこで彼女は、剣を引いて魔法で戦うことを選択する。

 

「これでも喰らいなさいっ! 火炎よ!」

 

 メリッサは『魔法戦士』なので一応魔法も使えるのだが、お世辞にもそこまで上手いとは言えない。


 そのため、放たれた火属性魔法の火力が非常に弱かった。


 火炎というより——弱火。

 

 結果として、魔物たちはじわじわと生殺しにされながら、地獄のような断末魔の叫びをダンジョン内に響かせることになった。

 

「ギィヤアアアアアアアア!!!」

 

「いやあーん! 鳴き声もホントに無理ぃぃぃ!」

 

 ついに半泣きになってユノの背中に隠れるメリッサ。

 

「ギギャアアアアァ…ァッィ…ィイアアア!!」

 

(僕だったら、一瞬で苦しみもなくあの世に送ってあげるのに……。ていうか、今魔物が『熱い』って言葉を発したような気がしたぞ……)

 

 じっくりと芯までこんがり焼き上がっていく魔物たちの阿鼻叫喚を見つめながら、ユノは切実に思った——


(はぁ……家に帰りたい……)

 

 

 どうにか12階層をクリアした後の階層は、複雑な罠が張り巡らされたトラップエリアだった。

 

 当然、テラリアのスキャン能力があれば一瞬で正解のルートを導き出せる。


 しかしユノは、さらに時間を稼ぐため、あえて罠の前で「うーん、これは難しい古代の術式だな……」と顎に手を当てて、わからないふりをしてゆっくり解くという姑息な手を使っていた。

 

 この不誠実な時間稼ぎ(舐めプ※)は、せっせと答えを教えてあげていたテラリア的にはまったく面白くなかった。

 

(せっかくテラリアがすぐに答えを教えてあげたのに……!)

 

 脳内で、地の精霊がますます憤慨してへそを曲げていく。

 


 そんな険悪な空気の中、さらなる事件が発生する。

 

 今度はユノの担当する階層だったが、現れた敵は実体のないアンデッド——ゴーストの群れだった。

 

「いやぁぁぁ! おばけ怖いぃぃぃ!!」

 

 またしても、ユノに思いきり抱きつくメリッサ。


 なんと彼女、気持ち悪い魔物だけでなく、おばけも大の苦手という、お約束のようなギャップ萌え属性を完備していたのである。

 

(もう、ユノのバカーーー!! 地震起こすよ!? また地面揺らしちゃうからね!?)


 脳内でのテラリアの不機嫌バロメーターは、とうとう臨界点を突破しそうになっていた。

 

 しかし、精神的に摩耗しきったユノは、すでに諦めの境地(悟り)を開いていた。

 

「大丈夫だよ、メリッサ。すぐに終わらせるからね」

 

 なぜか慈愛の心すら湧き起こってきたユノは、聖属性の浄化魔法を優しく展開。


 神聖な光に包まれたゴーストたちは、「……ァㇼヵ……ㇳ……」と満足げな笑みを浮かべながら、実に安らかに天へと成仏していった。

 

 度重なるハプニングを経て、ユノとメリッサの物理的・精神的な距離は急速に縮まっていく。


 そしてそれに反比例して、脳内のテラリアはどんどん不機嫌になっていくのだった。

 

 そんな奇妙な三角関係をはらんだまま、規格外な二人のダンジョン攻略は、いよいよ終盤の最深階層を迎えようとしていた。



※舐めプ

 非紳士的な舐めたプレーのこと。

 そういうのはやめよう。

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