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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第3章 大陸横断編(前編)
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第76話 ▲打ち上げ飲み会

 夜の帳が下りた、音楽の都『ハーモニア』。


 この町は太陽が沈んだ後もなお、至る所から人々の楽しげな歌声や楽器の音が響き渡る、賑やかな不夜城だった。


 街の一角にある賑やかな酒場では、先ほどの精霊に捧げる演奏会の大成功を祝して、音楽団が盛大な打ち上げを行っていた。


「ルカくん! 君のおかげだ、本当にありがとう!」


 主賓として呼ばれているルカへ、団長が並々ならぬ感謝の言葉を述べる。


 彼がいなければ、演奏会の成功はなかった。


 それどころか精霊を失望させかねない状況だったのだ。


「いっそのこと、うちの楽団の正式な団員にならないかい!?」という熱烈なスカウトに対し、ルカは生真面目な顔で首を振った。


「お気持ちは嬉しいのですが、僕は『ユノ大先生という真理』を追いかけている身ですので。せっかくですが、それはお受けできません」


「そうか、残念だ……! ならば今夜は朝まで飲み明かそう!」


 団長がルカのグラスに景気よく酒を注ぎ、他の団員たちも代わる代わるルカの元へ乾杯をしにやってくる。

 

 共に極上の音を奏でた仲間として、彼らはルカを心から認めていたのだった。


 その様子を空中から見ていたシルフィは、ふと思った。


(……いっそのこと、本当にあの音楽団に入っちゃった方がいいのに。

 あてのないユノのストーカーを続けるより、何百倍もマシよ。

 あいつ、黙っていればかっこいいんだし。

 もともとハイスペックなんだから、変態でさえなければどこでだって輝けるのに……)


 そんなシルフィが惜しい男を見るような目をしていると、一人の男がルカの席へと近づいていった。


 それは、昼間に広場の屋根の上からルカを観察していた、あの謎の吟遊詩人だった。


(あれ? あの男……どこかで……)


 シルフィは訝しんで男を眺めた。


「僕にも注がせてくれよ」


 男は親しげに笑うと、ルカのグラスに滑らかな手つきで酒を注いだ。


「乾杯♩」


 カチィン、と軽やかな音を立ててグラスが鳴る。

 

 ルカは「どうも」と短く返し、一気にグラスをあおった。


「君の提琴(ヴァイオリン)、本当にすごかったね。僕、感動しちゃったよ」


「提琴は、昔に少し嗜んでいただけですから」


「へぇ、謙虚だね。君のことをもっと教えてくれないかな?」


 男は、手元で竪琴をポロンと美しく奏でてみせた。


 ルカは酒のせいか、多少饒舌になりながら、脚色しながら語った。


「……僕は、『真理』を探求するため、世界中を旅しています。色んな変装をしながら、あるときは魔法使い、またあるときは動画配信者、温泉マイスター、魔女の肉壁……様々な仕事をしています」


(いや、お前の本分『学生』だからな? てか、何? 温泉マイスターとか肉壁って?!)と、シルフィが心の中でツッコんだ。


「へぇ、それはすごいね。『真理』、か。いい響きだね。実は僕も各地を巡っているんだ。君とはなんだか、すごく気が合いそうだなぁ。……それから、変装は僕も得意なんだ」


 そう言うと、男は上着をバサァッ!と脱ぎ捨てると、マントとハーフマスクをスチャッ!と装着してみせた。


「なかなかやりますね。ならば、僕も……」


 ルカも負けじと上着をバサァッ!と脱ぎ捨てると、『マジカル☆マジルカ』のコスチュームにチェンジした。


(へ……変態が二人に……!!)


 シルフィは引きつった笑顔のまま、猛烈にドン引きしていた。


 

 ◇


 

 深夜。

 

 酒場の喧騒はすっかり静まり返り、音楽団の面々は床やテーブルに突っ伏して、気持ちよさそうにスースーと寝息を立てて眠りこけていた。


 そんな静寂の中、吟遊詩人の男だけが、椅子に座ったまま物憂げに竪琴を奏でている。


「ふふ、みんな、綺麗に眠ってくれたみたいだね」


 男は不敵な笑みを浮かべると、静かに動き出した。

 なお、行方不明の音楽団の提琴奏者(ヴァイオリニスト)も、この男によって眠らされていたのだった。


 シルフィは自分の意識が混濁していくのを感じていた。頭がクラクラして、まともに飛行を維持できない。

 

(……おかしい、最高位精霊であるこのあたしが、睡魔に襲われるなんて。

 あの男の竪琴……まさか、魔導機……!?)


「さあ、シルフィちゃん。僕と一緒に来てもらおうか」


 男が指先から怪しげな魔法の光を放つ。


 シルフィの身体は抵抗する力をもぎ取られ、妖精ほどのサイズへと強制的に縮小され、透明な瓶の中へと閉じ込められてしまった。


「な、何すんのよ……力が入らな……っ」


 捕らえられてしまったシルフィ。万事休すかと思われた、その時——


「——何をしているのですか」


 背後から、凛とした冷たい声が響いた。

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