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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第3章 大陸横断編(前編)
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第75話 ★伝説の剣技 グランド・チェス

 古代ダンジョン『試練』。

 ——その第2階層。

 

 今度は、ユノが戦う番だった。

 

 特に言葉を交わしたわけではなかったが、なんとなく「一階層ごとに交互に魔物と戦う」という流れになっていた。

 

 薄暗い通路の先から、獰猛な唸り声をあげて獣型の魔物が多数現れ、ユノたちを包囲する。

 

 ユノは歩みを止めることなく、手にした大杖をひょいと軽く掲げた。

 

「《 バニッシュ 》」

 

 パァン、と乾いた音が空間に響く。

 

 次の瞬間、無数にいた魔物たちは一匹残らず光の粒子となって消滅した。

 文字通りの一瞬。これで終わり。

 

「……え? もう終わったの?」

 

 後ろを歩いていたメリッサが、目を丸くして普通に驚いている。

 

「まあ、魔法だからね」

 

 ユノは振り返りもせず、いつもの調子で適当な返事をした。



 ——続く第3階層。


 目の前の道が三つに分岐していた。しかし、ユノの脳内ではすでに、地の精霊テラリアによる精密なスキャンが完了している。


(ユノ、右は落とし穴のトラップ。左は毒沼。真ん中が正解だよ)


「了解」


 ユノはテラリアのナビゲートに従い、迷うことなく真ん中の道を突き進んでメリッサを先導する。難なくクリア。



 ——第4階層。


 メリッサが戦う番。

 

 上空から襲いかかる、羽を持つ飛行型の魔物が数体出現した。


「騎士《 ナイト 》!」

 

 メリッサが鋭く地を蹴り、華麗に宙を舞う。空中で一閃、瞬く間に魔物を1体撃破した。

 

 すぐさま、別の魔物が死角からメリッサめがけて急降下攻撃を仕掛ける。

 

「司教《 ビショップ 》!」

 

 彼女は斜め方向へと滑るように移動して攻撃をかわし、振り抜きざまにカウンター攻撃を入れる。


 見事にすべての魔物を撃破した。



 ——第5階層。


 今度は、起動型の岩石製のゴーレムが10体。通常の剣撃が通りにくい、前衛泣かせの嫌な敵だ。

 

 だが、当然ながらユノには問題にすらならなかった。


 ユノはゴーレムが起動して動き出す前に、その魔力構造を瞬時に解析。胸部の奥にある『核(コア)』が弱点であることを見抜く。


「《 フリーズランサー 》」

 

 放たれた10本の氷の刃は、寸分違わず、すべてのゴーレムのコアへと同時に突き刺さった。


 ガラガラガラ……と音を立てて崩れ落ちるゴーレムたち。


(……まずいな)


 砂礫と化したゴーレムを見つめながら、ユノは強い不安感に襲われていた。


 ——恐れていたことが、今まさに起きようとしている。


(このままのペースで攻略していったら、普通の冒険者が10日以上かけるこのダンジョンを、おそらくは数日……下手したら1日でクリアしてしまうかもしれない……)


 それは、通常の冒険者がまず考えもしないであろう、あまりにも贅沢で謎すぎる心配だった。


 このダンジョンは、地上の役人どもを巻くための「時間稼ぎ」でもある。


 街にはまだ自分たちの指名手配書が出回ったばかり。1日で出てしまっては、すぐに確保されてしまうだろう。


(これから先は、かなり意図的にペースを落とさないと……)


「メリッサ。ここらで一度、休憩にしよう。というか……極論を言えば、ここから数日間は何もしなくてもいいくらい」


 ユノが真面目な顔で提案する。


「ええっ!? もう休むの? まだ始まったばかりじゃない。あなた、魔法の使いすぎでバテちゃったの?」


 メリッサがつまらなそうにムスッとする。

 

(いや、バテるどころか魔力はほぼほぼ減ってないんだけど……)


 ユノは心の中で呟きつつ、彼女の不満を逸らすために話題を変えることにした。


「じゃあさ、メリッサの剣技について教えて。興味がある」


「……いいわ。そういうことなら話してあげる」


 ユノの真剣な体裁の言葉に納得したのか、メリッサは近くの岩に腰掛け、レイピアを愛おしそうに見つめた。


「私のスタイルは『グランド・チェス』。この流派は、私の師であるエレオノーラ先生によって生み出された。

 誰も真似することができない、先生による、先生のための独自の剣技なの」


 メリッサの口から、伝説の流派の全貌が語られる。


 

 基本となるのは4つの型。


 重い斬撃を放つ——重装兵《 ポーン 》

 

 超高速の突進から放たれる神速突き——戦車《 ルーク 》

 

 空を制する斬撃——騎士《 ナイト 》

 

 変幻自在の回避とカウンターを仕掛ける——司教《 ビショップ 》


「先生は、戦いにおける奇襲や小細工なんてすべて蛇足だと考えていたわ。

 この4つの基本だけで十分だと。

 そして、奥義。戦場を縦横無尽に駆け抜けながら、狂気的なまでの超高速連撃を繰り出す——女王《 クイーン 》。

 私は10年の月日をかけて、そのすべてを習得したわ」


 メリッサはそこで一度言葉を切り、少し目を伏せた。

 

「……だけど、その先にある『秘奥義』だけは、私にはどうしても習得することができなかった。それを使えるのは、世界でエレオノーラ先生ただ一人だけだったのよ」


 ——白銀の女王。閃光の騎士。

 

 かつて世界に轟いた、彼女を称える様々な二つ名。

 

 名だたる高名な武闘家も、歴戦の戦士も、大魔導士も、そして名のある賢者すらも、彼女の剣技の前にはことごとく屈したという。


「先生はただ強いだけの人じゃなかった。誰よりも気高き魂を持った、本物の騎士だった。強きを挫き、弱きを助ける……私に本当の騎士道を教えてくれた人。

 でもね……その先生も、4年前に亡くなってしまったわ。28歳という若さでね。先生は、私にとって永遠の伝説なの。その技を後世に伝えるのが、唯一の弟子である私の役目だと思っているわ」


 言い終えると、メリッサは少し悲しそうに、そしてどこか懐かしむように虚空を見つめた。


(エレオノーラ・ヴァレンティア……か)


 ユノは静かに彼女の言葉を噛みしめていた。


 確かに、もし全盛期の彼女を相手に正面から戦うことになったら、大賢者である自分であれ、勝負の行方はどうなっていたか分からない。


 彼女は、ユノにしてそう思わせるほどの、最強の騎士だった。


「その先生と、今のメリッサが戦ったら?」


 ユノがふと問いかけると、メリッサはふふっと上品に笑った。


「私が勝てるわけないじゃない。私の剣技なんて、先生の足元にも及ばないわ。……でも、もし叶うなら、もう一度だけ先生と戦ってみたい。少しは成長した私の姿を、先生に見てもらいたいから」


 そう言って、メリッサは立ち上がり、にっこりとユノに極上の微笑みを向けた。


 レイピアの柄に手をかけ、その瞳に再び凛とした光が宿る。


「さあ、お喋りはここまで。次は私の番ね。ユウ、よく見ていてね? ——あなたに、私の女王《 クイーン 》を見せてあげるわ」


「……あ、うん。でも、もう少し休んでいかない?」


 ユノの提案を華麗にスルーし、師への誇りを胸に、魔法戦士メリッサは再び、ダンジョンの奥深くへと歩みを進めるのだった。

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