第7話 王都中央魔法学校
「うわぁ……! 大きいね、リゼ!」
徒歩旅を終え、二人の眼前にそびえ立ったのは、白亜の巨塔を中心とした広大な敷地を誇る最高学府——『王都中央魔法学校』だった。
重厚な正門の向こうには、格式高いローブをまとった多くの生徒たちが行き交っている。
全寮制。生徒数およそ1200名。王都で最難関とされるこの学校は、未来の魔導師、魔法のプロフェッショナルを育成する大陸の心臓部だ。
「懐かしいですね、先生。……いえ、今は私の『弟』でしたね」
ユノの正体を明かすと、かなり大きな混乱を招きそうだったので、小さなユノは、リゼの弟ということにするつもりだった。
この学校は、12歳から15歳までが通う「基礎学部」と、より専門性を高める16歳以上の「専門学部」に分かれている。
基礎学部では「基礎魔力制御」「属性魔法概論」「魔法史・古代魔導語」「魔物生態学」「基礎訓練演習」という地獄の5大必修単位が課され、それを乗り越えた者だけが、各専門専攻へと進むことができるのだ。
リゼは『高位魔法専攻』に進学し、ユノと出会った。
当時はリゼが17歳で、ユノが22歳。
ユノは、大陸の時間と魔力を観測・制御する国家の最高機関『王立天文台』の所属でありながら、この学校の教師を兼務し、個人の研究室を持っていた。
その頃のユノといえば、気だるげで不真面目に見えて、実は大図書館の全蔵書をわずか2時間で読破した、という頭のおかしい伝説を持つ正真正銘の化け物だった。
「おや? 君は……リゼ? リゼ・アンブレストじゃないか!」
正門をくぐろうとした時、すれ違った一人の男性教師がリゼを呼び止めた。
整った顔立ちに、人好きのする笑顔、教師用のローブをゆるく着崩した少しチャラめの男性教師。ユノの大学時代の同期であり、風魔法の第一人者——
クロード・アルヴェイン先生だ。
「クロード先生! ご無沙汰しております」
「首席卒業の君が何の用かな? あ、そういえば、君はユノの弟子だったよね? 彼のこと何か知ってる? 半年前から連絡がつかなくてね。それで、彼の受け持ってた講義も全部休講になって……ん? その後ろにいる子は?」
クロードの視線が、リゼの後ろでビクビクと服の裾を掴んでいるユノへと向けられた。
「ずいぶんリゼにべったりだね? 君の子供?」
「ち、違います!! この子は私の弟の、ユ……ユウくんです! わけあって一緒に旅をしていて、今回は大図書館での調べ物のために、しばらく学校に滞在させていただきたくて……」
リゼは冷や汗を流しながら、事前に考えていた偽名を告げた。
「……んー、そこのボク」
「は、はいっ!?」
クロードが値踏みするような目でユノを見つめる。
「なんかどこかで見たことあるような……妙に整った顔立ち……性格が悪そうで……周りを振り回して……女の子をたらし込んでそうな……昔のユノにそっくりじゃない?」
(バ、バレる——!?)
リゼの心臓が跳ね上がる。さすがは先生の同期、直感が鋭すぎる。
しかし、ユノは涙目でギュッとリゼに抱きつき、
「ボク、性格悪くないもん……っ。お兄ちゃん、変なこと言わないでよ……!」
と、完璧な8歳児の対応。
「……あー、ごめんごめん。君もあんな最低な男と一緒にされたら、気分が悪いよね」
さすがにクロード先生も子供の涙には弱かったらしく、頭をぽりぽり掻きながらため息をついた。
「まぁ、君は学校の最優秀卒業生だしね。ユノの研究室を臨時の滞在先として使えるように、学長に話を通しておくよ。あそこなら私物も残ってるし、生活スペースもあるだろうからね」
「本当ですか!? ありがとうございます、クロード先生!」
「ああ。それじゃあね、ユウくん」
クロードはユノの頭をポンポンと撫でて、そのまま校舎へと歩いて行った。
「ふぅ……心臓が止まるかと思いました……」
リゼがほっと胸をなでおろし、ユノの方に視線を向けると、ユノはクロードの言葉に少しショックを受けている様子だった。
「ねぇ、リゼ。ボクって、最低なやつだったの…?」
「ふふ、そんなことないですよ、先生」
(女の子をたらし込んでっていうのは聞き捨てなりませんが……)
笑顔の裏で黒いリゼが呟く。
「さあ、行きましょう。先生の研究室へ!」
こうして、二人の魔法学校での、波乱の新生活が幕を開けた。




