第6話 精霊女子会 〜開演〜
ここは現実世界の時間の流れから切り離された——精霊界。
人間界の殺伐とした旅路とは180度違う、華やかで甘い匂いの漂う空間が広がっていた。
「ねえねえ、このマカロン超美味しくない!? てか、今回のユノ、マジでウケるんだけど!」
テーブルの上を浮遊しながら、サクサクとピンク色のマカロンを口に放り込んでいるのは、風の精霊シルフィだ。
相変わらず露出度の高いギャル服で、ティーカップを片手にテンション高くはしゃいでいる。
「わかる。ユノってリゼのことになるとマジで情緒おかしくなるよな。……って、サラマンダー! あたしのクッキー勝手に食べないでよ!」
赤と黒のドレスをなびかせ、少し乱暴に紅茶をすすっているのは火の精霊イグニス。
彼女の足元では、手のひらサイズのサラマンダーが「きゅ~」と怒られて縮こまっていた。
「ふふ、でも無理もありませんよ。愛弟子のリゼ様があんな下衆に泣かされたのですから」
透き通るような白い肌をほんのり桜色に染め、理知的に微笑むのは水の精霊ウンディーネ。
彼女が優雅に指先を動かすと、空間に浮かんだ水晶が、先ほどの黒の教団との戦いの様子を、まるで映画のように巨大なスクリーンに映し出す。
ちなみに、優雅にお茶とお菓子を楽しみながら、人間界のゴタゴタを鑑賞するのが恒例の『精霊女子会』である。
——はっきり言って悪趣味である。
「……ユノ、やりすぎ……あいつら……灰すら残ってない」
部屋の隅、ふかふかのクッションに埋もれてぼそっと呟いたのは、地の精霊テラリアだ。
褐色肌の足を投げ出し、スコーンにたっぷりとジャムを塗りながら、やる気のない目でスクリーンを眺めている。
「それな!! 《 ヘルファイア 》とかマジでエグかった! あれ普通ラスボス戦で使うやつだよね!?」
シルフィがテーブルを叩いて爆笑する。
「つーか、ただのザコ相手に、わざわざ時止めて、その上あたしにヘルゲートまで開かせて……完全にあいつの私怨だろ」
イグニスはため息をつくが、その口元はどこか楽しげに歪んでいた。
「おおかた、健気に放ったファイアボールを指で弾かれて、『よっわ』って言われたのが、よほど許せなかったのでしょう。ああ見えて結構根に持つタイプですね、主は」
ウンディーネが困ったように首を傾げる。
「わかる」
「ユノそういうの死ぬまで覚えてそー」
一同爆笑。
精霊たち、言いたい放題である。
「……でも、リゼ、完全に落ちたよね」
テラリアがスコーンをモグモグしながら、核心を突いた。
その言葉に、女子会メンバーの目が一斉に輝く。
「きゃーーっ! それ!! 見た見た!? 最後のあのリゼちゃんの顔! 『ずるいです、先生……』とか心の中で呟いちゃってさぁ!」
シルフィが身を乗り出して、リゼの口調を真似ながら興奮気味に語る。
「あのタイミングで『よく頑張ったな』からの頭くしゃくしゃって……見てるこっちが恥ずかしくなるわ」
イグニスが呆れながら呟く。
「ショタユノを守りたい母性溢れるリゼ様と、ピンチの時には王子様のように救い出す主。見てて飽きません」
ウンディーネがふふ、と満足げに頷いた。
「……リゼ……ずるい。……テラリアも……よく頑張ったなって……言われたい」
テラリアがクッションに顔をうずめて、小さく嫉妬の声を漏らす。
「いや、それ絶対ないから! ユノの目には、今リゼちゃんしか映ってないし! てか聞いてた? 『生きて帰れると思うなよ』って言ってたの。あれ完全にホラーだったよね」
「ユノ……重い」
「わかる。つーかリゼも大概重いだろ。あんな男に一生添い遂げるつもりなのか?」
「うわぁ……古風」
「絶対苦労しますね」
精霊たちの女子トークは止まらない。
「次は、二人の思い出の魔法学校かー。エモ! めっちゃ楽しみ!」
シルフィが早くも次の展開を期待している。
「そうだな。学校に戻れば、女子生徒もいっぱいいるだろうし、リゼがどんな嫉妬すんのか見ものだわ」
イグニスが意地悪く笑う。
「何はともあれ、主が元の姿に戻るための鍵——『星の露雫』の手がかりが、あの学校で見つかることを祈りましょう。
私たちは、ここで美味しい紅茶をいただきながら、二人の恋路を見守ることにいたしましょうか」
ウンディーネの提案に、精霊たちは一斉にカップを合わせた。
現実世界でリゼがユノを抱きかかえ、健気に王都へと歩みを進めているその裏で、精霊たちのお喋りは夜が更けるまで延々と続くのだった。




