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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第3章 大陸横断編(前編)
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第65話 ☆炎のアミュレット

「お姉ちゃん……っ!」

 

 大爆発の余韻が残る祭壇の地で、ターニャがリゼの元へと駆け寄った。

 

「《炎の巫女》の癒やしよ……お姉ちゃんを治して!」

 

 ターニャが小さな手をかざすと、清らかな温かい光がリゼの全身を包み込んでいく。

 

 精霊の力を宿す巫女としての純粋な祈りが、すべての魔力を使い果たしてボロボロだったリゼの肉体を、急速に回復させていった。

 

「ありがとう、ターニャさん」

 

 リゼはゆっくりと立ち上がり、自身の右手の甲を見つめた。そこには、赤く神聖な光を放つ『火の精霊の契約印』が、確かに刻まれている。

 

(本当に……私が、最高位精霊の契約者に……。夢みたいだ……)

 

 世界で唯一、先生だけが成し遂げた至高の領域。その一端に、自分が今、確かに足を踏み入れたのだ。

 

「おい、リゼ」

 

 イグニスがフイと顎をしゃくり、炎の祭壇の中心を指差した。そこには、赤く燃え盛る宝石が嵌め込まれた、古めかしい首飾りが鎮座していた。

 

「あれは『炎のアミュレット』だ。あんたのもんだよ、好きにしな」

 

 リゼの目が驚きに丸くなる。

 

 炎のアミュレット——あらゆる炎魔法の超高速発動と完全制御を可能とし、伝承によれば幻の聖獣サラマンダーをも従えることができるとされる神具。


 魔法使いであれば、一生に一度はお目にかかりたいと願う、大陸屈指の超レアアイテムだった。

 

 リゼはそっとアミュレットを手に取ると、その美しい輝きを見つめ——そして、躊躇なく振り返り、ターニャの前に跪いた。

 

「お姉ちゃん……?」

 

 不思議そうに小首を傾げるターニャの首に、リゼは優しくそのアミュレットを掛けてあげた。

 

「お、お姉ちゃん!? これって、火の精霊様のすごい宝物じゃ……!」

 

「ターニャさんは、私の命の恩人です。それに、これがあれば……あなたの火の魔力を、完璧にコントロールして抑え込むことができるはず。

 だから、これはあなたに持っていてほしいのです」

 

 リゼはターニャの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で微笑みかけた。

 

「う……うん! ありがと、お姉ちゃん! アタシ、これ一生大事にするね!」

 

 少し困ったようにイグニスの顔色を伺っていたターニャだったが、リゼの真心を受け取り、とびきりの太陽のような笑顔を咲かせた。

 

 それを見ていたイグニスは、はぁ、と呆れたように肩をすくめる。

 

「おいおい、あれは正統契約者のものなんだけどな……。まぁ、リゼのそういうところ、あたしは嫌いじゃないけどさ」

 

(そういやユノのやつもこのお宝「いらない」って即答してたっけな。ったく、この師弟は……)

 

 イグニスは不敵にニィと笑った。

 

「——さあ、もう行かないと」

 

 リゼは気持ちを切り替えるように立ち上がり、ターニャに別れを告げた。

 

 すると、さっきまで笑顔だったターニャの顔が寂しげに曇り、リゼの服の裾をぎゅっと掴んで引き止めた。

 

「もう行っちゃうの……?」

 

「ごめんなさい、ターニャさん。私には、どうしても追いつかなければならない人がいるのです。世界で一番偉大で、大切な……私の先生に」

 

 ユノの背中を思い浮かべながら、リゼは優しくターニャの手を包み込む。

 

「あなたがそんな悲しい顔をすると、私も悲しくなってしまいます。どうか最後は、笑顔で送り出してください」

 

 ターニャは大きな瞳に涙をいっぱいに溜め、半べそをかきながらも、ぐっと唇を噛みしめて頑張って満面の笑みを作った。

 

「うん……っ! ありがとう、お姉ちゃん!」

 

 その健気な姿に、リゼの胸が熱くなる。

 

「お姉ちゃん! アタシ、毎日ここでお祈りするから! お姉ちゃんが無事でいられるように、絶対毎日祈るから!

 だから……全部終わったら、絶対にまたここに戻ってきてね!」

 

「はい! 約束します!」

 

 目頭が熱くなるのを感じたリゼは、自分の泣き顔を見せるのが恥ずかしくなり、そそくさと背を向けて歩き出した。

 

 祭壇の山道を下る道中、イグニスが、クスクスと笑いながらリゼの顔を覗き込んできた。

 

「おい主サマ、あの子、まだ見えなくなるまで大きく手を振ってるぞ?」

 

「……っ」

 

 我慢できなくなったリゼの目から、ポロっと涙が溢れ出した。恥ずかしそうに袖で涙を拭うリゼを見て、イグニスは優しい眼差しを向ける。

 

「んで、泣き虫の主サマ。これからどこを目指すんだ?」

 

 リゼは涙をきゅっと拭うと、前方をしっかりと見据えて答えた。

 

「——『王立天文台』を目指します」

 

 王立天文台——大陸のほぼ中央、険しく聳え立つ霊峰の頂に建設された、世界のあらゆる魔力を観測する最高国家機関。

 

 そしてそこは、大賢者ユノ・クロウがかつて所属し、今なお籍を置いている彼の「本拠地」でもあった。

 

「あそこなら、先生が残した研究資料や手掛かりが必ずあるはずです。それに、天文台の魔力観測器を使えば、先生の魔力をキャッチできるかもしれません」

 

「へぇ、なるほどね! ユノの居場所を突き止めるにはうってつけの場所ってわけか!」

 

 イグニスがパシンと自身の両拳を合わせ、激しい火花を散らせた。

 

「決まりだな! 出発だ!」

 

(待っていてください、先生。私はイグニスさんと契約し、少しだけ強くなれました。必ず、あなたの元へ追いついてみせます……!)

 

 火の精霊という心強い相棒を得て、弟子のリゼの、師を追うための次なる旅路が力強く動き出そうとしていた。

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