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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第3章 大陸横断編(前編)
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第61話 ▲なかなか始まらない旅

「ねぇ、これからどうするの?」

 

 風の最高位精霊シルフィは、頭を抱えながら目の前の男に問いかけた。

 

 ルカとシルフィ。大陸広しといえど、これほど噛み合わないカオスな二人組はいないだろう。

 

 先ほどまでルカの底知れない狂気の片鱗を垣間見ただけで、実のところ、二人の旅はまだ始まってすらいなかった。

 

「そうですね。魔法陣でどこに飛ばされたのかもわからない状況ですし、まずは人里を見つけて情報収集をするのが先決でしょう」

 

 ルカは衣服をきっちりと着込みながら答えた。

 

 一応は魔法学校の特待生。その回答自体は、100点満点のものだった。

 

 シルフィははぁ、と深いため息を吐く。

 

「ここはね、あたしを祀る『風の祭壇』にほど近い場所よ。山を一つ降りれば、近くにそこそこ大きな町もあるわ」

 

「風の祭壇……。なるほど、聞いたことがあります」

 

 ルカの表情が、いつになく真面目なものになる。

 

 シルフィはそんなルカの顔をじっと見つめた。

 

 悔しいが、黙っていればルカの容姿はすこぶる整っている。学校では女子生徒から密かに片想いされることも多く、成績も常にトップクラス。

 

 変な趣味(大先生のストーキングおよび違法魔導機の密造)さえなければ、意外にも普通の、いや、むしろ超ハイスペックな青年なのだ。

 

「伝承によれば、風の最高位精霊との契約ができる祭壇ですね」

 

 ルカは冷静に分析すると、何でもないことのようにシルフィへ視線を向けた。

 

「シルフィさん、僕と契約します? 僕は別に構いませんが」

 

「嫌よ(生理的に)!! ていうか、なんで上からなのよあんた!?」

 

 シルフィは即座に、全力で拒絶の声を上げた。

 

「くっ……わがままな方ですね。こんな気まぐれな精霊と契約を交わしていたなんて、さすがです、ユノ大先生。僕にはとても真似できません」

 

 勝手に大先生への信仰心を深めるルカを見て、シルフィは心の中で戦慄していた。

 

(いや、頭はおかしいけど、確かにこいつ…強いのよね……)

 

 シルフィは回想する。ルカの大事な魔導機『撮影くん』が黒水の魔物に傷つけられそうになった瞬間、この男が放った純粋魔力は、脅威の2,000パーセントを記録した。


 そしてノータイムで最高位の炎属性魔法《 ラスト・プロミネンス 》をぶっ放し、魔物を一瞬で塵すら残さず殲滅したのだ。

 

 実力だけなら最高位精霊のマスターになれないこともない。

 

 しかし、その強さを発揮するトリガーが「大先生の盗撮データが壊されそうになったから」という、擁護のしようがないキモさ。

 

 それが問題だった。

 

「あのさぁ……この際はっきり言わせてもらうけど——」


 シルフィは勇気を出して言うことにした。


「——あんた、キモいのよ」

  

 逆上されたら怖い。非常に怖い。

 

 だが、今後の長い旅路のこともある。ここではっきり自覚してもらう必要がある。

 

「僕が…キモい……?」

 

 ルカの身体がわなわなと震えだす。

 

(うわぁ、やっっば。地雷踏んだこれ!?)

 

 シルフィが身の危険を感じて大慌てで身構えた、その時だった。


 

「【ユノ大先生語録第0188番】 『きっしょ』!!!」

 


 突然、ルカは白目を剥きながら天を仰いで大声で叫んだ。

 

「……え、なんて??!!」

 

 シルフィはビクッとしながら聞き返した。というか、自分の耳を疑った。

 

 ルカのライフワークである『ユノ大先生語録』。

 

 ルカはユノが日常で放った言葉(その大半が適当な一言)をつぶさにノートに記録しており、それらすべてにナンバリングを施し、一言一句正確に記憶しているのだ。

 

「ちょっと、前にもそれいくつか披露してたけどさぁ! 『真理を探求せよ』とか『諦めるな』とかは、わりと普通っていうか、適当な言葉だったじゃない!?」

 

 シルフィは空中から身を乗り出し、激しくツッコミを入れる。

 

「今回の『きっしょ』って何よ!? 名言どころか、ただの悪口じゃないの!?」

 


 ——ちなみに、この言葉が生まれた背景はこうだ。

 

 ユノが魔法学校の『召喚術』の授業を受け持った際、手元を狂わせた生徒が、妖精を召喚するはずが、どういうわけか「魔界のゴキブリ」を召喚してしまった。

 

 その際、あまりのビジュアルのおぞましさに、あの大賢者ユノが思わず素で呟いた一言が、この「きっしょ」であった。(その後、ユノが責任を持って即座に魔界へ送還した)

 

 ルカはその歴史的瞬間(※ただの授業トラブル)をも完璧に網膜に焼き付け、その言葉を大先生の深遠なる教えとして昇華させていたのである。

 

「その言葉が今後のあたしたちの旅の何に役立つっていうのよ! ていうか、だんだん語録の言葉短くなってきてない!?」

 

 シルフィのツッコミは、風の精霊らしくキレッキレに冴え渡っていた。

 

 しかし、ルカはそんなシルフィの猛ツッコミを浴びながらも、何故か満足そうに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふっ……シルフィさん。僕たち、なんだかんだいいコンビですね」

 

「どこが!?? もう嫌ぁーーー!! そういうとこぉぉーーー!!」

 

 シルフィは頭を抱え、絶叫しながら空中でジタバタと悶絶した。

 


 理知的で美しい大人コンビのフィオナ&ウンディーネ。

 

 試練を乗り越え、熱い絆を結んだリゼ&イグニス。

 

 そして、ただただ精神を削り合う変態とギャル。

 

 ルカとシルフィの、果てしなく前途多難な大冒険は、今のところまったく何も始まっていないのだった。

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