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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第3章 大陸横断編(前編)
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第59話 ☆炎の試練(前編)

 赤茶けた岩肌が牙のように突き出す、荒涼とした大地。その最奥に、古の魔力が満ちる聖域『炎の祭壇』は存在していた。

 

「ここが……炎の祭壇……」

 

 息を呑むリゼの隣で、案内役のターニャも緊張に身体を強張らせている。

 

 ズゥゥゥン……ッ!!

 

 二人が祭壇の前に立った瞬間、大気が激しく震動した。

 

 中心から天を突くような巨大な炎の渦が巻き起こり、その業火を割って、赤髪の美女——火の最高位精霊イグニスが姿を現す。

 

「火の精霊様……!」

 

 ターニャが驚愕の声をもらした。その瞳には、今やイグニスの姿がはっきりと映っていた。

 

 神聖にして圧倒的な、燃え盛るような存在感。

 

「やっと来たか、リゼ。……ふふ、覚悟が決まったみたいだね」

 

 イグニスは腕を組み、鋭い眼差しでリゼの目を見据えた。

 

「なら、話は早い。私に勝ってみせな。それが、あんたに与える試練だ」

 

 リゼは深く、深く呼吸を一つして、張り詰める緊張を集中へと変えた。そして、愛用の杖を真っ直ぐに構える。

 

「……はい。よろしくお願いします、イグニスさん!」

 

「ハッ、いい返事だ。だが、今のあんたが相手じゃ少し退屈だからね。——ハンデをやるよ。私はこの『右手』しか使わない」

 

 イグニスは左手を後ろに回し、不敵にニィと笑った。

 

「行くぜッ!!」

 

 刹那、イグニスの足元の地面が爆ぜた。

 

 ——速い。一瞬で距離を詰めたイグニスが、炎を纏った拳を突き出す。リゼはギリギリのところでその一撃をかわした。

 

 しかし、イグニスは接近戦の達人だ。容赦のない連撃がリゼを襲う。

 

「くっ……!」

 

 防戦一方になり、かわしきれなかった衝撃がリゼの身体を捉えた。凄まじい衝撃波と共に、リゼの身体が後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

 ターニャの悲鳴のような叫びが響く。

 

「……まだ……ですっ!」

 

 リゼは地を払い、すぐに立ち上がった。

 

 炎の拳から繰り出される接近戦は尋常ではない脅威だ。まずは距離を取らなければ——

 

 リゼは後退しながら、瞬時に呪文を紡ぐ。

 

「《 アクア・エッジ 》!」

 

 無数の激しい水の刃が、イグニスを目がけて全方位から襲いかかる。属性としてはリゼが有利なはずだった。だが——

 

「ハッ、その程度?」

 

 イグニスは右手から一筋の炎を払っただけで、迫る水の刃をまたたく間に蒸発させてみせた。白い水蒸気が立ち込める中、イグニスの追撃が容赦なく飛んでくる。

 

「はぁっ!」

 

 放たれたのは、超高速の火球。

 

 リゼは咄嗟に防御障壁を展開したものの、その威力を殺しきれず、激しい衝撃が全身を打つ。確実にダメージが蓄積し、呼吸が荒くなっていく。

 

(やっぱり、強い……! でも、ここで負けるわけにはいかない!)

 

 リゼは奥歯を噛み締め、さらに膨大な魔力を練り上げた。

 

「《 タイダル・ウェーブ 》!!」

 

 赤色の大地にあり得ない大津波が巻き起こり、奔流がイグニスを呑み込もうと迫る。


 水は質量を持つ物質であり、現象として説明される火や風とは性質を異にする。

 空気中に水分子がほとんど存在しないこの大地で大掛かりな水魔法を展開するには、並大抵ではない魔力を要する。


「へぇ、大した魔力量だ」

 

 イグニスは感心したように声を漏らしたが、怯む様子は微塵もない。右手に紅蓮の炎を凝縮させると、その激流を正面から力任せに突き破ってきた。

 

「しまっ——」

 

 驚愕するリゼの懐に飛び込み、イグニスの右拳が空気を叩く。凄まじい爆風が吹き荒れ、リゼは再び派手に吹き飛んで地面を転がった。

 

 リゼの水魔法攻撃は、悉く潰され、倍の威力で返される。ふらふらと、辛うじて杖を支えにして立ち上がるリゼ。視界がかすみ、身体中が悲鳴を上げている。

 

「リゼお姉ちゃん!!」

 

 ターニャが叫ぶ。

 

 その時、リゼの脳裏に、かつて偉大な師から教わった言葉が蘇った。

 

『リゼ。属性には無論、有利不利がある。

 教科書通り効率を重視するならば、属性を考慮すべきなのだが……お前の魔力の性質は、本来なら一点突破の超高火力に向いている。

 圧倒的な火力の前では、属性など無意味。極限まで集中すれば、破れないものはない』

 

(……先生!)

 

 リゼは覚悟を決めた。今の自分が出せる、全魔力による最大火力。

 

「《 星砕きの雷槍(アストラル・ランス) 》!!」

 

 リゼが杖を掲げると、その先端にバチバチと空間を裂くほどの超高密度な紫電が狂い咲いた。神話の一撃を思わせる、凄まじい雷の槍が形成される——

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