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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第2章 流星の谷編
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第46話 流星の谷

 『流星の谷』の最奥——

 

 フィオナ、リゼ、ユノの三人は、神秘的な輝きを放つ巨大な洞窟の内部を歩んでいた。

 

 そこは、およそ地上の光景とは思えない、異様な空間だった。

 

 壁も地面も天井も、すべてが深い夜空のような群青色に染まり、無数の星屑がまたたいている。

 

 重力さえも曖昧になったかのように、まるで宇宙空間をそのまま歩いているような、上も下も、右も左も分からなくなる不思議な感覚がリゼを襲う。

 

 そんな中、先頭を歩くフィオナだけはこの環境に慣れているようで、一切戸惑う様子もなく真っ直ぐに歩みを進めていた。

 

(この先に、先生を元に戻す『星の露雫』がある……!)

 

 リゼが小さく息を呑んだ、その時。フィオナがふと足を止め、振り返った。

 

「ここから先はね、私の『未来視』が効かないわ」

 

「え……? フィオナさんの魔法でも、ですか?」

 

「ええ。まるで濃い霧で覆われたように、この先の未来が何も見えないの。

 普段はこんなこと絶対にないんだけどね。……これから先に何が待ち受けているのか。そして、どんな結末が待っているのか……」

 

 星の賢者の言葉に、ぴりりとした重い緊張感が走る。


 

 しかし——そんな張り詰めたシリアスな空気の裏で、ユノの精神世界では、まったく別の意味で緊迫したヒソヒソ話が始まっていた。

 

「ねぇ、ちょっとみんな……こんなシリアスな状況でアレなんだけどさ」

 

 シルフィが顔を強張らせ、小声で周囲の精霊に話しかける。

 

「あの変態、もうかなり近くまで来てるよ」

 

「マジか。本当に空気読めよな、あのストーカー野郎……」

 

 イグニスが呆れ果てたように眉根を寄せた。

 

「行動が完全に読めないところが、逆に一番怖いですね」

 

 ウンディーネが真剣に警戒する。

 

「ほんとそれ」

 

 テラリアも深く頷いた。

 

 一応、地上のユノたちの雰囲気を察してか、精霊たちはいつもよりかなりトーンを落とした小声で話している。

 

 だが、画面の中のルカの奇行は、彼女たちの自制心を容赦なく削りにきた。

 

「ちょっと待って……! あいつまた、ユノの語録言い始めたんだけど! よりによって『諦めるな』だって……ッ!」

 

 シルフィが早くも口元を押さえ、必死に笑いを堪え始める。

 

「もはや名言でも何でもないな」

 

 イグニスが冷ややかに突っ込む。

 

「……ただの励まし」

 

 テラリアも淡々と同意した。

 

「しかもこれ、昔ユノの課題が難しすぎて挫けそうになってた凡庸な生徒に向けて、主が投げやり気味に言った一言みたいですよ」

 

 ウンディーネが冷静に事実を告げると、シルフィの肩がプルプルと激しく震え出した。

 

「おいおい。しかも、67番目の名言だから語呂合わせで『ルナ』になって、自分の名前『ルカ』と似てるから大先生が自分に向けてくれた言葉だ、とか言ってるぞ」

 

 イグニスが画面を指差す。

 

「どういう意味だそれ? 意味が分からなすぎるんだが」

 

「すごいこじつけですね。感動の方向性が完全にホラーです」

 

「……ここまでくると、逆に才能」

 

「……ダメ、もう限界……っ! み、みんな笑わせないで、お願いだから……ッ!」

 

 シルフィはすでにお腹を押さえ、涙目で限界寸前になっていた。

 

 シリアスな空気の中で大爆笑するわけにはいかないという、謎のプレッシャーがさらに彼女を追い詰める。

 

「あ、おいおい。ルカの奴、また何か新しい怪しい道具出したぞ」

 

 イグニスの言葉に、シルフィはもう画面を直視できず、顔を背けた。

 

「な、何よそれ……もう見たくない……!」

 

「『観測くん』だって」

 

「……ッ!!?」

 

 シルフィの喉がキュッと鳴った。

 

 ——危なかった。

 

 今のはマジで吹き出しそうになった。

 

 必死に我慢すればするほど、笑いのツボが刺激されて凶悪な笑劇が押し寄せてくる。

 

「あ、今度は『撮影くん』出してきたぞ。何する気だ……?」

 

 画面の中で、ルカが二つの違法改造魔導機を掲げる。

 

 ——ガキィィィィン!!!

 

 重厚な合体音と共に、二つの魔導機が綺麗にドッキングした。

 

 そのバカ丸出しの演出とルカのドヤ顔が、ついにシルフィの防波堤を完全に粉砕した。

 

「ぶふっっっっっっっあははははははははははは!!!!!! 嘘でしょ、合体したよ!! 観測くんと撮影くん!! あははははははははは!!!!」

 

 シルフィが過呼吸を起こして床でのたうち回る中、イグニスも「バッカじゃないの!? 何よあの合体機能!」とつられて爆笑し始め、精神世界は一瞬で大騒ぎの渦に飲み込まれた。

 

(……はぁ。まったく、頭の中がうるさいな)

 

 地上の8歳のユノは、脳内に直接響き渡る精霊たちの爆笑と絶叫に、めんどくさそうに小さく眉をひそめた。

 

 もちろん、その原因が自分の背後を猛追してきている「バッキバキのストーカー」にあることなど、ユノ自身もまだ気づいていない。


 

 シルフィが笑いすぎて完全に酸欠状態に陥る中、一行の前に、突如として開けた光景が広がった。

 

「——着いたわ」

 

 静かにフィオナが告げる。


 一行はとうとう、洞窟の最奥に広がる巨大なドーム状の空間へと到着したのだった。

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