第44話 精霊女子会 〜ルカの覚醒について〜
精霊界は、ここ最近、完全に一人の男子生徒のウォッチング会場と化していた。
お茶菓子を片手に巨大スクリーンを囲む彼女たちの前に、今日も画面の向こうのあの変態が、期待を裏切らない大やらかしを披露してくれたところだった。
「うわあ……」
「さすがにこれは引くわ。本気で引くわ……」
自作魔導機の『追跡くん』を嬉々として起動するルカの姿に、シルフィとイグニスが顔をしかめて完全にドン引きしている。
「ていうか何よ『ストーキングを完遂するためには必須のアイテム』って解説。犯罪正当化してない?!」
「ゼウスの出力を逆手に取るとはな。犯罪者の思考回路ってすげーな」
ルカを完全に犯罪者扱いするシルフィとイグニス。
その隣でウンディーネが真面目な顔で手帳にペンを走らせている。
「なるほど。普段、主がゼウスを自分の手元に置かず、ずっと研究室の結界内で保管していたのは、この手のストーカー対策のためだったのですね。合点がいきました」
「そんな壮大な防犯対策だったの!?」
そんなユノの苦労をつゆ知らず、よかれと思ってゼウスを持ち出してしまったリゼ。
世の中には彼女の想像を遥かに超えるヤバい輩(変態)がいっぱいいるのだ。
さらに画面の中では、ルカの『ユノ大先生語録』の拡大解釈が炸裂していた。
「あはははは! 激しく解釈間違ってる!!」
シルフィがソファをバンバン叩いて爆笑する。
「しかもさぁ、テラリア。ユノの言った『真理を探求せよ』って、魔導師としてはわりと普通っていうか、むしろ使い古された定型句だよね?」
「……うん。ユノ、わりと適当に言ったと思う」
「でしょ!? 普通の言葉だよ!」
一同大同意。
奇行、魔導機、語録……精霊たちのルカへの評価は相変わらず極めて厳しい。
だが、画面の中に『黒水の魔物』が出現した瞬間、精霊たちの空気が一変した。
「あー、さすがにこれ死んだんじゃない?」
「まあ、相手が悪すぎるな。あのフィオナでさえ手こずってた化け物だからな」
「ルカ、これまでよく頑張りました。ご冥福をお祈りします……」
「生まれ変わったら……犯罪者になるなよ」
さすがにルカの命日を覚悟し、南無阿弥陀仏と手を合わせかける精霊たち。
しかし、画面の中のルカは諦めなかった。
懐から例の『賢者の湯』を取り出し、ゴクゴクと一気に飲み干す。
「でたーーー!!」
「またやってるよこの変態!!」
「ていうか、何度も言うけどそれ効能が普通の温泉だから! 冷え性とか肩こりに効くだけだから! 思い込みだけで魔力パワーアップするとかあり得ないから!!」
シルフィたちの必死のツッコミが響く中、怪物の爪が『撮影くん』を掠めた。
その瞬間、ルカの魔力が最大出力2,000%を叩き出す——
「「「「ええええええーーーーーっっっ!!!???」」」」
四人の精霊が、「ビターン!」と綺麗にひっくり返った。
スクリーンに表示されたルカの戦闘力は、完全に限界突破を示している。
スカウターがボンっ!とぶっ壊れるレベルである。
「嘘でしょ、何このトリガー!? 撮影くんが傷つきそうになっただけで魔力2,000パーセントって!! 人間の感情の起伏、意味わかんないんだけど!」
「これだけの魔力を瞬間的に引き出すって普通にヤベーだろ! ユノ以外にもこんな人間いたんだ!?」
イグニスですら、驚愕に目を見開いてルカの放った《 ラスト・プロミネンス 》の威力を凝視していた。
黒水の魔物が、再生の暇もなく一瞬で蒸発している。
そして戦闘終了後、画面の中のルカは小瓶に向かってこれ以上ないほど綺麗な感謝の土下座を披露した。
「だから違うってば! 温泉の加護じゃないって!」
シルフィが爆笑しながら涙を拭う。
「でもさ、これだけ思い込みが激しくて、あの怒りだけで最高位魔法をノータイムでぶっ放せるならさ……こいつ、ある意味最強じゃね?」
「……うん。意外に、ユノの二番弟子くらいにはなれる器かも」
テラリアが冷静に評価を下すと、イグニスも「癪だけど、その辺の凡百の魔導師よりは遥かに才能あるな」と認めざるを得なかった。
「あー!ルカの次の配信が楽しみすぎる~!」
シルフィがルカの動画に『いいね』をしている。
きもい、怖いと言いつつも、完全にルカのエンタメ性の虜になった精霊たちは、現実世界のリゼの恋路と同じくらい、ルカのストーキングの行く末に大盛り上がりするのだった。




