第41話 精霊女子会 〜変態について〜
精霊界は、かつてないほどのざわめきに包まれていた。
彼女たちが、ネタとして大好きなあの男——ルカ・ウェインが、ついに本格的に稼働を開始したからである。
「ちょっとみんな! これはヤバい! マジでやばいってば!!」
シルフィが顔を真っ青に、しかし目は爛々と輝かせながら、血相を変えて飛んできた。
「あのルカが、なんかまた変なこと始めちゃってるのよ! ウンディーネ! 急いでここのメインスクリーンに映像出して!!」
シルフィが慌ただしくウンディーネをけしかける。
——精霊は人間と魔力の波長を合わせることで、その人間の感覚情報を共有することができるとされる。
これは魔導機に対しても応用可能で、ルカが発明した『撮影くん』の魔力波長を運良く捉えたシルフィは、その内部データを精霊界へ引っ張ってくることに成功したのだった。
「あんた、ほんとに悪知恵働くわね」
イグニスが普通に呆れる。
「えー?」
シルフィはまったく懲りていない。
「褒めないで?」
「褒めてねぇ!」
だが、イグニスもこの時ルカの奇行にちょっぴり……というか、かなり期待を膨らませていた。
ちなみに、フィオナクラスの超一流魔導師が作った魔導機には強固なプロテクトがかかっているため、いかに精霊といえども覗き見ることはできないのだが……ルカの作った自作魔導機のセキュリティはガバガバだった。
そんな悪趣味な精霊たちに大画面で見られているとも知らずに、画面の向こうでルカが配信の真似事を始める。
『バッキバキTVをご覧の皆さん……』
「ぶっっっ!! あーはははははは!!! ちょ、ちょっと待って! なに『バッキバキTV』って! お腹痛い! ふ、腹筋返して! アハハハハ!!」
まだ本編が始まってすらいないのに、シルフィ大爆笑。
ソファから転げ落ちて呼吸困難に陥っている。
さらに画面の中のルカは妙なコスチュームで、妙なポーズを決める。
『マジカル☆マジルカです』
「「「「いや、ルカだろ!!!」」」」
四人の精霊から同時に鋭いツッコミが飛ぶ。
「名前変える意味ある? 目バッキバキすぎて一発でバレるだろ」
イグニスがアホを見る目でルカを見つめる。
「しかも自分で『ルカ』って名乗っちゃってますね……。あ、いえ、『マジルカ』ですか」
ウンディーネが興味深そうに眼鏡を押し上げる。
「……一周回って、ネーミングセンスはいい」
テラリアが寸評をぼそり。
精霊たちはもう好き放題だ。
画面の中では、マジルカ(ルカ)が興奮気味にクレーターの紹介を続けている。
『見てください、このクレーター。これは恐らく、僕が崇拝してやまない、ある大賢者様が——』
「鼻息荒っ! マイクにフーフー入っちゃってる!」
「顔近いな……つーかクレーターの紹介動画とか需要あんのか?」
「そもそも、これはユノではなくて、フィオナ様のクレーターですね」
精霊たちが画面を指差してヤジを飛ばす中、ルカは「チャンネル登録・高評価をお願いします」と動画を締めくくった。
「ねぇ、チャンネル登録って何? 高評価って何?」
「さあ……。知らねーけど、こいつの世界観だろ。独特すぎるな」
このとき、ルカは遥か未来を先取りしていたのだが、当然時代はまだ彼に追いついていないのであった。
◇
続いて、画面は温泉宿のシーンへと切り替わった。ルカが受付の従業員にユノの入浴情報を執拗に聞き込んでいる。
「うわぁ……」
「怖っ……! 目つきが完全に異常者」
「従業員、めちゃくちゃ怯えてんじゃん!」
「……可哀想」
ルカに気圧され、涙目になっている従業員に同情する精霊たち。
そして、ついに問題のシーンが訪れた。貸切家族風呂の前に立ったルカが、カバンから大量の小瓶を取り出し、ユノが入ったという湯を嬉々として瓶詰めにしていく。
「きもっ」
「うわ、きもいな……」
「さすがにこれは引く……」
数千年に渡り、今までいろんな人間を見てきた精霊たちも、この純度100%の変態行為にはさすがにドン引きしていた。
しかし、ルカの暴走はこれだけでは終わらなかった。ルカは愛おしげに温泉を見つめると、ゴクリと生唾を飲み込み——あろうことか、その湯をガブ飲みしたのだった。
「「「「ぎゃああああああああああーーーーーーーっっっ!!!!」」」」
精霊界に、かつてないほどの悲鳴が響き渡った。
「飲んだ! あいつ飲みやがった!!」
「いやぁぁ! たすけて!! お母さんたすけて! 人間怖いよぉ!!!」
「……ルカ、限界突破」
シルフィとイグニスが頭を抱えてのたうち回り、テラリアは完全に白目を剥いている。
「本当に、きもい……きもすぎるわ……」
イグニスが本気で嫌悪感を露わにするが、ウンディーネは興奮冷めやらぬ手つきで手帳にペンを走らせていた。
「でも、次あの子が何をしでかすのか、気になって画面から目が離せませんね」
「「「確かに!!!」」」
なんやかんや言っておきながら、ルカの次なる奇行への期待感をどうしても拭えない、悪趣味な精霊たちであった。




