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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第1章 魔法学校編
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28/84

第28話 それぞれの想い

 王都中央魔法学校——


 生徒は学び、鍛錬に励む。

 教師は未来を担う魔法使いを育てる。


 いつもと変わらない日常。


 しかし、そんな学校の片隅には、ぽっかりと心に穴があいたような「ロス」に陥っている者たちがいた。


  

「はぁ……」

 

 基礎学部の渡り廊下で、アリアは手すりに顎を乗せて、重いため息をついていた。

 

 視線の先にあるのは、かつて臨時講師リゼの授業が行われていた演習場だ。

 

 つい数日前まで、そこには生意気で、でも信じられないくらい愛らしい男の子がいたはずだった。

 

「何も言わないでいなくなっちゃうなんて、あんまりだよ……」

 

 アリアは、あの大浴場でのハプニングを思い出し、耳まで真っ赤にしながら、誰もいない空間に向けて小さく唇を尖らせた。

 

「私の裸、見たんだからさ……。ユウくん、ちゃんとセキニンとってよ……」



 ◇

 


 一方、講師たちの暮らす一角にある高級な私室では、セシリアが贅沢な刺繍の施されたソファに深く腰掛け、淹れたての紅茶を睨みつけていた。

 

「リゼったら、私に何も言わないで出て行くなんて……! 本当に癪ですわ」

 

 彼女の前の机には、リゼが去り際に学長へ託したという、短い置き手紙が置かれている。

 

 そこには『急な事情で旅に出ます。セシリア先生、学校をよろしくお願いします』とだけ書かれていた。

 

「いつもいつも、あの子は私の一歩先を行くんだから……本当に……もう……っ!」

 

 セシリアはふんと顔を背け、強がるように紅茶を一気に飲み干した。

 

 だが、カップを置いたその横顔には、いつもの高飛車な笑みはなく、どこか寂しげな陰が差している。

 

「……でも、あの生真面目なリゼが、逃げるようにいなくなるなんて、普通の用事なわけないですわ。……リゼ、どうか……どうか、無事でいてね」



 ◇

 


 そして、最も深い静寂に包まれている大図書館。

 

 貸出カウンターの奥で、チーフ司書のエレーヌは、いつもよりずっと手持ち無沙汰そうに羽根ペンを動かしていた。

 

 ふと、彼女の視線が最前列の特等席へと向く。

 

「……いつもユウくんは、あの席で本を読んでいたわね」

 

 エレーヌは目を細め、少年が座っていた誰もいない椅子を見つめた。

 

 大人顔負けの、いや、それすらをも凌ぐ知の探求と、8歳の子供としての無垢な愛らしさ。その両方を併せ持つ不思議なユウくん……退屈だった彼女の日常を一瞬で彩ってくれた。

 

「ふふ、私の特製ハーブティー、まだ何種類もあったのに……お預けね」

 

 図書館では当然、飲食禁止である。

 しかし、エレーヌはお気に入りのユウくんのために、奥の書庫に案内する際、司書室でこっそり、焼き菓子とハーブティーを振る舞っていたのだった。

 

「……また、会いたいな。ユウくん」



 ◇

 


 そんな中、校舎の裏手、時計塔の影で、一人奇妙な熱気を放っている男子生徒がいた。

 

「はぁ……リゼ先生……」

 

 ルカは両手で顔を覆い、恍惚の表情を浮かべていた。彼の脳裏に焼き付いているのは、あのリゼの魔王のような冷たい笑顔、と蔑むような視線だ。

 

「怒っている姿のリゼ先生も、本当に素敵だった……。ああ、また僕を冷たい目で見て、叱ってほしい……!」

 

 完全に引き返せない領域へ足を踏み入れているルカだったが、不意にその顔から締まりのない笑みが消え、バッキバキの、狂信的な目が現れた。

 

 彼は懐から、あの大図書館で使っていた自作の単眼鏡を取り出し、遥か北東の空をじっと見据える。

 

「そして、ユノ大先生。あなたが子供の姿となり、リゼ先生を連れて隠密に行動せねばならないほどの『世界の危機』……僕も必ず、その真実にたどり着いてみせます。

 待っていてください。いつか僕は、あなたの隣に立つ男になる……!」

 


 それぞれの想いが交錯する、王都中央魔法学校。

 

 彼らの祈りと執着が、旅立ったユノとリゼの背中に届くのは、そう遠い未来の話ではないのかもしれない。 

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