第23話 ルカ、真実に迫る
「リゼ先生、僕はあなたのことを、もっと知りたいというか……」
あの日以来、ルカの頭の中はリゼのことでいっぱいだった。凛とした美しさ、圧倒的な魔法の才、そして時折見せる優しい微笑み。
彼女への想いは募るばかりだが、ルカにはどうしても気になる存在がいた。
(いつも先生の隣にいる、あの『ユウくん』という少年……)
リゼ先生の弟ということらしいが、二人の距離感はどこか姉弟のそれ以上に近く、まるで恋人同士のようにも見える。
さらに、ユノ・クロウを狂信的に研究してきたルカにとって、あの少年のふとした仕草や超然とした佇まいは、どこか憧れの大賢者ユノに似ている気がしてならなかった。
(何かがある。……真相を探るには、あの少年に一番近い生徒に聞くのが定石か)
ルカは意を決し、基礎学部の演習場へと向かった。
ターゲットは、臨時講師であるリゼの授業を最前列で受け、あの少年とも接点があるはずの首席候補生だ。
「アリア君!」
「ひゃ、ひゃへにゃいっ!?!? る、ルカ先輩ぃぃーーーっっっ!?」
背後から声をかけられたアリアは、跳び上がらんばかりに激しく動揺し、持っていた魔導杖を危うく落としそうになった。
実は、アリアは密かに、端正な顔立ちで実力派のルカ先輩に淡い恋心を抱いていたのだ。
いつもなら『先輩、今日の調子はどうですかっ!』と元気にアプローチするところだが、今のアリアには致命的な問題があった。
(だ、だって私、男の子にすっ裸見られたばかりなのよ!? そんな破廉恥な状態で、好きな先輩を直視できるわけないじゃないの……っ!!)
お風呂の一件以来、アリアはすべての男性(特にルカ)に対して勝手に合わせる顔をなくしていた。
赤面して「あわわわ」と震えるアリアを見て、そんな乙女の複雑な事情を一切知らないルカは、不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんだい? 顔が真っ赤だけど……。いや、少し君に聞きたいことがあってね。リゼ先生の弟の、ユウくんについて何か知らないか?」
「ユ、ユウくん……!?」
アリアはその名前を聞いて思わずドキッとしてしまう。アリアの裸を見た張本人だ。
しかし、ここで動揺してはルカに怪しまれてしまう。アリアはルカから視線を必死にそらしながら、大浴場での記憶を手繰り寄せた。
「な、何かと言われても……ただの生意気で可愛いガキ……じゃなくて、男の子ですよ。……あ、でも」
「でも?」
ルカが身を乗り出す。
「その……ユウくんの胸元を見た時に……変な光の紋様があったんです。幾何学模様みたいな、すっごく綺麗で、神聖な感じの……。私、あんなの見たことなくて」
「——っ! 光の、紋様……!? まさか、複雑に絡み合う四色の光の幾何学か!?」
「え、あ、はい、そんな感じですけど……」
ルカの脳裏に、古い文献の記述がフラッシュバックする。
——『四精霊契約者』の身体には、その証たる神聖なる光の紋章が刻まれる。
そんなものを宿している人間は、この大陸にただ一人、現在行方不明の大賢者ユノ・クロウ以外に存在するはずがない。
(やはりあの少年は……ユノ大先生ご本人なのか!? 子供の姿になってリゼ先生の元へ……!?)
興奮に胸を詰まらせるルカだったが、ふと、ある純粋な疑問が頭をよぎった。
「ところでアリア君。君は……一体どこで、そのユウくんの胸元の紋章を見たんだい?」
その質問は、アリアにとって最も触れられたくない、一撃必殺の禁句だった。
「どこでって……それは、その、あ、あの……っっっ!!」
一気に脳内にあの大浴場の光景が蘇り、アリアの顔面は真っ赤に沸騰した。ルカ先輩にユウくんと女子寮の大浴場で鉢合わせた、などと口が裂けても言えるわけがない。
「わ、私っ、何も知らないし何も見てませーーーんっ!!!」
アリアは狂ったように叫ぶと、脱兎のごとく走り出した。
「あ、おい! アリア君——」
呼び止めるルカの声も虚しく、大パニックのアリアは、演習場に置いてあった木製のダミー人形※に「ふぎゃっ!」と派手に激突。
そのまま人形ごとひっくり返り、物音を立てながら這う失意の体で、廊下の奥へと逃げ去っていった。
静まり返る演習場で、ルカは一人、呆然と立ち尽くす。
「一体……何だったんだ……?」
アリアのあまりの奇行に困惑しつつも、ルカの中であの少年がユノ大先生である、という疑惑は確信へと変わりつつあった。
※木製のダミー人形
基礎学部生の下級魔法(ファイアボールやウィンドカッター等)を受け続けて40年。彼もそろそろ引退の時を迎えようとしていた——
彼の名前は『ダミアン君』。この学校で知らない者はいない、木製のダミー人形である。ちなみに彼は学校紹介のパンフレットにも登場する、王都中央魔法学校の公式キャラ。
勤務歴40年の大ベテラン。実は学長よりもキャリアが長い。
リゼの魔法も、セシリアの魔法も受けてきた。みんな筋が良かった。懐かしい思い出である。
夜中に校舎の廊下を走るダミアン君という妙な魔法学校七不思議に加えられたこともあったが、今となってはそれもいい思い出だ。(なお、廊下を走っていたのは本物の悪霊であり、ダミアン君は一切関係ない)
——ありがとう、ダミアン君。今日まで王都中央魔法学校を支えてくれて。また会う日まで。【在校生・卒業生・教職員一同】




