第22話 ルカ、登場
「——以上で、多重結界の魔力干渉における相殺処理の演習を終了します。各自、今日学んだ魔力の最適化について、しっかりと復習しておくように」
リゼの声が演習場に響き渡ると同時に、専門学部のエリート生徒たちは一斉にその場にへたり込んだ。
丸投げされた怒りも手伝ってか、リゼの指導は専門学部の基準から見ても超実戦的、かつ妥協の一切ないスパルタなものとなっていた。
だが、その教え方は的確そのものであり、終わってみれば生徒たちの目にはリゼへの深い敬意が浮かんでいた。
リゼが片付けを始めようとした、その時だった。
「あの……リゼ・アンブレスト先生!」
演習場に残っていた一人の男子学生が、意を決したようにリゼのもとへと駆け寄ってきた。
彼の名はルカ・ウェイン、18歳。専門学部で『高位魔法専攻』に籍を置く、端正な顔立ちをした実力派の特待生だ。
いつもは冷静な彼が、今は少し耳を赤くして、熱い眼差しをリゼに注いでいる。
「はい、何でしょうか? ルカくん」
「本日の講義、本当に素晴らしかったです! 厳しさの中にも、一人一人の生徒を思い遣る、リゼ先生の深い愛を感じました。
クロード先生よりも……失礼。諸先生方の中でも内容が濃く、温かみのある授業に、深く感動しました」
(まあ、温かみのない先生は、ごく一部だと思いますけど……)
リゼは心の中で呟いた。
ルカは一歩踏み込み、真剣な口調で言葉を続ける。
「それに、リゼ先生は……現在行方不明とされているユノ・クロウ大先生の唯一の『お弟子様』だと伺いました。
僕は昔からずっとユノ大先生に憧れて、この学校に入ったんです。ユノ大先生は聡明で、魔法理論も卓越しておられる。
また、理論に留まらず、戦闘においても他者の追随を許さず——」
「ユノ先生の……」
まだ話は続いていたが、師の名前を出され、リゼの表情がふっと柔らかくなる。
「——さらに、大陸屈指の蔵書数を誇る大図書館のすべての魔導書を、たった2時間で読破したという誰にも真似できない伝説。僕のような一生徒が、ユノ大先生を語るには、まだまだ言葉と時間が足りません。
……あ、すみません。つい、長々と話してしまいました。
本日の講義、ユノ大先生の直系の弟子であるリゼ先生から直々に指導を受けられて、本当に光栄でした。ありがとうございました」
ルカはまだまだ話し足りなさそうな感じであったが、一旦区切りがついたらしく、言葉を締め括った。
この生徒は、先生のことを本当に心から尊敬しているのだろう。その想いがひしひしとリゼに伝わってきた。
「あの、リゼ先生! もしよろしければ……これからも、個別で魔法の手解きを願えないでしょうか? 先生の素晴らしい魔法を、もっと近くで学びたいんです。
学術的な質問だけでなく、その……先生のことも、もっと知りたいというか……」
ルカの言葉が、後半になるにつれて少しドギマギとしたものに変わっていく。
彼は純粋にユノの魔法に憧れていたのも事実だが、今日、教壇で見事な魔法を操り、凛とした美しさで自分たちを指導してくれた年上のリゼに、完全に一目惚れしてしまっていた。
ルカにとって、これは初めての経験だった。
「私のことも……?」
(先生の弟子がどういうものなのか、それを知りたいということですね、きっと……)
リゼはあまりに純粋なルカの申し出に、特に深い意図を読み取ることなく微笑んだ。
「ええ、もちろん構いませんよ。私で良ければ、いつでも質問に来てください。ユノ先生の魔法の素晴らしさを、そうして熱心に学ぼうとしてくれる生徒がいるのは、私にとっても非常に嬉しいことです」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます……!」
ルカはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに何度も頭を下げた。
断る理由もないため、快く申し出を受けたリゼ。
しかし、彼女はまだ気づいていなかった。ユノが周囲の女性たちを無自覚に虜にしている裏で、今度はリゼ自身が、学校の優秀な男子生徒から熱烈な好意を寄せられることになったという事実に。
そして、ルカの登場により、この物語はひとつの転機を迎えることになるのだった。




