第21話 クロード先生 職業「遊び人」
王都中央魔法学校の臨時講師としての実力が認められ、リゼは基礎学部の授業だけでなく、専門学部の講師たちの「助手」も兼務することになった。
専門学部は、基礎学部を終えたエリートたちが通う高度な領域だ。
「ええっと、今日の担当は……専門学部『高位魔法専攻』。担当講師は、クロード先生、ですか」
リゼは資料を見ながら、指定された高位演習場へと足を運んだ。
——ちなみにユノは、今日もエレーヌのいる大図書館で奥の書庫の本を読ませてもらうと言って、大人しくお留守番をしている。
昨日のリゼの嫉妬の炎を察してか、今日はかなりお行儀よくしているようだ。
「やぁ、リゼ。君が来てくれて助かるよ。 基礎学部ではかなり評判がよかったみたいだからね。専門学部でもきっと大丈夫」
そういうと、クロードはきらりと光る笑顔をリゼに向ける。
クロード先生は、大賢者ユノ・クロウの大学時代の同期。ユノと同じく、才能溢れる天才に属する。
そして、抜群のルックスと気さくな性格から、女子ウケはすこぶる良い。
まさにユノの『悪友』という言葉がしっくりくる男。
しかし、リゼはこの手のノリが軽くてちょっとチャラい感じの男性が昔から苦手だった。
ちなみに、ユノ・クロウ及びクロード・アルヴェインの講義は、休講がやたら多く、総じて『クロの教壇』と学長から揶揄されていた。(悪の秘密結社『黒の教団』とかかっている)
ユノは王立天文台の職務や王命の任務といった過密なスケジュールにより、止む無く休講という場合もあった。
しかしながら、普通に研究室で昼寝をしていることも多々あり、生徒が起こしにいくこともしばしばあった。(生徒が起こしに行かない場合は、そのまま休講となった)
一方、クロードは社交界でも顔が広いため、様々な社交場で、社交的な大人の出会い(または別れ)があり、その折、かなりの頻度で休講となった。
ちなみに、休講理由の八割方が二日酔いであった。
「……クロード先生、よろしくお願いいたします」
リゼはクロードの笑顔に絆されないよう、きりっと丁寧に一礼する。
「リゼはお堅いなぁ(笑)……それにしても、ユノの奴。今頃どこで何してるんだろうね。まぁ、あの最低な男のことだから、君という弟子がありながら、どこかで女の子でも口説いてるのかもしれないな……」
(……今まさに、大図書館で女性司書さんたちを無自覚に口説き落としていますよ)
リゼは心の中でそう突っ込んだが、もちろん顔には出さない。
やがて、専門学部のエリート生徒たちが演習場に集まってきた。高位魔法を学ぶだけあって、全員が自信に満ちた鋭い目をしている。
「よーし、みんな集まったねー!」
クロードが手を叩いて生徒たちを注目させる。
「今日のテーマは『高位結界魔法の多重展開における魔力干渉の制御』。……なんだけど」
クロードはそこで、物憂げな表情になる。
「先生、昨日の夜に『大人の社交場』で、あるレディーと仲良くなってね。今日は彼女の屋敷にお呼ばれしてるんだ」
「は、はい……?」
リゼが嫌な予感に目を見開く。
「というわけで! 僕はどうしても有休を使わなければならない。今日の講義と実技のお手本は、我が校を首席で卒業した期待の新星である、リゼ先生にお願いすることにします。リゼ、君は優秀だから大丈夫! 自分を信じて!」
そういうと、人懐っこい笑顔を全開にして、クロードはご機嫌にスキップしながら演習場を後にした。
「えええええっっっ!?!? ま、丸投げですか!?」
リゼが悲鳴を上げる。
生徒たちは「またか」と見慣れた光景に溜息をついている。
「な、何ていい加減なの……! 先生も、先生の同期も自由奔放すぎます……っ!」
かつて研究室に引きこもって、うたた寝ばかりしていたユノと、目の前で職務放棄していったクロードの姿を重ね合わせ、リゼはこめかみをピキピキとさせながら拳を握りしめた。
「……コホン。すみません、皆さん」
リゼはガバッと振り返り、集まったエリート生徒たちに向き直る。その瞳には、クロード(及びユノ)への怒りの炎がメラメラと灯っていた。
「担当講師が使い物にならないようですので、これより私が講義を進行します。学生だからといって、手加減はしません。——全員、杖を構えなさい!」
「「「は、はいっ!!」」」
リゼの放つ、歴代首席の名に恥じぬ凄まじい魔力の威圧感に、専門学部のエリートたちも思わず背筋を正した。
こうして、リゼの専門学部での初仕事は、一気にスパルタ講義の様相を呈していくのだった。




