第20話 精霊女子会 〜広がる被害について〜
神秘的な光が満ちる精霊界。カフェテラス。
丸テーブル。
——ドン!
紅茶。
——ドドン!!
焼き菓子。
——ドドドン!!!
今回もどこからか調達された高級な焼き菓子と、淹れたての紅茶が並んでいた。
しかし、集まった四精霊たちの表情は、いつになく真剣——というか、面白がり狂っていた。
「はーい、みんな集まったね! 精霊女子会、今回のテーマは、『ユノの無自覚天然人たらしスキルでどこまで被害が広がるか』、みんなで話し合うよー!」
今回も発起人であるシルフィが、水晶をペシペシ叩きながら声を張り上げている。
「被害ってレベルじゃねぇだろ。あいつ、子供の姿になったのをいいことに、やりたい放題じゃねぇか」
イグニスが呆れたようにスコーンを口に放り込んだ。
「本当に……。ここ数日で主の『毒牙』にかかった女性の数、これで一体何人目かしら」
ウンディーネが手帳をめくりながら、ため息交じりに呟く。
「……まずは……あの子」
テラリアがボソッと呟くと、水晶の画面に大浴場で顔を真っ赤にして叫ぶアリアの姿が映し出された。
「あー、これね! 純潔の乙女の裸をバッチリ見ちゃった事件!」
シルフィが他人の不幸で大笑いする。
「これさ、精霊界のルールだったら、責任とって結婚しなきゃいけないレベルじゃない?」
話を盛るシルフィ。別に精霊界にそんなルールはない。
「わかる。人間のルールは知らないけどさ、あのアリアって娘のダメージは尋常じゃねーだろ。将来、責任とって嫁に貰うのが筋ってもんでしょ」
イグニスがシルフィに同調する。『女の敵』と見做されたユノへの当たりがきつい。
「ええ。ですがユノは『あひるさんで遊んでただけ』と言い張るのですから、本当にタチが悪い……」
ウンディーネが冷ややかな目で画面を睨んだ。
「……さらに、これ」
テラリアが画面を切り替えると、今度は顔を真っ赤にしているセシリアの姿が映る。
「出たー! セクシーなお姉さん枠、セシリアちゃん!」
シルフィが机を叩いて大はしゃぎする。
「あんな胸元強調したローブ着てる女に、『お胸おっきいね』って……男の顔のまま言ってたらビンタされてるぞ」
イグニスがツッコミを入れると、一同は大爆笑。
「それだけではありません。見てください、この知的なお姉さんまで……」
ウンディーネがさらに画面を進めると、大図書館のチーフ司書、エレーヌの首に無邪気に抱きつくユノの姿が映し出された。
「ひゃーーーっ! エレーヌお姉様! 大人の色気たっぷりな司書さんのハートまで、完全に掌握しちゃってんじゃん!」
シルフィが空中でローリングする。
「『お姉ちゃん大好き!』って、あの抱きつき方は絶対計算だって! 中身32歳だよ!?」
「……いや……ユノ、あれ無自覚」
テラリアが冷静にツッコミを入れる。
「……無自覚だから……一番タチが悪い……天然物の人たらし」
「間違いないわね。8歳の見た目と大賢者の頭脳スペックを無意識にハイブリッドさせてやがる。全方位の女を落としにかかってやがるぞ、あの男」
イグニスも半ば感心したようにため息をついた。
そして、画面のカメラがすっと引くと——大図書館の入り口で、プリントを落としながら完全に目が据わっているリゼの姿がアップになった。
「「「「おおう……」」」」
四精霊の間に、一瞬の静寂と、引きつった笑いが広がる。
「リゼちゃんのフラストレーション、もうMAXだねぇ……」
シルフィがゴクリと唾を呑む。
「リゼ様にとっては、自分だけのものだと思っていた可愛い可愛いユノが、学校に来た途端、アリア、セシリア、エレーヌ、おまけに大図書館の女子生徒たちにまでちやほやされて……。嫉妬の炎で王都が燃え落ちかねません」
ウンディーネがクスクスと愉しげに笑う。
「まあ、カフェでのファンサ※もあったけどな。あれもリゼ担ぐために無自覚でやってたとしたら、もう才能というか、神がかってるわ」
イグニスが素直に感心する。
「……リゼ、がんばれ。……負けるな、正妻(仮)」
テラリアがボソッとエールを送る。
「いやー、でもさ! 他人の修羅場って、どうしてこんなに面白いのかなー!?」
シルフィが再び大爆笑しながら紅茶をおかわりする。
「まったくだ。ユノがこの先、どうやってこの女たちの包囲網を回避するのか、見ものだな」
イグニスもニヤニヤと悪い笑みを浮かべた。
リゼのジェラシーが爆発寸前なことも露知らず、現実世界でクッキーを食べているユノ。
精霊たちは、その破滅へと向かう(?)微笑ましい日常を、これ以上ないほど満喫しているのであった。
今日も精霊界は、とても平和で悪趣味でした。
※ファンサ
ファンサービス。あーんのこと。




