第13話 宿命のライバル
「オーッホッホッホ!」
講義を終え、ユノを連れて校舎の廊下を歩いていたリゼの前に、これ以上ないほど分かりやすい高飛車な高笑いが響き渡った。
「風の噂に聞いたと思えば、本当に我が校の教壇に立っていますのね。私の宿命のライバル、リゼ・アンブレスト!」
コツ、コツ、と大理石の床を気高く鳴らし、いかにも「自信があります」という歩き方で近づいてくる女性。
すらりとした見事な長身に、抜群のプロポーション。それを包むのは、胸元をこれでもかと大胆に強調した最高級の特注シルクローブだ。
風魔法の名門レインヴェルト家の令嬢であり、リゼの学生時代の同級生——セシリア・レインヴェルトだった。
「う……セ、セシリア……!?」
リゼは思わず一歩身を引いた。
彼女は現在、この学校で正規の教師を務めており、その美貌と確かな実力から男女問わず生徒間に凄まじい人気を誇っている。
そして何より、リゼにとっては昔から、一方的にライバル視してくる少し苦手な相手でもあった。
「……相変わらず地味なローブですこと。リゼ、せっかく首席で本校を卒業したというのに、今はしがない臨時講師ですの?」
セシリアはふさふさの金髪をかき上げ、昔と変わらない高慢な笑みを浮かべる。
当時、学園祭のミスコンを連覇し、社交界でも華やかに立ち回っていたセシリア。
だが、魔法の成績だけは、どうしてもリゼに勝てなかった。
さらに、お堅い教授のおじさん方に、なぜか実直なリゼが「底堅い人気」を誇っていたことも、彼女にとっては非常に面白くなかった。
「お久しぶりです、セシリア。相変わらずお元気そうで何よりです……」
「あら、随分と余裕な態度ですわね。私のライバル、リゼ。そのすまし顔を今度こそ私の魔法で青ざめさせてあげますわ!」
ツンとそっぽを向くセシリア。
相変わらず高飛車で、その上やけに突っかかってくるが、これはいつものこと。そして、リゼには分かっていた。セシリアは嫌がらせをしているのではない。
不器用なだけで、心の底ではリゼの実力を誰よりも認めているのだ。
だからこそ、憎めない——けど、圧がすごくてやっぱり少し苦手だった。
「ねえ、リゼ。このお胸のおっきいお姉ちゃん、だれ?」
その時、リゼの背後から、純粋無垢な8歳児の声が響いた。
セシリアの服装の「一番目立つ部分」を素直に指摘したユノが、小首を傾げてセシリアを見上げている。
「な……っ!」
さしものセシリアも、ド直球な子供の言葉に顔を真っ赤にして取り乱した。
「先生! ……あ、コホン。セシリア、この子は私の弟のユウくんです。事情があって、しばらく一緒に学校に滞在することになっていて——」
学長がユノの正体を公言しないと約束してくれたため、学校側には「リゼの弟」という設定で通している。
「あ、あなたに弟なんていましたの? 随分と生意気で……でも、妙に整った顔立ちをしてますわね」
セシリアは胸元を隠すように腕を組み、ユノをじっと見つめた。
「……というか、その顔。私が敬愛するクロード様の悪友にそっくりな気が……」
(ひゃっ、ここでもバレそうに……!?)
リゼが内心で冷や汗を流していると、ユノはセシリアの高級なローブの裾をトントン、と叩いた。そして、潤んだ瞳でセシリアを見上げる。
「ボク、本当のこと言っただけだもん。お姉ちゃん、すっごく綺麗だし、お胸もおっきいね!」
にこっ、と天使の笑顔を向けるユノ。
「なっ、なななな……っ! なんですの! その破壊力の高い笑顔は……!」
セシリアは完全に動揺し、顔を耳まで真っ赤にして身悶えした。
男女にモテモテの敏腕教師も、無慈悲に発動されるユノの「天然人たらしスキル」の前には無力だったらしい。
「セシリア、ごめんなさい。私の弟が……」
「もうっ! この私を誰だとお思いですの?! リゼ! 弟はあなたが責任もって教育なさい!! あ、あら、もうこんな時間ですの? 次の講義は私の受け持ちでしたわね。リゼ、それではごきげんよう! オーッホッホッホ……っ!」
セシリアは最後だけ無理に高笑いを作り、半ば逃げ出すようにそそくさと廊下の奥へと去っていった。
「ふぅ……。先生、初対面の女性の胸元を指差すのはやめてください。心臓に悪いです……」
「えー? でも頭の中で精霊のお姉ちゃんたちが、楽しそうに騒いでたよ?」
ユノが困ったように頭を掻く。
どうやらセクシーなお姉さんキャラの登場に、精霊女子たちが盛り上がっていたようだ。
(四精霊の皆様、お願いですから、先生に余計なことを吹き込まないでください……!)
リゼは天を仰ぎながら、今後の学園生活がさらに波乱に満ちたものになる予感に、小さくため息をつくのだった。




