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大賢者ユノと弟子のリゼ  作者: グランチャイルド
第1章 魔法学校編
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第12話 新米教師リゼ

 翌日。


 基礎学部の広大な演習場には、格式あるローブをまとった百人近い生徒たちが整列していた。

 

「それでは講義を始めます。今週から臨時で『基礎訓練演習』を担当することになりました、リゼ・アンブレストです。よろしくお願いします」

 

 リゼはガチガチに緊張しながらも、魔法学校を首席で卒業したプライドと、昨日ユノからもらった言葉を胸に、キリッとした声を響かせる。


  

 ——ちなみに、二人の寝泊まりについてだが。

 

 さすがに、かつて大人の男だったユノの研究室に、妙齢の女性であるリゼが寝泊まりするという、あのハプニングだらけの状況を見かねた学長秘書により、特例が認められていた。

 

 二人は特別に『女子寮』の最上階にある空き部屋を使うことになったのだ。

 もちろんユノは男の子だが、防犯と管理の都合上、やむなくリゼの部屋のすぐ隣にユノの部屋を用意してもらった形である。

 

 これにより、昨日のような押し倒されハプニングは回避できたが、少し寂しい気もするリゼであった。

 

 

 演習場。集まった生徒たちの最前列、リゼのすぐ目の前には、ユノがちょこんと丸椅子に腰掛けている。

 

「リゼ先生、がんばれーっ!」

 

 ユノが小さな両手をメガホンのようにして、無邪気に声援を送ってくる。

 

「……ユウくん、静かに。授業中です」

 

 リゼは顔を赤くしながらも、コホンと咳払いをして授業を再開した。

 

「今日のテーマは、魔力放出の効率化です。最小魔力を最大出力に高効率で変換する基本理論を学んでいきます」

 

 さすがは首席卒業生。リゼの教え方は的確で分かりやすかった。

 

 座学から実技へと移り、生徒たちが次々と標的(ダミー人形)に向けて《 ファイアボール 》や《 ウィンドカッター 》を放ち始める。

 

 リゼはその間を回りながら、一人一人のフォームや魔力経路を丁寧に修正していく。

 

「あの先生、めっちゃ教えるの上手くない?」

 

「しかも美人だし、最高かよ……」

 

 リゼが男子生徒から注目を集め出した、その時だった。

 

「——ふん。臨時講師なんていうからどんな凄腕が来るのかと思えば、ただの卒業生のお姉ちゃんじゃない。お勉強が少しくらいできたところで、実戦じゃなんの役にも立たないんだから」

 

 演習場の真ん中から、挑発的な声が響いた。

 

 振り返ると、そこには基礎学部の生徒たちの間を割って進み出る、一人の生意気そうな少女が立っていた。

 

 基礎学部の『戦闘魔導術』でトップの成績を誇る首席候補生、アリアだ。

 

 彼女は実力があるゆえに、若いリゼが講師としてやってきたことが気に入らないらしい。

 

「失礼だけど、その程度のぬるい指導じゃ、つまらないわ。……どう? 私とここで、模擬戦デュエルしてくれないかしら?」

 

 アリアが好戦的な笑みを浮かべ、魔導杖をリゼに突きつける。

 

 周囲の生徒たちが「おい、アリアが先生に喧嘩売ったぞ……!」とざわつき始めた。

 

「……いいでしょう。そこまで言うなら、実戦における魔力制御がどういうものか、少しお見せします」

 

 リゼは静かに杖を構えた。講師としての威厳を示すためにも、ここは退けない。

 

 アリアがにやりと笑う。

 

 だが、その瞬間。リゼの前を遮るように、てちてちと小さな影が歩み出てきた。

 

「ダメだよ! リゼに意地悪しちゃダメ!」

 

 ユノだった。ユノはアリアの前に立ちはだかり、ぷくーっと両頬を膨らませて怒っている。

 

「な、何よこのガキは……。引っ込んでなさい、危ないでしょ」

 

「嫌だ! ボクがリゼの代わりに、お姉ちゃんと勝負するもん!」

 

「ユウくん!?」

 

 リゼは慌ててユノを止めようとしたが、アリアはフッと鼻で笑った。

 

「ははっ、面白いじゃない。じゃあボク、あなたの魔法を私に当ててごらんなさい。一歩も動かずに防いでみせるから」

 

「……お姉ちゃん、後悔しても知らないよ?」

 

 ユノの瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、大賢者の片鱗がギラリと光る。

 

(ま、まずい……! もし先生がまた覚醒してしまったら、この演習場ごとアリアさんが消滅する……!!)

 

「ゆ、ユウくん! そこまでです! 私の授業ですから、私に任せてください!」

 

 リゼは全力でユノの胴体を後ろから抱きかかえ、そのまま強制的に引き剥がした。

 

「えぇーっ! ボク、リゼのために頑張ろうとしたのにー!」

 

 リゼの腕の中で、ユノが足をバタバタさせて不満を訴える。その可愛らしさに、張り詰めていた演習場の空気が微笑ましいものに変わってしまった。

 

「な、何なのよこれ……」

 

 当のアリアもすっかり気勢をそがれ、杖を下ろしてしまった。

 

「コホン。……アリアさん、模擬戦はまた次の機会に。さあ、皆さん練習を続けてください!」

 

 リゼは腕の中の小さな大賢者をぎゅっと抱きしめながら、内心で激しく安堵していた。


(ふぅ……さすがに肝を冷やしました……アリアさん、この世には、絶対に喧嘩を売ってはいけない人がいるのです……)


 

 こうして、新米講師リゼの最初の講義は、思わぬ事態に発展したものの、一人の死傷者も出さずにどうにか幕を閉じた。

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