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精神科任意入院-閉鎖病棟-

過食の呪いは根強い。


主治医、産業医、カウンセラー

誰もが同じことを言う。


「食以外の別の趣味を持ちましょう」


そんなこと痛いほど理解している。


『成長依存性』は伊達じゃない。


定期的な血液検査の結果は瞬く間に悪化していった。


家族も私も覚悟は出来ていた。


「入院しましょう。」


かつて泣いて病院を変えるほど嫌がっていた入院を受け入れた。


これは成長なのか諦めなのか悪化なのか…。


その日の夕方、準備は整った。


事務的な説明を受け、サインをする。


「閉鎖病棟になりますので持ち物検査を行います。あとスマートフォンはこちらで預かりになります。」


(閉鎖病棟…?)


(それってテレビで見るようなあれ…?)


一気に不安が押し寄せる。


着替えなどの入ったバックを持ち、病棟に入ると鍵がかけられた。


廊下を俯いて永遠と歩いてる人がいる。

印象は怖かった。


部屋に案内され、一通りの説明を受ける。


カミソリなどの刃物やベルト類は預かられ、私のズボンの紐まで取られた。


私はとりあえず一通り端から端まで探検した。


明るい、そして静か。


テレビで見るような殺伐とした雰囲気は全くない。


ロビーにはおじいちゃんがテレビで野球を見て、おばあちゃんが雑誌を読んでいる。


(何だこの平和な空間は…)


こうして私の入院生活が始まった。


スマホ依存性の私は、スマホ無しの生活はかなりの苦痛だった。


自然と私は俯いて廊下を行き来する人になっていた。


(あれ…これって同じ…)


何度目かの往復、ロビーに人がいた。


私は閉鎖病棟の人と会話出来るか不安に思いながら声をかけた。


「昨日入院したものなんですけど…、何も分からなくて、色々教えて貰えませんか?」


「いいですよ」


驚くほど会話が弾んだ。


そして、すぐに打ち解けて私と漫才のコンビのような関係になった。


夕食後から消灯まで数時間がある。


この時間に散歩する人がかなりいる。


しかし、ロビーで楽しく談笑する私たちを見て会話に入りたがりそうな人がいた。


私はどうぞと会話に入れる。


すぐに打ち解け、トリオ漫才師となった。


次第に仲間は増えていき、殺伐としたロビーはまるで、修学旅行の夜のような賑わいになった。


私は雑談を名目に情報収集をした。


個人的な興味ではあったが、入院に至った経緯など聴く、それが唯一の娯楽だった。


私は全部屋に誰がいるかまで把握し、顔を合わせれば挨拶をする程度まで、コミュニティを広げた。


しかし、親や主治医に言いくるめられて入ってきた任意入院の人は、あっという間に退院していくことが多い。


そして、すぐに人が入ってくる。

閉鎖病棟は大人気スポットらしい。


あとわかったことは女性が圧倒的に多い。

そして女性の8割は腕に傷があり、ODを経験している。


私も傷はあるが、目の前に座っている少女は信じられない傷跡を残していた。


「やばいねこれ、痛かったでしょ!?」


「ケロイドね。よく言われる!」


傷跡の事を"ケロイド"と言うのか…。


『私は傷痕を"ケロイド"と呼ぶようになった!』


感心していると男性が来た。


この人は永遠と私にどうしたら退院できますかね?と聞いてくる。


(あぁ、また同じこと言わなきゃいけないのかぁ…。)


と思っていたが、彼から発せられたのは予想外の言葉だった。


「そっちの子の傷はなんか本物っぽくて、新人さんの傷は遊びみたいですね」


椅子から転げ落ちそうになった。


「あはは…まぁ傷の深さが心の傷の深さと比例はしてないですしねぇ…。あんまりそういうの比べない方がいいですよ。」


「新人さん、俺はどうしたら退院出来ますかね?」


(聞いちゃいねぇ…!)


「主治医に回復してると判断してもらうことじゃないですかね?例えば生活のリズムが整うとか。メンタルが安定するとか。今困ってることはある?」


「……。」


彼は黙って去っていった。


男性は会話のキャッチボールが苦手な人が非常に多かった。


『私は"会話のドッヂボール"が出来るようになった!』


次に来たのはまた若い女性だ。

愚痴をよく言いに来る。


「もうやだ!推しに会えないのつらすぎ!はぁー…パキりたい!彼氏と電話したい!」


(何言ってんだ、推しはアイドルとかじゃないのか?そんな気軽に会えるのか?そもそも彼氏がいるのに推しに会うのか?パキるってなんだ?!)


メガネで大人しそうで清楚なイメージとはかけ離れた言動である。


「……あーね、辛いよね。そのさ、よく言ってるパキるって何?」


「ODして気分がアガることだよぉ。」


「へぇ、でも処方される薬で足りるの?」


「市販薬だよぉ。風邪薬だとこうで…この薬はこうなる…」


『私は"パキるスキル"を学んだ!』


「因みに推しってどこで知り合うの?」


「過疎配信者!ちょっとおだてればちょろいんだよぉ!ODする薬も買ってくれるの!因みにキープもいる!」


「推し、彼氏、キープ…凄いね…(貞操観念が)」


この少女との会話で社会の闇の全て明かされている気がした…。


おちゃらけた彼女は真剣な顔になる。


「でもね…未遂で『胃洗浄』になったときは、本気で苦しいから…」


誰が彼女をここまでさせたのか

彼女の闇の根源が非常に興味深かったが

興味半分でたち言ってはいけないと判断した。


次に来たのは奥様。


とても感じがよく親しくしてくれる。


しかし、私は心の準備が必要だった。


彼女は躁病といって、テンションがひたすら上がり続ける病気だ。


会話が弾むとマシンガントークと言うにはあまりにも弱い、ガトリングトークが炸裂する。


私は1度経験して学んだ。


目まぐるしい話題展開は何話も紙芝居を倍速で聞かせれるようだった。


自分語りだけなら聞き流せばいいが、時々感想や意見を求められる時があるので必死に追いつかなければならない。


おそらくこの改造スポーツカーについていけるのは、この病棟で私だけなのだろう。


『私は"高速相槌"のスキルを身につけた。』


「ちょっとトイレに…」


なんて便利な言葉なんだろう…。


個性豊かな閉鎖病棟。


私は今夜もみんなのそれぞれの深い話を聴かせてもらった。


何故ODをするのか?

それは暇だから。


何故自傷をするのか?

それは彼氏に見てもらいたいから。


私が求めてるのはその先だった。


なぜODが快楽、娯楽に至ったのか。


なぜ彼氏に構ってもらわなきゃいけない価値観になったのか。


なにかに依存するようになった経緯は。


疑問は絶えなかったが追求はしなかった。


深掘りし過ぎて、訳ありな家庭環境や過去のトラウマを呼び覚ましてしまってはいけない。


みんな自衛のためにはぐらかすのか、それとも本当に分かっていないのか。


真意は謎のままにした。


今夜はババ抜きをすることになった。


続々と上がるみんな、

私と男性の1対1になった。


私は2枚、彼は4枚。

1つペアが出来ればあがれる。


私はここからが強い。


「あなたは5を持ってますね?今目線をやったそれが5ですね?」


「ももももってないですよ」


分かりやすい、揺さぶるとすぐに顔や態度に出るタイプだ。


「あれ?これ揃ってるよ?」


既に上がった人が彼の手札を見て言う。


(待てよ……私が2枚……彼が4枚……数が合わない……まさか!?)


彼の手札では2つのペアが成立していた。


私は2枚のカードを残して敗北した。


(どういうこと?なんで……?)


私は山札を漁った。


ペアのカードが掘り返されていく中で明らかに違うペアが混じっている。


更にジョーカーは11と一緒に捨てられていた。


最初から彼のペースだったらしい、私は完全に掌で踊らされていた。


ルール書き換え、概念上書き系のチート能力者だった。


私はチート能力者とのカードバトルと

ガトリングトークで疲弊してしまったらしい。


机に伏せてぐったりする私に隣の子が心配してくれる。


「大丈夫?もう『寝逃げ』しな。」


「ありがと。」


(寝逃げ……?そういう言い方するんだ。)


『私は寝逃げスキルを手に入れた!』



数日後、主治医から『作業療法』の提案が来る。


「なんですかそれ」


「作業でする療法です」


「いや、そのまんまですやん」


「行きますか?」


「うーん…」


「最後にコーヒー飲めます」


「行きます」


別部屋、多くの人たちが集まっている。


閉鎖病棟組が角の大きなテーブルに集まっている。


私は手を振り微笑む。


しかし、テーブルも人ももっとたくさん。


年齢層も幅広い。


(別の病棟の人達かな?)


私は作業療法士さん?に一通りの説明を受ける。


プラモデル、編み物、パズル、透明なやつあっためて型に詰めるやつ。


どれをやってもここで完成させればタダで持ち帰れる。


宝の山だ。

だか私はコピー用紙とペンだけ貸してもらった。



壁側にある塗り絵の本の取り、イツメンとは少し離れた場所に座る。


私はキャラクターの模写を始めた。


昔から絵は好きでたまに書いていた。


数日後、私は飽きていた。


イツメンの環に入る。


隣の女子が毛糸とプラスチックの針と格闘している。


「なにしてんの」


「絡まっちゃって!」


「貸して」


見てられなかった。

毛糸を解くと通す穴の順番も違う。

玉留めもできておらず引っこ抜ける。


「全部やり直しだよこれ」


「えぇ!?」


「次そこ、違う、まつり縫い、はい玉留め…出来ない!?じゃあ私がやるから」


私の作業療法の時間は、彼女の編み物サポートをする任務を請け負った。


昼は作業療法士、夜はカウンセラー


私はともだち達に囲まれて満足だった。


私は唯一相談できる4.50代程のおっちゃんに、何気なく編み物の愚痴を話していた。


「これじゃあ誰が作ったかわかんないですよね」


「そっかぁ、そんなことがあったんか」


おっちゃんは真剣な眼差しになる。


「いいか…よく聞け。」


「あんまり深くなり過ぎるなよ。自分が壊れるぞ。」


よく意味がわからなかった。

意味深な言葉を残して部屋へ戻って行った。


その意味が少しずつ理解し始めた。

その時には手遅れになっていた。


病院内には私が把握していない症状の人がいる。

距離感のバグ、愛着障害、心の拠り所を求める人。


冗談が冗談に聞こえない。笑えない。

私を見る目が次第に変わっていく。


あそこは安全な場所のはずだった。


でも、そうじゃないと知った瞬間、

逃げるしかなかった。


私は看護師に泣きついた。


「今すぐ…退院したい…です…」


荷造りは済ませてある。


私はその日のうちに誰にも挨拶をせず、理由も告げず逃げるように退院した。


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