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精神科ツアー

これは、私が10年間『チートメンタル』と呼んでいた防壁が、音もなく崩れ始めた瞬間だった。


朝起きたら体が動かない。

気持ちは不安と焦燥感。

体は激しい動悸と息苦しさ。


(会社に電話しなきゃ…)


スマホを探すが何かがおかしい。


(小さい?)


違う。全てが遠くにあるように見える。

自分の手、壁、扉、カラーボックス。

全てが遠くに見え、僅かに歪んで見える。


遠くにあるのに手を伸ばせば届く。

気付くと謎の涙が流れ出す。

私は何が悲しい?何が起きてる?

何が起きてるのかさっぱりわからない。


10年働いてきてアルハラ、パワハラ、ロジハラ、あらゆるハラスメントをも無効にする『チートメンタル』の私が初めて無断欠勤をした。


フリーズした脳みそをフル回転して

自分の症状をネットで検索する。


聞いたことはあるが自分には無縁だと思っていた病気が羅列される。


(鬱病…?統合失調症…?双極性障害…?)


私の自論だが、精神病は己の打たれ弱さとストレス発散の仕方を知らない物のなる病気という認識。


不満や理不尽は全て趣味や捉え方で打ち消せる。

今までそうしてきた。

原因があればそれを解決するか逃げればいい。


喧嘩した場合、感情論を限りなく除き原因と対策を論理的に話し合う。


意見の対立にはメリットとデメリットを羅列する。

あなたの意見はこんないいところがあるけど〜

とやんわり否定してあげると角が立たない。


上司が苦手なら数年で異動するから我慢すればいい。


資料のガン詰め、理不尽な罵倒、執拗なミスの指摘、体罰は(こいつは私に勝てない、私はお前が持ってないものが山ほどある)という解釈と仕事終わりの趣味で乗り切っていた。


困難に出くわした時は理屈っぽくなるタイプだ。

だからこそ今のメンタルに理由をつけずにはいられなかった。


会社からの電話が鳴り続ける。

私の中でなぜ?が答えられないと会社に報告出来なかった。


考えるのをやめて寝ることにした。


体の不調は1日ぐっすり寝れば治る。

治らなければもう1日寝ればいい。


メンタルの不調は動けるようになったら趣味で打ち消せばいい。


しかし眠れない。

好きだったゲームや動画を見ても音楽を聞いても何も楽しくない。

むしろ悲しくなって涙が出る。

また、なぜだ?という思考に陥る。

答えが出ず自己嫌悪に陥る。

もうだめだ。


次の日、私は病院に行く決心がついた。


私は会社の電話を無視し、周辺の精神科を片っ端から調べてすぐに向かった。


受付でなんていえば?

どんな診察をうけるか?

受け答えできるだろうか?


そんな不安を胸に病院へ向かった。

病院は少し古びており、受付が2人いた。

私はイメトレ通りには行かなかったが簡潔に伝えた。


「苦しいんです…身体と気持ちが重いです…」


上手く言えた!…しかし返答は残酷だった。


「予約はされてますか?初診は予約が必須になります。」


「えっ……?じゃ、じゃあ予約をここで…」


「今予約されると3週間後が最短になります」


「そんな…苦しくて辛いんです…」


「皆さんも、そのルールで…」


それ以降の言葉は覚えていない。

私は帰路で涙が溢れた。


熱があります。と内科に行く感覚だった。

いや内科でも予約が必須なのかもしれない。

健康すぎて病院のルールが分からなかった。


私は目に入る精神科病院に片っ端から電話した。


「初診なんですが…」


どこも予約がいっぱいだった。


3.4ヶ所かけてようやく予約が取れる場所を見つけた。

少し離れてるが車で行ける。


次の日、家族に運転してもらい、病院へ着いた。

問診票を書いて、予約した時間から1時間後、呼ばれた。


「ふぅん、で、どうしたの?」


「突然、動けなくなって、涙も出てネットで調べたら精神病の疑いがあると…」


「問診票に書いてあるねぇ」


「心当たりは?」


「分かりません…」


「わかんないんじゃこっちもわかんないよ、まぁ薬出しとくから。」


頭が真っ白になった。


これが精神科医なのか?

何だこの高圧的な態度、雑な問診…


「あ、あの!私は病気なんでしょうか?」


「抑うつ状態。それか自律神経失調症。じゃあ次の予約は…」


(抑うつってなんだ?鬱を抑制?どういう意味だ?うつ病と違うのか?状態ってなんだ?何を根拠に?どう対処すれば?何に気をつけて生活すれば?どんな薬なの?どんな効果なの?自律神経失調症ってなんだ?自律神経ってなんだ?なんで断定出来ないんだ?なんでだ?なんでた?)


「あ…あ…」


疑問が浮かびすぎて言葉が出ない。


気付いたら家にいた。


とりあえず、病名?がついたので会社に報告する。


「連絡遅くなって申し訳ありません。体調不良のためしばらく休暇をいたたきたいです。精神科から抑うつ状態と診断されました。」


「そうか。病気休暇を申請しておく。次の診察の時、診断書を貰って送って欲しい。今はゆっくり休んで無理をしないように。」


上司は理由も聞かず、事務的な事も含めつつ、心配の言葉をかけてくれた。


次の診察まで私は錯乱する思考の中、1つの原因を見つけた。

私はその事をメモにして全て見せた。


「ネットやテレビを見ます。そこには私の上位互換で溢れてる。見る度に劣等感を感じるようになった。でも今までそいつらは特定の分野に長けてるだけで、私は浅く広く多くの知識や技術を持っており、奴らよりも人生を楽しんでいる。そんな思考で今まで乗り越えてきた。何故か今は比べて涙してしまう。」


返ってきた言葉は単純だった。


「あのねぇ、SNSとか見ちゃダメだからね。薬増やしとくから。」


次の予約を取り診察は終わった。


(なんだそれ……)


歯医者が虫歯になるから食べ物食べないようにねと言ってるようだ…。


火事です!助けて!と消防車を呼んだら消化器増やしときますね。と置いて帰られたような気分だ。


それから何度目かの通院。


「何をしても楽しくないです…。」


「あなたねぇ、入院しなきゃダメだよ、絶対良くならない」


「えっ……?」


「自分でコントロール出来ないならそうするしかないんだよ」


「入院は嫌です……」


私は涙ながらに訴えました。


「なら別の病院いってください!」


実際はもっとたくさん言葉があっただろうけど全て耳に入らなかった。


「紹介状書いとくから」


(紹介状ってなんだ?私は次どこへ行くの?)


受付で泣きながら今後の事を確認する。


病院を見つけろ、書類を渡せ。


それだけ理解できた。

ここの医師は上級者向けコースだったのかもしれない。


私は次の病院に電話で紹介状があります。と伝えるとすぐ予約が取れた。


次の病院、それはメンタルクリニックと書いてあった。


後日、予約当日、名前が呼ばれ診察が始まる。


医師の第一声。


「で、何の薬が欲しいの?」


「……は?」


意味不明だった。


「それを判断するのは医者なのでは?」


「じゃあ、どうしたの?」


医師はPCから目を離さず、私と目も合わさない。


「えっと気持ちが沈んでます…なぜなら…こうで…」


「次の人待ってるから短めにお願いね」


「えっ……?」


思考が停止した。


「あなたはカウンセリング受けた方がいいかもね。」


「はぁ……」


私はパニックになりながらカウンセリングを予約した。

受付でカウンセリングの説明用紙をもらいモヤモヤを残しつつ帰宅した。


カウンセリング当日、診察室とは別の部屋に通された。


女性が部屋に入り挨拶をし対面に座る。


お試しで40分、しかし保険適用外でそこそこの値段だ。


私は思っていることを全て話した。

全て話し終えた段階で時間切れになった。


次の予約をした。


カウンセリング2回目。


カウンセラーは質問と相槌を繰り返す。


「その時あなたはどう思ったの?」


「どうすればいいと思う?」


「それは辛かったね。」


私は違和感を感じた。

この人…共感と感想を求めるだけだ…。


私は3回目のカウンセリングで問いかけた。


「ここは何をする場所ですか?」


「悩みを話す場所です。」


「私は"問題"に対する"答え"を求めてます。」


「ここは悩みを話して考えを一緒に整理する場所です。」


「では答えは出してくれないのですか?」


「会話をしながら答えは自分で見つける。そのための手伝いをするのがカウンセラーです。アドバイス程度なら出来ますが…」


最初に聞くべきだった。

決して安くないカウンセリング、意味の無い診察。

ここに通っても回復は見込めないと判断した。

ここの医師は薬の自動販売機。

カウンセラーは言葉の鏡のようだった。


私は最寄りのメンタルクリニックに転院した。


そこは綺麗で待ち時間も短い。

受付も対応がよく診察室も広く気持ちがいい。


医師は全て話を聞いてくれた。

そして、本を取り出しコピーをとる。

心理学的な観点、精神病としての観点

ふたつの視点を本のページを見せながら

根拠を明確に分かりやすく説明してくれる。


「自分への怒り、怒りとは2次的な感情である。悲しみや期待の裏切りから発生する。そこを解消させる。あなたの悲しみは…」


こんな医者がいるのかと感動した。

私はずっとこの先生について行くと決めた。


しかし、ある日突然終わりを告げられた。


「あなたは発達障害の疑いがある。もっと大きな病院で検査した方がいい。あと本当は自傷癖のある人はここには通えないんだからね。」


この先生は全て正論で何も言い返す言葉が見つからなかった。


私は全身全霊心を込めたありがとうございましたを告げ、病院を後にした。


ここは一筋の光を見つけたと思ったらすぐ消えてしまう、まるで流れ星のようだった。


次の病院は心療内科。

入院施設、購買、レクリエーション施設?のようなものもありとても大きい。


ここでようやくあることに気づいた。

精神科、メンタルクリニック、心療内科…

何が違うんだろ?


調べると規模の違い?病床の数?くらいしかよく分からなかった。

精神科は精神病専門。心療内科はストレスによる身体の不調。メンクリは気軽に行ける精神的な症状を診る場所。


調べれば調べるほどわからない。


とりあえず、新しい病院で診察を受けた。


話は真剣に聞いてくれた。

しかし回答は事務的だった。

まぁその通りだよね、わかるみたいな感じ。


辛いです→発散させましょう→趣味が楽しくない→新しい趣味を見つけましょう。


淡々と診察は終わった。


受付で発達障害の検査?を予約することになった。


「大変混みあってまして最短で9ヶ月待ちになります」


(9ヶ月待ち…?は…?)


高圧的な医師、無関心すぎる医師、光の医師からの追放…。

精神的におかしくなりそうだった。

正確にはおかしくなってるので悪化しそうが正しいのかもしれない。


私が最後に行き着いたツアーは大人気コンテンツで9ヶ月待ちだった。


通う病院、処方される薬、診断される病名、それは目まぐるしく変わっていた。


まるで合わない服を何枚も着せられているような気分だった。


それでも私は病院の予約票を握りしめ、また歩き始めた。

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