勇者パーティが割と勇者パーティじゃなかった件
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「問題は魔素の回復よね」
食事をしながら、あたしは静かに口を開いた。
「結婚はした。なのに魔素は増えてない」
「……キスが足りなかったとか」
「まだ言うかあんたは」
睨んで凄むと、オズワルドはさりげなく目を逸らした。
色々考えてみたが、そもそも魔素がよくわからないあたしでは頭を捻ったところで、思考もまとまらない。
いや、そもそもの話。
「ていうかさ、あたしなんで魔界に来れてんの?」
ユウリエは人間。魔素は猛毒のはずなのに、なぜかあたしは普通に魔界で生活できてる。
オズワルドは意外そうに首を捻って、それから当然のことのように言い返してきた。
「何言ってる。オマエは《花嫁》なんだから、魔素に適性があって当たり前だろ」
「えっごめんそうなの?」
「逆にいえば、何の結界も帯びずこの魔界で生活できるという事実そのものが、妃殿下が陛下の花嫁であることを明確にさし示しています」
「つまり、魔素への耐性……いえ、適性は、魔王の《花嫁》にしかない。逆にいえば、適性があれば花嫁で間違いない――そういうこと?」
オズワルドとアシュヒトさんが頷いて、不可解ながらもあたしは納得せざるを得なかった。
そうか……ユウリエに選択肢はなかったんだ。最初から。だって、魔素への適性が認められた以上、ユウリエにはいずれ、オズワルドへの輿入れが決まる。
「先代の魔王は、あたしみたいに魔素に適性を持つ人を見つけられなかった……?」
「だからこそ、大規模な人間界への侵攻を開始したんだ。草の根を分けてでも自分の花嫁を探し出さないと、魔界の魔素はどんどん枯渇していくからな」
オズワルドはスープを口にしながらそう付け加えた。なるほど、それはユウリエの記憶にもある。
ユウリエが生まれる数年前から始まった魔界からの侵略。呪いの如く、村人が消え、砂像ばかりが立ち並ぶ異様な村がいくつも発見された。
ルクラディック王国の王立魔術研究院は、砂像の正体は魔素に蝕まれた人間のなれ果てと断定。事態を重く見たルクラディック王国とその周辺諸国は、世界中から優秀な冒険者を募った。
勇者パーティは魔界に乗り込み、魔王を討った。
その功績で、全員が人間界で最高クラスの地位を手に入れた。
「確か魔界に赴いた勇者パーティは、その結界によって身を守りながら魔王と戦って、勝った……のよね」
「――いや、正確にはそうじゃない」
オズワルドは苦々しく顔を顰める。
「先代は直前までオレと戦っていた。オレに倒され弱体化した魔王を、たまたま勇者パーティが発見し、襲った。先代はそれによって斃れたが、すでに後継者となっていたオレは即座に後を引き継いで、即位した」
「えっとつまり……」
「簡単にいえば、勇者パーティはオレと先代の世代交代を手伝っただけ……と言うことになるな」
それが本当だとしたら相当可哀想な展開よ勇者パーティ。
「……かなりの死闘だったって、カリオン……お父様からは聞いてるけど」
「老いたりとはいえ魔王様は魔王様であらせられます。陛下が直前に徹底的に叩いて、あとはとどめだけ、という状況にしておられなければ、不意を狙ったところで人間が先代魔王様を斃すことなど、不可能ではないかと」
うわぁ、何これ本当可哀想すぎるわよ勇者パーティ。
――いや。
これはまさか。もしかして。
「……勇者パーティは、そのことを知ってたのね? 魔王にはすでに後継者がいること」
「知ったのは、奴らがすでに魔王討伐の功を讃えられ、人間界でそれ相応の地位と名誉を得た、その後だったけどな」
――なるほどね、だいたい察したわ。
カリオンをはじめとした勇者パーティは、事実はどうあれ魔王討伐の功を讃えられ、人間界へ帰還後地位を得た。
どれもこれも、世界最高峰の名誉と地位だ。一度得れば、事実を知られて地位と名誉を奪われるダメージは計り知れない。
しかも先代魔王の人間界侵攻の目的は、花嫁の確保。魔界維持のため、次の魔王が即位したら、また花嫁探しが始まる。
カリオンたちは思ったのだろう。「今度は次期魔王であるオズワルドに花嫁が見つからなければ、今まで以上に甚大な被害が出るかもしれない」――と。
勇者パーティの利害と、オズワルドの利害が一致した。そして、オズワルドの求めに応じ、カリオンの娘が差し出された。
それがあたし。いえ、あたしがやってくる前のユウリエだったのだ。




