腹が減ったら旦那の教育はできない
7
――翌朝。
すまん、としょげた大型犬が謝った。
見た目はワイルドイケメンのくせに、まとう空気は完全に我を忘れてどろんこ遊びをやらかしたあと、怒り心頭の飼い主と目が合った大型犬のそれだ。
昨日のキス騒動のあと、食堂の隅でのの字書いてたと思ったら、あたしと目が合った瞬間正座して謝ってきた。
あたしはため息をつき、それからうめいた。
手に竹刀を握りながら。
「……怒ってないわよ」
「だったらそのシナイとかいうの片付けてもらっていいか!!?」
「うっさいわね待てもできないなら躾は必要でしょ」
「できるもん! オレ待てくらいできるもん!!」
あたしの地を這うような声にカタカタ震えつつ泣きそうになりながら叫ぶオズワルド。最強ってなんだっけってなるんだけどこいつ。
「……妃殿下」
アシュヒトさんがオロオロしながら声をかけてくる。
「その、陛下も反省しておりますので、今日のところは……」
「そうやってオズワルドくんを甘やかしたのがワガママオレ様な魔王陛下誕生の引き金だったんじゃないの!? アシュヒトくんもそう言ってたよね!?」
「あ、はいスミマセン……あしゅひとくん」
「アシュヒトは悪くないもん!!」
「じゃあ誰が悪いの!」
「オレ!!」
「じゃあ何が悪かったか言ってみな!」
「えっと……いきなりオマエにキスしたこと!」
「行動だけ謝ったって意味ないでしょうがぁ!」
ばしん、と床を竹刀で叩くと、男2人は黙り込んだ。
……ったく。
「アシュヒトさん、魔素の量に変動は?」
「――ありません」
「……そう」
驚きながらも、ちゃんと返してくれるアシュヒトさん。オズワルドがノロノロ立ち上がったのをみて、あたしは竹刀を消した。
「悩んでても仕方ないし、とりあえず食事しながら話しましょ。ナガちゃん、朝ごはんまだ用意できる?」
「はいっ! お待ちくださいっ」
あたしの部屋を用意してくれた侍女ちゃんこと、ナガちゃんの名前を呼ぶと、顔を輝かせて頷いた彼女はパタパタと厨房へ消えていった。
「ナガちゃんいい子よね、こんなおばちゃんの言うことにも素直に従ってくれるし」
「おばちゃんって言うな」
ぼそっと呟くオズワルドの言葉は聞かなかったことにする。
すぐに運ばれてきたのは、サラダにあったかいパンとスープと、フルーツの盛り合わせ。
「……随分と豪勢にいったわねコレ……」
「王妃さまの朝ごはんですからっ!」
「位の違いを弁えよ、お前は誰の御前にいると心得る」
嬉しそうなナガちゃんに、アシュヒトさんが咳払いする。ビャッと震え上がったナガちゃんではなく、あたしはアシュヒトさんを睨んだ。
「ナガちゃんを怒らないで。あたしがいいって言ったのよ」
「妃殿下、お言葉ですが軽々しく下の者に口をきくものではございません。軽んじられます」
「この場にいる誰よりも力がないあたしと仲良くしてくれるだけでもありがたいのに、高飛車にいる理由がわかんないわ」
「……ユウリエさまは妃殿下であらせられます」
「位と力が比例してんのなら、妃殿下とやらも軽んじられて然るべきよね」
「……2人とも矛を納めろ。食事の時間だ」
あたしとアシュヒトさんとのやりとりを抑えたのはオズワルドだった。黙って頭を下げるアシュヒトさんに、気まずくなってあたしも頷く。
「……そね、ごめんなさいアシュヒトさん、あたしが言いすぎた」
「――いえ、……もうしわけございません」
「謝んないで」
そこだけは譲りたくなくて、あたしは一言伝える。
「アシュヒトさんは間違ったこと言ってないのよ。ただあたしは、仲良くしてくれる子の手を、できるだけ取りたいだけ。ワガママを許してもらえるなら、それが一番嬉しいの」
「……それは」
「まあそれは、今度ゆっくり話し合えばいいことよ!」
ポンと手を打って話を終わらせる。
「ご飯食べながら、今後のことを話しましょ!」




