文化交流の必要性を理解したので会話を増やそうと決意した
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「さっきあんた言ったわね。魔王の使命は魔界を富ませることだって。それが嫁と何の関係があるか知らないけど、あたしに嫁になれ、手を貸せっていうなら、嫁の育った環境に理解を示す努力くらいはしなさい」
「理解、と言われたって、知らんのだ」
その途方に暮れたような声で、思わず笑ってしまった。
「そーね、あんたもあたしも、お互いのことを知らないわ。だから知りましょう、時間をかけて。何が譲れないのか、逆にどこまで許容できるのか。どんなことに喜び、どんなことに怒るのか」
「……さっきの、」
ふと気づいたように、オズワルドは顔を上げる。
「もしかして、オマエは会話を聞かれるのが嫌だったから怒ったのか?」
「あら、よく気づいたわね」
なによ、こいつ初めてあたしのことを正面から見たわ。ようやく人と会話する気になったのね。
「人間ってね、勝手に心を読まれるのが一番イヤなのよ」
「それは、オマエの生きてきた世界じゃ、悪いことなんだな」
「ええ」
物覚えはいい。常識から離れた言葉にも耳を傾ける冷静さもある。
そうか、そうよね。こいつは根っからバカなわけじゃない。だから悪いことを悪いと、世の中には相手に合わせなければならないことがあるということを、誰かが教えてあげれば済んだ話なんだ。
「こっちの事情で言うと、聞かれて困るなら『ちょっと席外して』って言えばいいし、逆にこっちが席外せばいいでしょ? なのに知ってたら、『聞かれないように席を外してって言ったのに、なんでこそこそ聞いてたの?』って思うわけ」
「さっきの、聞かれたくなかったのか」
肩を落とすオズワルドの姿は、まるで落ち込んだドーベルマンだ。
笑いながら、あたしは首を振った。
「まあ、今回はそうじゃないわね。喧嘩した相手とずっと同じ部屋にいるのは嫌だし、顔を見てたら怒りは治らないでしょう?」
「……事実オマエ怒り出したもんな、オレが出てきた時」
「ええ。それに重なって、こっちじゃ『魔王は城の中でならどんな会話だって把握できる』って常識も知らなかったから、なんであんた人の会話にこそこそ聞き耳立ててんのよって思ったの。まあ実際は堂々と聞いてたんでしょうけどね」
「堂々と聞いていればいいのか?」
「バカね、堂々と聞いてたってこそこそ聞いてたって、こっちにはあんたの真意なんてわかんないんだから。普通にキモいわよ」
「きも……!?」
大袈裟に落ち込むオズワルドに、ふと疑問が湧いた。
……なんでこいつ、こんなにあたしを気遣うのよ。
「……しまった」
「……は?」
顔色が変わるオズワルド。
「お、オマエの思考を読んでしまった」
「……ああ、なるほどそう言うこともできるんだ。こりゃ浮気もできやしないわね」
「ううう浮気する気かっ!?」
「しないわよばっかじゃないの? そもそもどうやって浮気すんの、周りあたしの常識理解してんの1人もいやしないのよ?」
「そ、そうか……」
言われた言葉でいちいち一喜一憂。何なんだろう、コイツ。
「……だってオマエ、味方欲しいって言っただろ」
ボソリとオズワルドはうめいて、視線を床に落とした。
「そうよ? 嫌われながら生きてくのは真っ平」
「……オマエのいう味方は、オレのいう味方と違う、から。オマエが、オマエのいう味方が欲しいっていうなら、それは、魔王のオレがなるのが、いいって」
「力が全ての魔界で、あんたが最強だから?」
「そうだ」
問いかけに、まっすぐこちらを見て頷いたオズワルド。自分なりにあのあと考えたんだろう。歩み寄りには感謝しないとね。
「そーね、あんたが味方になってくれるなら心強いわ。でもね」
もう一歩、歩み寄って、あたしはオズワルドの髪を静かに撫でた。
ふわふわっとした柔らかい髪質。驚いたように目をみはるオズワルドに、あたしは笑いかけた。
「残念ながらあんたが魔王でなくても、心強いって今のセリフ、あたしの口から出てくると思うわよ?」
「……なんでだ」
「あんたがあたしの旦那様だから」
首を捻るオズワルドに、あたしはもう一度笑う。
「もう一生実家に帰れないかもしれない嫁が、これから新しく家族になってくれる夫に、言ってもらいたいセリフなのよ、今のは」
「オレが魔王であることより大事なのかそれは」
「そーよ、あたしにとってはね」
そう言って、それから彼の赤い瞳を見つめ続ける。
「誓って。あたしはあんたを信じる。だからあんたは、誰よりもあたしの味方でいて。
——言っとくけとあたし、裏切者には鬼と化すからね。さっき以上の修羅場が待ってると思いなさい」
「わわわわわ、わか、わかた」
「え、ええっ」
カタカタ震えながらコクコク頷くオズワルドに、アシュヒトさんが驚いたように声をあげた。
「へ、陛下が……人間の言うことを……きいた……?」
「……いや、アシュヒト、違う」
なぜかあたしよりちっちゃくなったオズワルドが、はっきりと言い返す。
「妻が欲しいと言った味方がそう言うものなら、オレは夫としてそうなる」
キッパリ言ったあと、ぼそっと続けた。
「……いやまあ、いまだに味方って何かよくわかってないんだが」




