旦那の側近が話しかけてきたので旦那の実家について聞いたら意味不明だった
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部屋を出てすぐ、そばにいた侍女と思しき鱗肌の娘に問いかける。
「ちょっと、仮眠室とかある? 一晩過ごせる部屋貸して欲しいんだけど……」
「え、あ、えと……」
困った顔の子に苦笑する。まあそりゃそうよね、初対面で主人怒鳴りつけた女とか。
「ていうか、敵意向けられないだけマシかぁ。
ごめんごめん、仕事の邪魔して。ダイジョーブよ、気にしないで」
しゃーない、誰もいない倉庫かなんか借りるか。
これでも転生前は新聞社勤で、わりかし激務も経験してる。一晩明かして、それから考えよう。
「妃殿下は今夜からしばらく、陛下と寝所を別にされる。3階に空き部屋があったろう、すぐに支度せよ」
不意に背後から聞こえた声に、飛び上がった侍女の子が大慌てでお辞儀して駆け出していく。
「妃殿下、ご案内いたします」
振り返れば、後ろには黒髪メガネののっぽさんがいた。さっきまでオズワルドの寝所にいた人だ。どうして出てきたのかしらと、思わず問いかける。
「妃殿下って、あたし?」
「殿下は先ほど陛下と婚姻の儀式を交わされたばかりでは」
メガネさんは怪訝そうに言う。これ絶対、素でやってるのに嫌味だと思われちゃうタイプの人だ。
「申し遅れました。私はアシュヒト。魔王陛下の部下で、現在は警護を務めております」
「はあ、アシュヒトさん」
「陛下はお疲れのご様子でしたので、妃殿下も別室にてお休みいただくようご用意いたします」
言って、アシュヒトさんはこちらの前に立って歩き出した。ついていきながら、ふと引っ掛かる。部下ね。てことはさっきのあたしのキレ芸、思うところがあったかもしれない。
「ごめんなさいね、さっきの。自分の上司があんなふうに怒られたんじゃ、面白くなかったでしょ」
「……いえ。むしろ感謝しております」
「は?」
思わぬ反応に、咄嗟に変な声が出た。
そんなあたしに、アシュヒトさんは歩みを止めず、振り返りもせず続ける。
「陛下は魔界の最高権力者ですから。誰も止められなかったのです、昔から」
「なるほど?」
「魔界の常識をお持ちでない妃殿下は、ご自身の力が陛下に遠く及ばぬと知っていながらああして陛下をお叱りになった」
……今ナチュラルにディスられた気がすんだけど。まあいいや。聞こえなかったことにしとこうっと。
「陛下も驚かれたでしょうが、不快ではなかったと私は思います。……いえ、私が陛下の心を慮るなど、畏れ多いことですが」
なるほどね。つまり、自分と同じ文化の中じゃ怒られることもなかっただろうに、違う文化圏から嫁が来たせいで、そのカルチャーショックが強い、と。
「でもさ、嫁にあたしをくれって言ったの、あんたたちのほうなんでしょ? あたし言ってたはずだもんね、『絶対イヤ』って」
「……それは……ご存じないので?」
振り返り、アシュヒトさんが怪訝そうに首をかしげる。
「前魔王様は、人間界の勇者に討たれているのです」
父親が人間に殺されている?
いわれて、ふと、思い出す。
ユウリエ、本物の「ユウリエ・サルバレディア」の父は、魔王討伐に功のある稀代の魔術師だ。
おかしい。考えてみれば説明がつかない。魔王は倒したはずなのにどうして、ユウリエは魔王と名乗るオズワルドに嫁ぐ羽目になったのか。
「……いえ、陛下は前魔王様と直接の血の繋がりはございません」
何か言いかけてやめて、言葉を選ぶような態度と言い方。アシュヒトさんは咳払いし、続けた。
「陛下は、前魔王様と争い勝利し、子のない前魔王様の後継者の座を勝ち取ったのです」
「えっと、よくわかんないんだけど」
魔界の常識ってなんでこんな殺伐として意味不明なわけ? という顔をしているのがわかったらしく、アシュヒトさんは困った顔をしている。
——と。
「魔王は魔界を富ますのが使命だ」
背後から聞こえた声は、オズワルドのものだった。
——その言葉、どう考えても嫌な予感しかしないんだけど。




