トマの日記~エチエンヌ・その1
夏休みは例年どうり、ヴァンサンと過ごした。
いつもなら、ママとその時の恋人が参加するんだけど、今年は二人だ。
ふたりして、海岸で毎日寝そべって過ごした。
そんな夏休みも終わり、新学期が始まろうとしていた時、ママがギリシャにいるらしいと
いう情報が入った。
ヴァンサンは、仕事もほったらかして、とにかくギリシャにいくつもりのようだった。
ただ、僕の事が気がかりのようだったので、
「一人なんてなれてるよ。もう赤ん坊じゃないんだから。心配しないで。」
といってあげた。もちろん。本当。なれてる。
生まれた時から僕は、そんな環境下にあったんだから。いまさらだと思った。
ヴァンサンは、小まめに連絡するから夜に出歩いたりしなように。と言いつけていった。
新学期になると、もう僕の噂話をするやつはいなくなった。
つまり、ドミニクから僕へのメモのせいで、僕が年上の男と付き合ってるらしいっていう
ことになってしまってたんだ。
でも、僕へのメモもあれっきりだし、みんなそんな話にはあきたようだ。
とりあえずは、よかった。
学校が終わると、家に帰り、マダム・ロフェリンが用意しておいてくれた食事をとり、
いいつけどうりに夜は家から出なかった。
夜の長さを初めて知った。屋根裏部屋のアーチ型の窓をあけて、星を眺めて過ごした。
秋が終わろうとしていた。
「こっそりと冬がしのびよってるよ。ごらん、トマ。」
と、ヴァンサンの暖かみのある声が耳によみがえっきた。よく二人寝そべって
星を眺めて夜を過ごしたな。小さい時からここが僕はお気に入りで、ヴァンサンは、
小さな僕を抱いてこの屋根裏に運んでくれた。大きくなってからも、僕はヴァンサンと
ここへ登って星を見上げた。
夜の風がからだを冷やしてきた。でも、もう、ヴァンサンが僕を抱きしめて温めてくれない。
窓を閉めると、部屋はひんやりと、真っ暗で、ひどく静かだ。
この闇さえ二人でいた時は何かこころ落ち着くものだったのに。
いまは、ただ、静かで、化石のように感じた。
ベッドで物思いにふけっていると、突然、二人の同級生が僕の真後ろでわざと聞こえるように
妙な話をしていたのを思い出した。
『教えてやれよ。あの駅の事。』
あの駅にいけば、ふられてしまって可愛そうな僕に新しい恋人ができる、との事だった。
「あの駅にいけば・・・」
いつのまにか、何度もその事を考えるようになっていた。




