トマの日記~ロマン・その4
家にいるとヴァンサンがギリシャにくるようにとうるさいのでもう連絡しないでといって
おいた。もう僕は一人でやっていくと。
それでもヴァンサンはギリシャにくるようにと、しつこく連絡してくるのでエティエンヌに
事情を話して、週末以外も彼の家で過ごすことにした。彼は、何か言いたそうな顔をしたが
結局何もいわずに僕の望みを承諾してくれた。こうして、毎日、彼の横で眠ることができる
ようになった。実際、僕はすごく嬉しかったけど、エティエンヌは本当はどう思っているん
だろうかと毎夜、彼の傍らで眠りながら考えた。
エティエンヌはロマンが現れて以来、ますます口数が少なくなり、時折どこか、具合が悪そう
な日もあったから休養してほしいと頼んでも、彼は診療所へと出かけていく事をやめない。
ロマンは友達と出かけたり、時折、友達を集めてドンチャン騒ぎをする。
そのたびに僕は、ロマンにこき使われた。
時間だけがなんとなく過ぎていく。僕はいったいどうしたいんだか、もう自分でもわからなく
なっていた。
夏休み、昨年はヴァンサンと二人だった。
今年はそれが三人になった。しかも、ロマンの知りあいが持っている地中海の小島の別荘
を貸してもらえることになった。
「もちろん、いくだろうね。」
ロマンの念押しにエティエンヌも僕も返事をしなかった。ロマンは僕達を非難しながらも、
結局は三人で出かける手はずをさっさと、とっていった。
そこは、ほんとに海がすぐそばにある小さな島で、島の高台に別荘が立ち並んでいる。
綺麗なところでほんとに夏を三人で楽しめそうだった。
ロマンの友達の別荘には、ありとあらゆる箇所に大きな鏡があった。
まるで、僕達を監視してるみたいだ。
それ以外は快適な環境だったのでエティエンヌにはいい休養になるかもしれない、とは思った。
料理はロマンと僕が担当して、エティエンヌはテラスで本を読んでいるか、少し散歩に
出たりしていた。
部屋はたくさんあったので、一人ずつ割り当てられたけど、僕はエティエンヌのベッド
で眠った。
僕がいくら彼のからだの具合を心配しても、
「大丈夫だよ。トマ。私は医師だよ。心配しなくていい。」
といって取り合わない。
僕は、だからせめて彼の青白いからだを少しでも温めたいと彼の体にまとわりついて眠った。
ある日、ロマンが三人で浜へ出ようと言い出した。
エティエンヌは嫌がったけど、結局、ロマンの計画が実行された。
浜まではすぐだし、エティエンヌには大きなパラソルがあてがわれ、彼はその下で本を読ん
だり、眠ったりしていた。
僕達はというと、浜で子供のようにはしゃいだり泳いだりした。散々遊び回ってエティエンヌ
のパラソルの影の下で休んでいると、ロマンが遠くにかすんでみえる隣の島まだ泳いでいこうと
言い出した。僕は泳ぐのが好きだったので、すぐに同意して二人してその島を目指した。
海との格闘は楽しかった。意外と早くその島に泳ぎついたので驚いた。かなり息はあがったけど
達成感で僕とロマンははしゃいでいた。
浜の奥まったところに誰もいない小屋があったのでそこで休もうという事になった。
そこには、水道もひかれてあったのでそれでお互いの体を洗いあった。
ロマンも上機嫌。僕も上機嫌。お互いの体を洗いあっているうちに、何だかへんな気分
が体の奥底からやってきて、はしゃいでいた僕達はいつのまにか裸のまま抱き合って
キスをしていた。彼のたくましい腕が僕を包み込んだ。最初は優しく、やがて僕の体を
へしおるつもりかと思うほどきつく。そして、僕達は夢中でお互いを求めあっていた。
やがて、二人して眠ってしまい、気づいた時には夕暮れが迫っていた。僕達二人は
大慌てで、もとの島に向かって泳ぎだした。太陽が沈みこんでしまう前に辿り着きたい。
オレンジ色の太陽が僕達を照らしていた。時折、顔を見合わせるとロマンが笑っていた。
僕もなんだか楽しくなって笑い返した。
なんとか太陽が沈んでしまう前に岸についたけど、エティエンヌはもういなかった。
ロマンは上機嫌だったけど、僕は急にひどい後ろめたさに襲われた。
別荘につくと、エティエンヌが夕食を用意してくれていた。そして戻った僕達に
「楽しかったかね?」とだけいう。ロマンが
「ああ!最高だったよ。意外と近いぜ。次はいっしょにどうだい?」
というと、
「いけたらいいが、あいにく泳ぐのは得意じゃないんだ。二人でいきたまえ。」
とだけいって、食事の給仕をしてくれた。僕はこっそりエティエンヌの様子をみつめて
いた。ロマンがなんの屈託もないような感じで、
「舟で僕達の横を伴走しろよ。」と続けたので、
「そうだよ!いっしょにいこうよ!」
僕もなんとか彼を説得しようと試みたけど、無駄だった。
彼は、そそくさと食器の片付けを始めた。
「なんだよ。全く。楽しいのにな。なあ、トマ。」
とロマンもいうので僕もうなづき、話はそのまま島の話で盛り上がった。
不安な空気は一つもなく、僕達三人の不思議な関係がなんだか自然に感じられた。
夜も、お休みのキスをして僕とエティエンヌはいつもどうりに眠った。
波の音が遠くから聞こえ、海風が白いカーテンを揺らす。
僕は、エティエンヌの背中に顔をうずめ彼の心臓の音を聞きながら眠った。
だから、戻った時に感じた後ろめたさはどこかへふっとんでしまっていた。
次の日もその次の日も、僕たちはあの島へ泳ぎにいった。夏の日差しと解放感が僕を
何も見えなくしていたんだと思う。




