8章 なんちゃって診療録 <33-2-1> 私の病院仲間たち― 『ヤワラちゃん』と呼ばれたナースのAさん その1
<33-2-1> 私の病院仲間たち― 『ヤワラちゃん』と呼ばれたナースのAさん その1
医療の現場で、医師と最も近い距離で働くのは誰かといえば、やはり看護師でしょう。
外来でも病棟でも、診察の合間でも回診の途中でも、医師のすぐそばにはたいてい看護師がいます。患者さんの次に多く顔を合わせるのは、間違いなく看護師だといえるでしょう。
長い臨床生活の中で、私は実に多くの看護師と出会ってきました。その中でも、とりわけ印象深く記憶に残っている人がいます。
ナースのAさんです。
彼女と出会ったのは、私が四十代のころ、ある病院に院長として赴任したときのことでした。
Aさんは小柄で、当時国民的な人気者だった柔道家の谷亮子さんにどこかよく似ていました。そのため職員の間では自然と「ヤワラちゃん」という愛称で呼ばれていました。
見た目は小柄で愛嬌がありますが、芯の強い女性でした。私より少し年上で、熱心なクリスチャンでもあり、いつも穏やかな笑顔を絶やしませんでした。
しかしその一方で、自分の意見ははっきりと主張する人でもありました。優しさと意志の強さを併せ持つ、なかなか魅力的な看護師でした。
そんな彼女には、ひとつ強い関心事がありました。「ホスピス医療」です。
当時、日本ではまだホスピスという言葉さえ一般的ではない時代でした。しかしAさんは、回診に付き添うたびに私の顔を見て、ぽつりと言うのです。
「ホスピスって、いいですね」
まるで独り言のように、しかしどこか期待を込めた目で私を見るのです。私はそのたびに「そうですね」と曖昧に答えながら、内心では不思議に思っていました。
その理由は、後日、分かりました。
ある日、Aさんが院長室を訪ねてきたときのことです。
私はたまたま席を外していましたが、机の上には読みかけのホスピスの本が何冊か置いてありました。Aさんはそれを見た瞬間、「やはり院長先生はホスピスを考えている」と確信したのです。
それからというもの、回診のたびに「ホスピスっていいですね」と言うようになったのです。いわば静かな後押しだったのかもしれません。
そしてついに、運命の日がやってきました。
いつものように病棟回診をしていたときのことです。
患者さんの診察を終えて病室を出たとき、ふとAさんと目が合いました。その瞬間、なぜか胸の奥にひらめくものがありました。
私は思わず口にしました。
「ホスピスをやろうか」
するとAさんは、まるでその言葉をずっと待っていたかのように、満面の笑みで答えました。
「院長先生、やりましょう!」
こうして私たちのホスピス病棟づくりが始まったのです。
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│ 《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│ 《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│ 『神との対話』との対話 英訳版
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