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第26話 委員長は高貴である

「私の方は、今日からテスト週間なの」


 翌日の朝。

 自宅を後にした岸本和樹(きしもと/かずき)は学校へと向かって歩いていた。


「俺の方では、まだなんだよな。今日からテスト週間ってことは早めに帰宅してくるのか?」

「んー、どうかな? 真帆ちゃんと一緒に学校の図書館で勉強するつもりなの。でも、それは真帆ちゃん次第かな。でも、多分ね、学校で勉強するつもりだよ」


 隣を一緒に歩いている妹の(さき)は首を傾げつつ、曖昧な言葉遣いになっていた。


「学校でか」

「そう。だから、普段よりも遅くなるかも」

「わかった。じゃあ、俺が夕食を作っておく?」

「いいの? じゃあ、お願いしようかな。どんな夕食かは聞かないでおくね! その時の楽しみにとっておくから」

「OK、そういうことでな。じゃあ、学校にいる時にどんな料理にするか考えておかないとな」


 和樹は腕組をしながら、夕食の食材について考え込んでいた。


「お兄ちゃんの方は、いつからテスト週間なの?」

「俺の方は来週から」

「そうなんだ。でも、ちゃんと勉強しないとね! お兄ちゃんなら大丈夫だと思うけど」

「まあな、今回は上手くいきそうな予感がするんだ」

「じゃ、良かったね。私、応援しておくね」


 妹は笑顔を向けてくれたのだ。


「私、もう行くね! 私の学校はこっちだから」

「じゃあ、また夕方な」

「うん!」


 咲は走りながら振り返り、手を振って立ち去って行く。


「ちゃんと前を向いて、転ばないようにな」


 和樹は最後に一言告げておいた。


 和樹は一人になる。

 通学路を歩きながら、今日の夕食の事について考え始めた。


 カレーでもいいよな。

 でも、普通すぎるかな?


 季節は夏という事もあって、カレーを食べたいという気分なのである。

 今、和樹と妹の咲は、ほぼ同時期にテスト週間に突入し始めているのだ。


 勝てるという意味合いも込めて、かつ丼でもいい気もする。


 かつ丼……いや、だったら、カツカレーの方がいいか。


 脳内に色々な妄想が膨らんでいく。


 そうだな、今日はカツカレーだな。


 和樹の心の中で結論に辿り着いた瞬間だった。


 気が付けば、和樹と同じ学校指定の制服を着た人らと遭遇する回数が増え始めていたのだ。


 そんな中、曲がり角で稲葉玲奈(いなば/れな)と出会う。


「おはよう、和樹君」

「おはよう!」


 互いに視線が合い、挨拶を交わした後で、通学路の途中から一緒に登校する事となったのである。




「あの後って、何もなかった?」

「うん、何もなかったよ。変なことも起きなかったし」


 隣を歩いている玲奈は少し考え込むような表情を見せ、右手を顎の部分に当てながら答えていた。


 昨日は怪しい人物がいたのだ。

 それは男性である事は間違いないのだが、未だに正体不明の存在だった。


 今後、玲奈の身に何もなければいいのだが。


「ならよかったけど。約束通り、今日も一緒に帰ろうか?」

「そうね。和樹君の方は、特に用事とかないの?」


 逆に彼女から問われる。


「俺はちょっと寄るところがあって。そうだ、今日はカレーを作る予定だからさ、一緒にスーパーで食材を選んでほしいんだけど」

「わかったわ。そういう事なら」


 玲奈は気さくな反応を見せると、すぐに承諾してくれていた。


「今日は、俺の家に来る?」

「でも、いきなりお邪魔してもいい感じなの?」

「まあ、無理強いはしないけど」


 昨日、玲奈とさらなる一線を越えられると思っていたのだが、急な訪問者の存在により、それが妨害されていた。


 今日こそはという如何わしい思い抱きながら、自然な流れで誘ったのだが、こればかりは彼女の判断に委ねるしかないだろう。


「今日はちょっと家族同士で夜は外食するかも。昨日の夕食の時にね、両親からそんな話があって」

「そうなんだ。じゃあ、スーパーに立ち寄らない方がいい?」

「大丈夫よ。六時半まで帰宅すればいいし。私、寄り道はOKだから。ただ、一緒に夕食は無理ってことかな」

「わ、分かった……じゃあ、それについてはまた今度ね」


 和樹は彼女のスケジュールを理解し、諦める事にした。


 それにしても、デカいな。


 歩いているだけでも、隣にいる玲奈のおっぱいは揺れている。

 彼女は着やせしやすいスタイルでかつ、ブラジャーにより少々小さく見えているものの、現物は途轍もなく大きいのだ。


 朝からヘンタイな思考は辞め、紳士的な顔つきになり、彼女と共に通学路を歩き続けるのだった。




 二人が通学路を歩いていると、ようやく学校の敷地内の一部が見え始める。

 そんな時、その近くの車道を通過していく一台の高級車があった。


「凄いね、誰の車だろ」


 和樹は高級車を間近で見るのは初めてだった。


「多分、西園寺さんの車だと思うよ」

「え? 委員長の?」

「そうだよ。去年ね、一緒に帰る事になって、一回だけ乗せてもらったことがあるもの」

「へえ、あの高級車に」


 和樹は過ぎ去って行く高級車の後ろ側を見入っていた。


 確かに振り返れば、智絵理はフライドチキン屋に付き添いの男性と一緒に訪れていたのだ。

 玲奈の話を聞いて、素直に納得していた。


 二人も少し早歩きで、校舎の校門まで向かう。

 すると、そこには先ほどの高級車が止まっており、その中から委員長である西園寺智絵理(さいおんじ/ちえり)が出てきたのだ。


 朝っぱらから清潔な制服を綺麗に着こなしており、高級車からの降り方も素晴らしいものだった。

 やはり、優雅な態度は崩すことなく、人が見えるところでも、見えないところであったとしても、その立ち振る舞いは高貴な感じだ。


「おはようございます。二人とも」


 和樹と玲奈の存在に気づいたのか、挨拶してきたのだ。


 いきなりの事に驚くが、和樹は声を震わせながら返答する。

 玲奈は、いつも通りに挨拶をしていた。


「それと、他の人も、おはようございます」


 智絵理は二学年のクラス委員長なのだが、意外にも生徒役員並みの知名度を保持しており、周囲にいる人らも、目の瞳孔を広げ、笑顔で返答していた。


「智絵理さま。また放課後もお迎えに参ります」

「はい、お願いしますね。時間が変わりましたら、こちらから連絡するわ」

「はッ、承知いたしました」


 高級車から降りて来た付き添いの男性は、智絵理に軽く頭を下げていた。


 智絵理はいわゆるお嬢様育ちであり、付き添いの人も彼女に対して最善の配慮をしているのだ。


 智絵理が歩き出した時にも、付き添いの人は数分の間だけ背後から見守っていた。


「凄いね、委員長って」

「そうね。お嬢様育ちでも、勉強も含め運動も出来るんだから。私の目から見ても、かなり完璧な人だと思ってるわ」


 智絵理と普段から交流のある玲奈も、忖度無しにしっかりとした評価を下していた。


「俺らも行こうか」

「そうね」


 二人は歩き出す。

 校舎に向かって――


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