第27話 去年の闇を知った和樹は――
昼休み。
岸本和樹は一人で学校の購買部を後にしていたのだ。
今日、購入したのは、いつも通りのパンだった。
これから一人で昼食を取るつもりで、一先ず購買部近くの廊下に設置された自販機で飲み物を購入する。
稲葉玲奈は別の友達から昼食を誘われたらしく、今日は別行動をしていたのだ。
和樹は自販機の取り出し口から紙パック製のコーヒー牛乳を手にすると、校舎の裏庭に向かって歩き出す。
裏庭に向かうためには一応、中庭を通らないといけないわけで、和樹はそこを歩いていると、丁度、近くのベンチに座っている彼女と視線が合った。
「……」
「……」
そのベンチに座っていたのは、中原梨花だった。
和樹からしても久しぶりの遭遇であり、一瞬、ビクッとして、その場に立ち止まってしまう。
互いに目線を合わせたまま無言になり、和樹からしてもどうすればいいのか困惑していたのだ。
「……なに?」
気まずい空気感が漂っていたが、それを打ち破るように、彼女の方から話しかけてくる。
「い、いや、何も」
和樹は少し後ずさりながら返答する。
「……」
中庭のベンチに座る彼女は和樹の様子を伺っており、その瞳は悲し気だった。
梨花は、あの一件以来、友達との信頼も失い、ほぼ孤独状態なのだ。
少しは同情したくもなるような落ちぶれ具合であり、見ているだけでも、彼女の苦しみに、和樹自身も襲われそうになっていた。
和樹は視線を逸らしたくなったが、なぜか、その場に止まり続けていたのだ。
今の彼女は、去年のミスコンで優勝した時の風貌とはかけ離れている。
「何よ、何見てるのよ……」
梨花は不満そうな顔を浮かべ、食べかけのパンを手にしたまま和樹の事を睨んでいた。
「ごめん」
「急に謝られても、意味が分からないんだけど……」
梨花は苦虫を噛みしめた顔をして、苦し紛れの言葉を漏らしているようだった。
「私、もう一人でいいし」
彼女は不満そうに愚痴をはきだしていた。
んー、なんていうかな。
もう彼女とは関わらないと思っていたが、こんな姿を見てしまったら、この場から立ち去るというのも気が引けてきたのだ。
「なに? 私の方ばかり見て、もしかして……考え直してくれたの?」
「そんなわけないけど。あのカフェ店内での出来事もあるし。付き合う事はないと思うよ」
和樹は即答だった。
「じゃあ、なんで、私の方を見てるのよ。だったら、もう別にいいでしょ」
梨花はぶっきら棒な話し方をする。
「なんか、ちょっとな、心配になったっていうか。でも、今の様子を見ていると、そんな必要性はないな。そんなに攻撃的になるならね」
「……」
梨花は、和樹へ向けていた視線を逸らすと、不満そうな顔付きで、少しだけパンを食べ始めていた。
和樹もこれ以上、彼女と関わる事はないと思い、決心を固め、その場所から立ち去る事にしたのだ。
和樹がその裏庭に向かうと、誰かの気配を感じた。
何か重要な話をしているらしく、男女の話し声が聞こえてきたのだ。
和樹は咄嗟の判断で校舎の壁に背をつけ、姿を隠す。
「だからさ。今年は君に優勝させたいんだ」
「でも、だからと言って――」
隠れて、その場所にいる人らのやり取り内容を聞いていると、どこか聞き覚えがあった。
一人は、委員長の西園寺智絵理らしき声。
もう一人は、多分、口調的に男性のように思えたのだ。
今のところ、姿をハッキリと見ていない状況では、憶測の域を超える事はなかった。
「私は、そんなこと望んでないわ。私そこまでミスコンで優勝したいとか思ってないから」
委員長らしき声の持ち主の子は強気な口調で、その男性に言い放っていた。
普段、目にする彼女の雰囲気とは全然違う。
もしかして、別人?
委員長じゃないとか?
実際に、その先に誰がいるのかわからない時点で、具体的な結論は出せなかった。
その先の光景を見たいけれども、そこにいる人らと視線が合ってしまうのも怖い。
後々面倒事にも発展させたくないと思い、そのまま和樹は壁に背を付けたまま、モヤモヤと悩み込んでいたのだ。
「だからさ、去年だって。君が勝てたはずなんだ!」
「え……どういう意味?」
その男性は迫真の声に、委員長であろう人が素っ頓狂な声を出していた。
「それはさ。去年、優勝した奴がいただろ。そいつの衣装を隠しておいたんだ。なんかわからないけど、そいつが衣装を見つけやがって」
「え? あ、あなたは、なんでそんなことをしたのよ! それ、バレたら危ないじゃない!」
「でも、別にバレないだろ。そんなの余裕さ。今のところ、俺がやった事なんて誰も知らないのさ。一応、君は知っているわけだから、同罪ってことになるけどね」
「そ、それ卑怯よ。勝手に私に押し付けて」
委員長らしき子は震えた声を出している。
衝撃的な事実に、その事を耳にしていた和樹も、心臓が掴まれた気分に陥っていたのだ。
え……とういうことは、あの時、梨花の衣装がなくなったのは、そいつのせいだったのか?
結果として衣装は見つかり、去年は梨花が優勝する事となった。
もし、見つかっていなかったら委員長が優勝していたという事になる。
実際、委員長が優勝しても問題はなかったと思う。
委員長の西園寺智絵理も、梨花に劣らないほどの容姿をしているからだ。
で、でも、この話が本当ってことは、元から仕組まれていたってことか。
和樹はその場で悩み込む。
今日の昼は、裏庭でゆっくりと昼食を取ろうとしていたのだが、そんな状況ではないと思った。
しかし、この情報を知ったとしても和樹自身には何も出来ない。
「だから、心配するなって。お前も元々俺に好意があったんだろ。従っていればいいさ」
「けど、私はそんなのに従う気もありませんし。あなたに対し、そんな好意もないですから」
「でも、去年の秘密を知ったからには、お前も同罪である事は変わらないからな」
その男性に圧倒されているようで、委員長らしき子も声を出せなくなっていた。
「まあ、昼休み時間もまだある事だし、今から別の場所に移動しようか」
そんな声が裏庭の方から聞こえ、和樹は咄嗟にその場から逃げ出す。
二人と接触する前に校舎の中庭のところまで移動し、すぐにベンチに座って平然を装っていたのだ。
和樹が中庭のベンチで座り、パンを食べ始めた頃合いには、さっき会話したであろう二人の姿があった。
二人は中庭を通過し、校舎へと向かって行く。
やっぱり、委員長だったのか……。
それと、隣にいる人は誰なんだろ。
見たことのない男子生徒ではあったが、どこか既視感を、和樹は心の中で感じていたのだった。




