第24話 怪しい影…?
その日の放課後。
岸本和樹は玲奈と共に帰路についていた。
今日あった体育の件で、稲葉玲奈はクラスの中でも注目の的になっていたのだ。
そういったこともあってか、彼女は嬉しそうだった。
「和樹君、今日はどこかに寄って行かない?」
テンション高めな彼女。
「調子良さそうだね」
「だって、今日の体育で新記録を出せたし。これで夏休みは安泰だと思うわ。でも、来週からは他の二期試験もあるから、油断はできないんだけどね。テスト週間中だと遊べなくなるわけだし、今週中に遊んでおきたいじゃない?」
「確かにね、テストは真剣にやらないといけないしね。遊べる時に遊んでおかないと。じゃあ、どうしようかな」
和樹は通学路を歩いている最中、考え込んでいた。
来週から本格的な試験が行われるのだ。
今日実行された体育の試験は前倒しで行う事になっているらしく、今週中の金曜日にも後半となる体育の試験が用意されているのだ。
今週中は特に大きな行事はなく、比較的まったり出来る時であり、玲奈の意見同様遊んでおいた方がいいと思った。
高校生の放課後と言えば、ファミレスに立ち寄るのが定番なのだと、和樹は歩きながら、その結論に辿り着いたのだ。
「ちょっと待って」
和樹は彼女と共に歩きながら、制服のポケットからスマホを取り出して検索をかける。
「この近くにファミレスがあるみたいだし。そこに寄ってく?」
「いいね。じゃあ、そこに行こ」
玲奈も乗り気なようで、和樹の腕に抱きついてきたのだ。
和樹は彼女の胸の膨らみを感じながら、目的地へと向かって歩き出した時、誰かの気配を背後から感じたような気がした。
けれど、周りを見渡すが、誰の姿もなかったのだ。
学校の通りから少し離れた場所に、そのファミレスがある。
学校からは徒歩で十五分くらいであり、比較近場だ。
もしかしたら、バッタリと同じ学校の生徒に出くわしてしまうかもしれないが、学年が異なれば多分問題はないはずだ。
クラスメイトだったとしても、友達として関わっているだけと伝えればいいだけ。
そう考えながら、和樹は玲奈のためにファミレスの扉を開けてあげたのだ。
「いらっしゃいませー」
二人が店内に入った瞬間、店の奥から女性のスタッフが出てくる。
「お客様は二名でしょうか?」
「はい」
和樹は頷くように言った。
「では、こちらにご案内致しますね」
店員から案内された場所は、近く窓のない店内の中心らへんの席だった。
二人は向き合うようにソファに座る。
「こちらがメニュー表になります。お決まりになりましたら、そちらのボタンを押して頂ければよろしいので」
簡易的な説明をし終わった後、笑顔を見せて店員は立ち去って行く。
「和樹君は何にする? 私はね――」
玲奈はメニュー表を前に、楽し気な口調で注文したい品を選んでいた。
和樹も一緒になって悩んでいたのだが、その時にも誰かの視線を感じたのだ。
……なんでもないか。
和樹は首を横に振る。
「どうかしたの? さっきから悩み事?」
「そ、そうだね。そんな感じ」
「何かあるなら、私が聞いてあげよっか?」
「いいよ。大したことじゃないし」
「そう? なら、いいんだけどね」
玲奈はあっさりとした口調で、愛嬌のある笑みを見せてくれた。
「それより、この料理美味しそうじゃない?」
玲奈はメニュー表にあるパフェを指さしていた。
かなりの特大的な見た目をしており、食べきれるかどうか怪しい。
「私はこれを食べたいなぁって。でも、全部食べきれないと思うから、和樹君も一緒にどうかな?」
「俺も? まあ、今日は運動とか結構やったから、食べれそうかもな。じゃ、それを注文していいよ」
「やった。和樹君は?」
「俺は単品で何かを頼もうかな、えっと……ね」
和樹はメニュー表をザッと眺め、丁度よい量の品を見つけたのだ。
「俺は、この大盛のポテトフライでいいかな」
和樹は、メニュー表に掲載された写真である、その料理の品を指さす。
「それでいい?」
「まあ、そうだね。玲奈さんは? サラダ&スープバーもあるけど、これは頼む? 一人六〇〇円らしいけど」
「そうね。一応頼もうかな。おかわりも自由なんでしょ?」
「そうそう」
和樹はテーブルのボタンを押し、先ほどの店員を呼び出して注文を終えるのだった。
「これって、美味しいね。和樹君も食べてみてよ」
すでにテーブル上には、注文した品々が出揃っていた。
その他に、サラダ&スープバーも個別で取りに行き、食事できる環境を整え終えていたのだ。
そのテーブルを挟み。玲奈は、先端が小さく取っ手のところが細長いスプーンで、パフェの一部を掬い、和樹の口元へと近づけていた。
「食べていいの?」
「いいよ」
玲奈はニコッリと笑みを見せている。
和樹はそのスプーンに口を近づけ、口の中に入れた。
クリームとチョコ、それからクッキーの味も入り混じり、和樹の口内は最高潮に仕上がっていたのだ。
クッキーを嚙み砕いて食べているだけで、その美味しさがさらに口内に広がって行くようだった。
「私も食べてみよ♡」
和樹がパフェの味を堪能している時には、玲奈がパフェの一部を、そのスプーンで掬い、口へと頬張っていたのだ。
「和樹君と同じスプーンで食べちゃったけど、いいよね♡」
玲奈は頬を紅潮させていた。
和樹も、そんな彼女の表情を見て、どぎまぎしてしまう。
真正面から、そんな表情で言われてしまうと逆に意識してしまい、玲奈と視線を合わせられなくなっていた。
「美味しかったね」
「そうだね。また時間があったら、また来ようね!」
会計を済ませ、二人はファミレスの外にいた。
二人で共に楽しく道を歩き始めると、何か違和を感じたのだ。
和樹はやはり、その違和感は確実に近くに存在すると思い、パッと振り返る。
すると、黒い服を着て、黒いマスクをした謎の人物が佇んでいたのだ。
しかも、サングラスまでつけていた事で誰なのか素性は不明である。
現状わかる情報としては、その人物が黒髪のショートヘアであること。
だが、男性でも女性でも黒髪のショートヘアはいる。
性別の特定までは出来なかったのだ。
「というか、さっきから後をつけていたよね」
「……」
和樹の問いかけに、その人物は無言で押し切ろうとしているようで、進展ある返答は貰えなかった。
「もしかして、さっきから和樹君が気にしていたことって、この事なの?」
「まあ、そういうこと。学校の通学路を歩いている最中から、何かヘンだと思ってたんだよね。というか、俺らに何か用なの?」
「……」
その人物は無言のまま殴りかかって来た。
しかし、その攻撃対象として選ばれたのは、和樹ではなく、玲奈の方だったのだ。
な、なんで⁉
和樹は一瞬、意味が分からなかったのだが、咄嗟に体が動く。
この頃、運動していた事も相まって、身体能力が少しだけ高まっているようだった。
和樹は彼女を守るように盾になる。
体の動きが良かったとしても、攻撃できる技は持ち合わせていないのだ。
「クソッ……ッ」
その人物の声質的に、男性らしい。
言葉を漏らした後、素性のバレを回避するために再び無言になる。
これ以上は難しいと判断したのか、その怪しい動きを見せる男性は、来た道を辿るように立ち去って行ったのだ。
「な、なんだったの?」
「さあ、わからない」
二人はその道で呆然としていた。
「それより、怪我はしてない?」
「……大丈夫そうだね。どこも痛くないし……」
和樹は自身の両腕を確認していた。
「え? でも、ちょっと左腕のところが赤くなってない?」
「いや、大丈夫さ」
「ちょっと心配だし、私の家に来る?」
玲奈から強めの口調で説得され、ここは彼女の意見に従おうと思い、和樹は稲葉家へ向かう事にしたのである。




